長い間のご愛読に感謝いたします。既にテーマの第1部で書くべ
きことは、昨日のEJで終っているので、本号は次のテーマとの
つながりについて書くことにします。6月13日から新しいテー
マになりますが、今回のテーマとは密接に関連しているのです。
もともと「明治維新について考える」をテーマに選んだのは、
昨年の暮れに植草一秀氏の次の著作を読んだからなのです。
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植草一秀著
『日本の独立/主権者国民と「米・官・業・政・電」利益複
合体の死闘』/飛鳥新社刊
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この本は、500ページを超える大書ですが、その中で次の一
文を見つけてハッと思ったのです。現在の日本の政治状況を解く
カギがここにあると・・・。
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日本の官僚機構が備える全体主義的傾向、権威主義的性格は、
第二次大戦後も払拭されずに現代まで引き継がれている。これ
らの基本性格が定着した原点が、「明治六年政変」であり、そ
の延長上に成立した大久保利通「有司専制」政治であると私は
判断する。歴史に仮定を持ちこんでも意味がないが、明治六年
政変が異なる方向に転がったのなら、日本の歴史は恐らく異な
る方向に進んだと考えられるのだ。それほどに、明治六年政変
の意味は大きかった。 ──植草一秀著の前掲書より
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ところで、「有司専制」とは何でしょうか。
「有司」とは政府官僚を指している言葉です。具体的にいえば
事務次官クラスの官僚と考えればよいと思います。したがって、
有司専制とは、議員による議会政治によらずに官僚のトップの合
議だけで国家の方針を決めることを意味しているのです。
この有司専制政治を作り上げたのが大久保利通なのです。その
政治体制が現在まで続いているというわけです。
一体大久保利通はどういう経緯でそういう政治体制を作るにい
たったのでしょうか。それについては、幕末の歴史をていねいに
調べる必要がある──そう考えて、「明治維新について考える」
のテーマに挑んだのです。振り返ってみると、慶応4年(186
8年/9月7日から明治元年)1月から明治2年5月まで、83
回にわたり、ほとんど月と日を追うように、ていねいに書いたつ
もりです。
しかし、既に述べているように、大久保利通はごくわずかしか
登場してこないのです。したがって、大久保利通は、戊辰戦争が
終るや否や、電光石火でいろいろな改革を行い、明治維新を成し
遂げているのです。そして明治6年(1873年)に有司専制政
治の基礎を作っています。そして、それを契機に西郷隆盛は政府
を去り、やがて西南戦争の悲劇が起きるのです。
現在の日本の政治は何かおかしいと思いませんか。せっかく大
変な苦労をして政権交代を成し遂げた民主党は、今やボロボロの
状態です。どうしてこうなってしまったのでしょうか。
これは民主党の議員が与党政治に慣れていないとか、経験不足
であるとか、やり方がよくないとかという以上の何かがあるとし
か思えないのです。どうしても民主党の進めようとする「国民の
生活が第一」に基づく政策を何としてもやめさせるという圧倒的
な力が働いている──そのように考えられます。
政権交代の推進力となった小沢一郎元代表は、政権奪取の前か
らいきなり事務所に強制捜査を受け、秘書が逮捕されるという、
ほとんど選挙妨害のような仕打ちを受けます。誰でも事務所の秘
書が逮捕されれば主である小沢代表に問題があると考えます。選
挙直前のことですから、民主党にとって大打撃です。
そこで小沢氏は代表を辞任し、選挙に専念して2009年の衆
院選に臨み、政権交代が成し遂げられたのです。しかし、政権交
代を成し遂げて幹事長に就任した小沢氏に対して攻撃はさらに続
き、今度は元秘書の石川氏らまでもが逮捕され、小沢氏も事情聴
取を何回も受けたのです。それでも小沢氏自身は不起訴にはなっ
たものの、秘書たちは起訴されています。
この一連の小沢叩きは、マスコミの執拗きわまりないリークに
よって増幅され、「小沢=悪者」のイメージが完全に定着した感
があります。これによって小沢氏は評判を落とし、結局鳩山前首
相と共に辞任を余儀なくされるにいたったのです。
そして鳩山氏の後継の菅政権はというと、いきなり消費税増税
を掲げて2010年の参議院選で惨敗し、衆参のねじれを作り上
げ、民主党政権の前途を暗くしています。
さらに菅政権は、信じられないことに「国民の生活が第一」の
スローガンを下ろし、公約を次々と撤回しつつあります。そして
政権交代の最大の功労者である小沢氏とそのグループに対し、陰
湿きわまる「小沢切り」を行い、党内を混乱させているのです。
そして党勢を立て直そうと代表選に立候補した小沢氏を破った菅
政権は、ますます独裁の度を高めています。実は代表選にもウラ
があるのですが、これは機会を見て述べることにします。
その小沢氏にとどめをさすように、不可解きわまる検察審査会
による強制起訴が行われるに及んだのです。あまりにも異常な政
治状況であるといえます。
この国を動かしている者は何か。それは小沢一郎という政治家
を非常に恐れ、警戒しているようにみえます。どうして小沢氏を
恐れるのでしょうか。それには何か理由があるはずです。
秘書たちを逮捕、起訴され、自らも強制起訴され、それを理由
に菅政権から党員資格停止を受けてもなお、菅政権は小沢氏を警
戒しています。依然として小沢氏を中心とする政治情勢が続いて
いるからです。小沢氏の見据えている敵とは何か。13日から探
っていきます。 ─── [明治維新について考える/84]
≪画像および関連情報≫
●愚樵空論/官僚専制国家
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「有司」とはすなわち官僚のことです。学校での歴史の学習
では、この官僚専制批判が立憲の大きな要因になったように
思い込まされてしまいますが、実際の所はどうか?明治憲法
を立案したのは伊藤博文ら「有司」でしたし、その「有司」
たちが作った憲法は天皇を玉として頂きながらも、実質的に
は権限を与えない有司専制国家を形作るものだったと言って
いいかもしれません。帝国議会という国政機関が設けられは
しましたが、選挙で選ばれる衆議院より貴族院の方が上位に
あったのは学習したとおりですし、さらには枢密院などいっ
た機関もありました。
http://gushou.blog51.fc2.com/?mode=m&no=231
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植草 一秀氏の本