2001年06月22日

燃料電池はどのように開発されたか(EJ643号)

 今朝も「燃料電池」の話です。「燃料電池」の原語の研究から
やりましょう。
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     燃料電池=fuel cell/フュエル・セル
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 「フュエル」は燃料だけを意味することばではなく、エネルギ
ーを生み出す材料を意味しており、「セル」は小さな箱をあらわ
すことばです。つまり、「フュエル・セル」は「エネルギーを生
み出す小箱」という意味になります。このことから、「フュエル
・セル」は好きなときに電気を生み出せる「発電機」というべき
であって、少なくとも「電池」という表現は正しくなく、誤訳と
いうべきではないかと思います。
 燃料電池の原理を発見したのは、英国のウィリアム・グローヴ
です。1839年、グローヴが28歳のときです。ある日、彼は
大学で、2枚の白金電極の間に硫酸と水を配置し、水を電気分解
していたのです。
 それぞれの電極に筒をかぶせて水素と酸素を回収しようとした
わけです。電気分解が終ったあと、グローヴはガスを閉じ込めた
その2本の筒を何気なく電極の上から押し下げたのです。
 そのとき回路に電流が流れていることにグローヴは気が付きま
した。何回繰り返してもやっても同じ結果になります。ガスの状
態をよく観察すると、ガスが電極に吸収されているように見えま
す。そしてついに、電極に吸収されるガスの値に比例して電流が
流れる現象を発見したのです。
 グローヴは、電気分解を行い、次にガスの吸収によって電気を
流す、そして再び電気分解する、という作業を何回も繰り返して
みたのです。その結果、電気分解と発電が可逆的に起こることに
気がついたのです。グローヴはこれを利用してアーク灯をつけて
みたところ見事に点灯させることができたそうです。
 これこそ人間が人工的な電気化学反応によって発電に成功した
瞬間といえます。グローヴはこれを「ガス電池」という名前で特
許を取得しています。
 グローヴの発明が、動力用の発電機として実用化されなかった
のは、その当時すでに動力としては、蒸気機関が世に出ていたか
らです。そして、100年近くが経過して、ケンブリッジ大学の
フランシス・ベーコンがグローヴの発明を利用して燃料電池の実
用化の道を拓いたのです。
 彼は、水素と酸素を用いる回路によって、1932年に燃料電
池を完成し、1959年に実際に溶接機を動かす5キロワットの
燃料電池を実用化しています。これは「ベーコン電池」と名付け
られ、のちの燃料電池の発達に大きく貢献することになります。
なお、これは「アルカリ型燃料電池」とも呼ばれます。
 この電池には次の4つの特色があります。
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        1.電極の寿命が長いこと
        2.長時間運転できること
        3.電気出力が大きいこと
        4.新物質を燃料にできる
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 これら4つの特色を備えるベーコン電池の技術をベースにして
ブラット&ホイットニー社は、1962年に月探査を目的とした
アポロ宇宙飛行計画用として、燃料電池第1号(アルカリ型燃料
電池)をNASAに納入することに成功します。
 1964年にGEも高分子膜を使う最初の燃料電池(高分子膜
型燃料電池)をNASAに納入し、ジェミニ飛行計画などに使わ
れましたが、故障が多くアポロ11号には結局ブラット&ホイッ
トニー社のアルカリ型燃料電池が採用されたのです。
 直径21.6センチの多孔質ニッケル電極と水酸化カリウム電
解質の水性ペーストを使用したこの燃料電池は、最大出力2.3
キロワットで、同じ体積でバッテリーの数倍のエネルギーを発生
する能力を発揮して、月探査に貢献したのです。
 宇宙を飛ぶアポロでは、燃料電池が生み出す水を乗員が飲料水
として用い、夢の装置として米国で大きく話題になったといわれ
ます。しかし、1969年当時にすでにこのレベルに達していた
燃料電池がその後発達が停頓してしまったのはなぜでしょうか。
 それは、ベトナム戦争で米国の威信が地に堕ち、アポロ11号
による月探査の成功も米国内ではあまり高い評価が得られなかっ
たことによるのです。
 ところで、フランシス・ベーコンは1984年にはすでに80
歳になっていましたが、貴金属商のジョンソン・マッセイに燃料
電池コンサルタントとして迎えられたのです。貴金属商と燃料電
池――ヘンな組み合わせだと思いませんか。
 その秘密は燃料電池に使う白金触媒にあります。ベーコンをコ
ンサルタントに迎えて、ジョンソン・マッセイは早くも80年代
半ばにおいて燃料電池用の白金触媒で全世界を支配する道を見つ
けていたのです。
 ベーコンがジョンソン・マッセイにコンサルタントに迎えられ
たのとほぼ同時期に、バラード・パワー・システムズ社がカナダ
国防省の委嘱を受けて、燃料電池開発をスタートさせます。カナ
ダ海軍の「音のしない」潜水艦用の燃料電池を開発するプロジェ
クトに参加したのです。
 そして同社は燃料電池によって“バラード・ブーム”を作り出
し、ダイムラー・ベンツと提携して、燃料電池の先駆的開発社と
しての地位を築くにいたるのです。
 バラード社は、常識を破る低コストで高分子膜型(固体高分子
電解質膜<PEM>)の燃料電池を開発して、燃料電池の世界的
リーダーとなりますが、同社は「エネルギー業界のインテル」を
目指して発展中です。
 ところが、ノース・ウェスト・パワー・システムズという会社
がバラードの前に立ちはだかります。続きは来週です。

643号.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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