2011年06月21日

●「調和イデオロギーが対立を押え込む」(EJ第3081号)

 日本は調和のとれた国である──ウォルフレン氏はこれについ
て、ナンセンスであるといい切り、日本は調和どころか並はずれ
て不調和の国であるといっています。そして、調和のイデオロギ
ーは日本にとって有害であるとまでいうのです。
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 調和のイデオロギーが日本にとって有害なのは、それが嘘のか
 たまりだからだけでなく、日本社会における対立の正当な役割
 までも否定するからだ。私たちには対立が必要だ。この言い方
 に驚くとすれば、それは調和の達成を倫理的に必要なものと思
 わされている証拠だろう。すぐには信じられないかもしれない
 が、対立がなければ社会にしっかりした秩序をもたらすことは
 できない。──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/鈴木主税訳
   『人間を幸福にしない日本というシステム』/OH!文庫
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 日本人に植えつけられた「調和」のイデオロギーの問題点は、
対立を押え込んでしまうことにあります。権力に逆らっても勝て
るはずがないし、「仕方がない」とあきらめてしまうのです。こ
のように調和の精神は対立することを押え込むのです。これは権
力者に対して抵抗しないということにつながります。
 徳川幕府の時代においては、外国からの情報を遮断しただけで
なく、多くの人々がいろいろな物事を知ることを制限していたの
です。徳川の独裁政権を維持するためには、人々を無知の状態に
置いておくことが望ましかったからです。そのため、生まれたの
が次の言葉です。
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      民は知らしむべからず、依らしむべし
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 しかし、明治維新になると、国民各層に広く教育を徹底させな
ければならなくなったのです。これは危険な賭けであったといえ
るのです。もし、国民の中の頭の良い人たちが多くのことを知る
ようになると、当局にとって厄介な存在になり、既存の体制を揺
るがしかねないからです。そこで、明治の為政者たちは、国民を
次の2つに大別し、別々に管理することにしたのです。
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           1.普通の国民
           2.  文化人
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 ここでいう2の「文化人」とは、専門家や知識人や学者などを
いい、こうした人たちには情報を与え、比較的自由にものをいわ
せたり、書かせたりしたのです。それはその人がどういう思想を
持っているかを調べるのに役立つからです。このように、彼らは
厳重に監視され、危険な思想を持っているとみなされる場合は、
それを発表させないよう細心の注意が払われたのです。
 しかし、それらの文化人の中で権力側の一員として使える者は
登用し、また、その思想によって既存体制の宣伝に使える者は宣
伝活動に従事させるようにしたのです。
 しかし、それでも十分なコントロールは効かなかったのです。
そのため、1925年には治安維持法を公布し、危険思想を取り
締まるようになります。3年後の1928年には同法は一段と強
化され、危険思想には無期懲役や死刑に処することができるよう
になったのです。なぜ、そこまでするのか。危険思想は権力機構
は崩壊させかねないからです。
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 日本の官僚は、自分たちの属する権力機構をあからさまに分析
 されるのを好まない。いや、この言いかたは控え目にすぎる。
 官僚は、真の分析を恐れているのである。それもそのはずだ。
 なぜなら、彼らの権力機構がつねに正確に説明され広く理解さ
 れれば、絶えず非難されるようになり、やがては官僚機構が機
 能しなくなると思われるからだ。秘密主義は、日本の官僚独裁
 主義を成功させるために必要な条件なのである。
      ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著の前掲書より
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 このように明治の権力者たちは、政治や経済機関のリーダーに
なり、省庁を率い、その基礎作りに寄与したのです。そして枢密
院という明治憲法体制下での国政に関する天皇の最高諮問機関を
創設し、明治の官僚機構が出来あがったのです。そして官僚を天
皇に対して滅私奉公する存在として位置づけたのです。
 それでいて、彼らは一度手に入れた権力を政敵に奪われること
がないよう細心の注意を持って守りを固めたのです。そのため、
彼らは、国民に対して対立を押え込む調和のイデオロギーの徹底
に加えて、政治家たちの行動を忌まわしいものと感じさせるよう
な価値観を体制に植えつけたのです。
 彼らにとって選挙で選ばれた政治家は、体制側の秩序を乱し、
イデオロギーを踏みにじる存在として位置づけられるのです。こ
のように、官僚と政治家は最初から対立関係にあったのです。政
治家対官僚の対立は政治家誕生の瞬間から生じていたのです。
 この明治の権力者たちが国民の精神に植え込んだこのイデオロ
ギーは連綿と受け継がれ、現代の日本人の精神に何らかのかたち
で生きているといわれます。これに関して、ウォルフレン氏の本
にこういう話が出ています。
 もし、オランダ人が「あなたはオランダ人らしくない」といわ
れた場合、十中八九一笑に付するだけですが、アメリカ人が「あ
なたはアメリカ人らしくない」といわれるときっとうろたえる。
しかし、日本人が「あなたは日本人らしくない」といわれると、
大きなショックを受けて落ち込み、心の安定を失うといいます。
 そのため、日本人の行動を制する言葉として「あなたのやり方
は日本人らしくない」というほど効き目のある非難の言葉はどこ
にもない──とウォルフレン氏はいっています。
             ─── [日本の政治の現況/07]


≪画像および関連情報≫
 ●日本社会における「対立」について
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  日本の社会では、真の対立はすぐに表面の下に押しこめられ
  るので、対立が対立として適切に処理されない。見えないの
  だから、処理のしようもないのだ。対立が気づかれず、ある
  いは無視される場合、その当事者はたいへんな不幸におちい
  りかねない。日本の社会はある意味でとても貧しい社会だ。
  というのも、第三者の勝手な裁定に頼る以外、対立を解消す
  る効果的な手段がないからである。
      ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/鈴木主税訳
   『人間を幸福にしない日本というシステム』/OH!文庫
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講演会で質問に応ずるウォルフレン氏.jpg
講演会で質問に応ずるウォルフレン氏
posted by 平野 浩 at 04:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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