2006年04月11日

ケインズは何を提案したのか(EJ1813号)

 今回のテーマでは、日米の経済関係のベースとなっている仕組
みというかカラクリを解明しようと考えています。米国は「通貨
こそが覇権の基盤である」という考え方に立っている国です。し
たがって、米国がかつてドルに対して取ってきた政策を振り返る
ことによって日本の円との関係を明らかにする必要があります。
 米国がこれまでにドルに対して取った大きな政策といえば、既
に述べたように、次の2つです。
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       第1回:ブレトン・ウッズ会議
       第2回:ニクソンの歴史的決断
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 そういうわけで、現在は「ブレトン・ウッズ会議」について述
べています。このブレトン・ウッズ会議で何が決まったかについ
ては、EJ第1812号で述べましたが、英国を代表するケイン
ズはどのような提案をしたのでしょうか。このあたりを明らかに
しておく必要があると思います。
 ケインズは、世界レベルの手形集中決済所のようなものを作ろ
うとしたのです。正式名称は清算同盟(クリアリングユニオン)
――そこで、各国通貨当局の持ち込む収支尻を相殺させようとい
うわけです。ケインズはそのさいの決済通貨として、ポンドでも
ドルでもない「バンコール」という新通貨の創設を提案している
のです。
 ケインズの工夫は、この清算同盟に加盟するに当たって出資金
の拠出は不要としたことです。どの国でも申し出によって加盟で
き、バンコール預金の口座を開くことができるとしたのです。
 これは明らかに英国の利益を考えた仕組みといえます。これな
ら米国の圧倒的な経済力は反映されないし、それは同時に英国の
退勢も影響しないからです。
 この清算同盟では、各国が収支尻を持ち込んださい、一時的な
残高不足が生じたときは、当座貸越を受けることができることが
うたわれていたのです。つまり、ケインズは世界の中央銀行のよ
うなものを考えていたのです。これは、当時の英国の利益を色濃
く反映していたといえます。
 しかし、米国を代表するホワイトは十分な準備によって英国の
出方を読み切っており、ケインズの提案には乗らなかったです。
ケインズ提案は一顧だにされず、葬り去られ、ホワイトは拠出に
基づく機関であるIMFを提案したのです。それも出資金の額は
各国の金保有高と国民所得額を基準として算定するというもので
明らかに英国にとっては不利な内容だったのです。
 ケインズは、戦前の貿易額を基礎として算定すべしと最後の抵
抗を試みたのですが、ケインズ案は無視されてしまったのです。
これによって、米国の覇権を色濃く反映するIMFは正式に決定
されたのです。
 このさい、米国はポンドの決済圏各国が有しているポンド債権
をどうするかということも考えていたのです。英国とインドのケ
ースについて考えてみましょう。
 英国はインドに対し、ポンド建て債務を負っており、インドは
英国に対し、多額のポンド建て債権を持っていたのです。これを
一時に取り立てると英国は破産してしまいます。
 IMFは、英国とインドの間に介入し、インドからポンド建て
の英国向けの債権を買い上げ、代価をドルで支払うのです。これ
によって英国は、インドに対する多額の債務から解放されること
になります。その一方で、英国はIMFに対して長期債務を追う
ことになります。
 これは表面的には英国を助けることになります。世界は米国が
英国を救済したと考えるでしょう。しかし、米国の狙いは、ポン
ドの膨大な流通量をそっくりドルに入れ替えることなのです。
 実際にインドはIMFの介入によってポンド経済圏を離脱した
のですが、そのままドルの経済圏に入っているのです。インドは
英国に対するポンド債権をIMFに買い上げてもらってドルを入
手しており、新規購買力を手にしたことになります。
 他のポンド経済圏で英国に対するポンド債権を持つ国も次々と
IMFによって債権を買い上げてもらうことによって、ドル経済
圏に入ってきます。これを続けていくと、膨大なるポンドの流通
量はドルに置き換えられてしまうことになるのです。
 『マネー敗戦』の著者である吉川元忠氏は、こうした米国のや
り方に関して次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 フランスの文化相であったアンドレ・マルローは、かつて「ア
 メリカは、自ら求めないで世界覇権を得たおそらく唯一の国で
 ある」と語ったことがある。しかし、マルローのこの認識は国
 際政治の現場を見る眼としては、いささか文学的すぎた。パク
 ス・アメリカーナの成立は、自然の成り行きというだけでなく
 マネーこそが覇権の基盤であることを認識していたアメリカの
 周到な戦略、演出によるものであった。
    ――吉川元忠著、『マネー敗戦』より。文春新書002
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このように、米国による周到なる通貨政策によってドルは基軸
通貨になったのですが、現実的な問題として、米国としてはドル
をいかに全世界にばらまくかの戦略が必要だったのです。とくに
ヨーロッパは対外決済通貨が不足しており、EPU――欧州支払
同盟という機関を作り、米国はヨーロッパ復興援助のためのマー
シャルプランを実施してこれを援助したのです。
 また、米国は国内市場の対外開放に踏み切り、自由貿易主義を
取ったのです。これによって、ドルを世界的に散布するのが狙い
だったのです。決済通貨としてドルが使われれば、当時莫大な貿
易黒字を持っていた米国にドルが吸い上げられることになるので
これを防ぐ処置として、適正規模のドルの国外への流出がなけれ
ば、マネーの国際循環システムとはいえないということで、自由
貿易に踏み切ったのです。   ・・・・・[日米関係の謎08]


≪画像および関連情報≫
 ・米倉茂著、『落日の肖像――ケインズ』イプシロン出版刊
  ――――――――――――――――――――――――――
  この本の中ではこれまでなぞであったIMF交渉の場でケ
  インズが果たした役割について詳細に書かれてある。著者
  の意見を一言でまとめるとケィンズは無能で米国のホワイ
  ト案の巧みな交渉術に騙された間抜けな学者であった。と
  いうことになる。
  http://tokumoto.blog32.fc2.com/blog-entry-240.html
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1813号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日米経済関係の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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