2011年06月24日

●「日本の官僚制度の特殊性がある」(EJ第3084号)

 ウォルフレン氏のいうところの「管理者たち/アドミニストレ
ーターズ」の中心は官僚です。日本の官僚制度は、何度もいうよ
うに、政治的野心を持った明治の強力な指導者──主として薩長
重鎮たちによって作られたのです。
 しかし、彼らは民主主義の信奉者ではなく、独裁的な支配者で
あったのです。彼らは自分たちの作った「天皇の下僕」の機構を
少数の人間で支配する寡頭制を選んだのです。しかし、それを次
世代に受け継ぐシステムを構築していなかったのです。
 そのためその権力者たちが死ぬと、彼らに任命された各省や枢
密院、それに軍の官僚たちは、そのあとを引き継いだのですが、
彼らは政治的に統一された新しい寡頭制度を構築しなかったので
す。そのため、それぞれの職務に権力が分散し、全体を取り仕切
る権力者がいなくなったのです。
 もとよりかたちのうえでは、最高の権力者は天皇ということに
なっており、官僚は天皇の下僕として位置づけられたのですが、
実際はそうではなかったのです。官僚たちは天皇の意思と称して
さまざまなことを勝手にやったのです。しかし、官僚を管理する
システムがないので、国全体としてはまるで政策の整合性がとれ
ず、ばらばらになってしまったのです。
 こういう日本の官僚制度について、ウォルフレン氏は次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の官僚制度が注目を余儀なくさせる側面、同時にきわめて
 恐ろしい側面は、それを管理するものがいないことだ。日本の
 市民は、なかなかこれを実感できない。私は、日本が他の国と
 異なると主張しているとしばしば批判される。日本で見られる
 政治現象は、たしかに他の国でも見られる。だが、強大な権力
 が公的な権力として規定されないまま闇のなかに据えおかれて
 いる度合いや、日本の社会が政治化されている度合い、また官
 僚の権力が管理されていない度合いは非常に大きく、その点で
 日本はまったく異質である。日本の市民は、官僚が日本ほど放
 任されている大国はないという事実に気づくべきだ。
      ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/鈴木主税訳
   『人間を幸福にしない日本というシステム』/OH!文庫
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、明治の権力者たちは議会制度を導入し、国民の選挙で
選ぶ政治家を登場させています。これは民主主義の制度です。こ
れと官僚制度をうまく組み合わせて機能させることは可能だった
のですが、彼らはそれをあえてしなかったのです。なぜなら、日
本の議会制度と法の仕組みは、日本を近代国家に見せかけるため
だけのものでしかなかったからです。
 明治の指導者たちの中には、巨大化する官僚機構の規制を強化
すべきと唱えるものもいたのですが、少数の権力者たちは、国民
を信頼せず、国民によって選ばれる政治家を警戒すべき対象とし
たのです。そのため、自由民権運動をはじめとする初期の政治活
動に対して徹底的に弾圧を加えたのです。これでは、徳川時代の
封建体制と何も変わらなかったわけです。
 ウォルフレン氏は、官僚の権力を野放しにして日本に起こった
悲劇として太平洋戦争を上げています。この戦争は、軍の官僚が
仕組んだものであり、それらの官僚へのコントロールが効かなく
なった結果起こったものなのです。
 日本が、当時の日本の国力の10倍以上の工業力を持つ米国に
対して戦争を仕掛けても勝てるはずがないのです。しかし、官僚
が暴走すると、こういう悲劇が生まれるのです。それはまさに自
殺行為であったとウォルフレン氏はいっています。「国民が慈悲
深いはずの権力者に裏切られたまさに悲劇である」と。
 問題なのは、日本の官僚制度は現在も野放しであることです。
なぜなら、官僚に対して政治的な管理がなされていないのは、昔
と何ら変わっていないからです。彼らは、強固な組織と情報と資
金を有しており、自分たちの身分と生活は法律で安全を保証され
ているのです。そして、彼らは日本を事実上コントロールしてい
るのです。しかし、国民にはその姿が確認されず、姿なき権力者
になっているわけです。
 そのため、政治家が革新的なことをやろうとすると、官僚側は
それが彼らにとって都合の悪いことであると、徹底的にそれを潰
そうとします。現在の民主党がやろうとした政策がことごとく実
現しないのは、野党ではなく、官僚──とくに財務省の協力が得
られないからなのです。自民党によって「バラマキ4K」と名づ
けられた民主党の主要政策は、それが継続されると、官僚が使え
るカネが減少し、財務省が危機感を感じたからなのです。
 かかる官僚機構に立ち向かうことは非常に困難なことです。公
務員改革制度が進まないことにそれがあらわれています。これに
ついては改めて取り上げるつもりです。
 1945年の終戦後において官僚制度はますます強固なものに
なります。それまで彼らの上には、絶対の権力者としての天皇が
存在していたのですが、終戦によって天皇は象徴天皇になったか
らです。それでいて、アメリカの占領軍は官僚制度をそのままの
かたちで残しています。これについて、ウォルフレン氏は次のよ
うに解説しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本にとって不幸だったのは、1945年の終戦後、アメリカ
 の占領軍が日本の実情を完全に誤解していたことだ。占領軍は
 日本の政治家もアメリカの場合と同様に官僚を支配すると思い
 込んでいた。(中略)そして民主主義の実現のために日本が何
 よりも必要としているものは中央政府の強力な指導力だという
 ことに、まったく思いいたらなかった。
        ──ウォルフレン著/鈴木主税訳の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
             ─── [日本の政治の現況/10]


≪画像および関連情報≫
 ●現在の日本の官僚システムは明治以来のもの
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  官庁の役人の天下り問題とか、今回の防衛庁人事での小池前
  防衛大臣と守屋次官の次官後任人事を巡る確執騒ぎとかで、
  最近特に官僚制に関しての論議が従来にも増して注目される
  ようになっているが、この官僚システムはいつに遡るかとい
  うと、明治初期につくられたシステムであることが内田通夫
  氏による週刊東洋経済の7月14日号の『このままの官僚制
  度を放置していいのか』という題名の記事に明解に描がかれ
  ている。以上の記事を要約すると以下のようになる。
   http://blogs.yahoo.co.jp/worldforum2007/35631149.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

憲法発布略図.jpg
憲法発布略図
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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