2010年09月29日

●「『ネット法』なるものが検討されている」(EJ第2907号)

 米国によるプラットフォーム・レイヤーの支配と日本における
ジャーナリズム文化の衰退──これは日本にとって由々しき問題
ですが、国民はほとんど無関心です。
 どうも日本人は見えないものに関する関心が弱いようです。こ
れはそれだけネットに関する関心度が薄いことに結びつきます。
日本はSNSといわれるブログにしてもツイッターにしてもその
ユーザーは非常に多いのですが、それを戦略的にとらえる人が少
ないように思うのです。
 したがって、ネット上において現在起きていること──米国に
よるプラットフォーム・レイヤーの支配などは指摘されてはじめ
てそうかと気が付くようなところがあると思います。現状は米国
ネット企業による植民地化に近いことが起きているのに誰もあま
り騒いでいないのです。
 現在、政府では次の2つの制度を検討していますが、ご存知で
しょうか。新聞などではほとんど報道されないので、知らない人
が多いと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.    ネット法
         2.フェアユース規定
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら2つの制度は、政府自体が主体的に考えたものではなく
ネット・ベンチャー寄りの弁護士や学者によって提案されたもの
であって、国としてどうあるべきかという戦略的視点は抜けてい
ると思います。
 「ネット法」とは何でしょうか。2008年3月の高瀬徹朗氏
のブログから引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ネット法」は、映像や音声などのコンテンツがインターネッ
 ト上で流通するのを促すために、民間の研究団体であるデジタ
 ル・コンテンツ法有識者フォーラムが骨子をまとめた法案。イ
 ンターネット上のデジタルコンテンツ流通にのみ、包括的で横
 断的に対応できる特別法と位置づけ、現行の著作権制度から独
 立、あるいは現行制度上の規制に左右されない運営を念頭に置
 いている。                ──高瀬徹朗氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ネット法というのは、ネット上でのコンテンツの流通
を増大させることを目的として、「ネット権」というものを創設
し、それを映画製作者や放送事業者などの流通を担う者に付与し
ようという構想です。
 この場合、ネット権を有する者がその権利を行使して、2次使
用を許した段階で、そのコンテンツに関係するすべての権利者が
合意したとみなすという規定が含まれています。
 そして、この問題に関連して上記2つの制度の2番目「フェア
ユース規定」が出てくるのです。ところで、フェアユース規定と
は何でしょうか。
 フェアユースというのは、米国の著作権法などが認める、著作
権侵害の主張に対する抗弁事由の1つです。米国における著作権
法107条によれば、著作権者の許諾なく著作物を利用しても、
その利用が次の4つの判断基準のもとで公正な利用(フェアユー
ス)に該当するものと評価されれば、その利用行為は著作権の侵
害にあたらないというものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.利用の目的と性格──利用が商業性を有するか非営利か
 2.著作権のある著作物の性質
 3.著作物全体との関係で、利用された部分の量及び重要性
 4.著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の現行の著作権法には米国のようなフェアユースの規定は
なく、個別に著作権侵害とならない場合を定めています。第30
条の「私的使用のための複製」などがそうです。
 そこで日本でも日本版のフェアユース規定を作ろうとしている
のです。しかし、米国においてプラットフォーム・レイヤー企業
がここまで躍進したのは、同国のフェアユース規定のお蔭である
といえるのです。
 フェアユース規定よって、グーグルに代表されるプラットフォ
ーム・レイヤー企業は、検索結果に新聞記事を載せるために必要
な複製の対価を支払う必要がなく、書籍のデジタル化についても
著作権者の許諾なしで進められることが可能になったからです。
 ネット法とフェアユース規定──この制定に関して識者のコメ
ントは批判的です。池田信夫氏は、「ネット法」について次のよ
うにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう新法は実現するとも思えないし意味もない、というの
 が私の印象だ。著作権法を抜本改正し、隣接権を廃止して権利
 を著作者に集中し、許諾権や著作者人格権を廃止し、譲渡可能
 な報酬請求権として著作権を規定しなおすのが本筋だと思う。
 この場合、無方式主義を改めて登録制にし、いま放送業者だけ
 に認められている包括ライセンスを、すべてのユーザーに可能
 にする規定も必要だ。著作者の委託を受けて報酬を一括請求す
 る団体を流通業者からアンバンドルし、イタリアのSIAEの
 ような「ワンストップ・ライセンス」を可能にすることが望ま
 しい。      註・SIAE=イタリア著作者出版社協会
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/f8e700915ac15b9fb2128a3b1c3a2d0c
―――――――――――――――――――――――――――――
 現実問題として、ネットの存在が大きくなるにつれて、マスメ
ディアは劣化し、ジャーナリズムの衰退が始まっているように見
えます。日本でも、最近のテレビ番組の面白くないこと、新聞の
正月特集の内容のなさはそれをあらわしています。政府はネット
問題に正面から向き合い、適切なる対応策をとるべきときにきて
いると思います。     ────[メディア覇権戦争/46]


≪画像および関連情報≫
 ●「ネット法」で流通促進は根拠のない「おとぎ話」
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  日本音楽著作権協会(JASRAC)は2008年12月9日
  「コンテンツの流通促進に本当に必要なものは何か」をテー
  マとしたシンポジウムを、東京都千代田区で開いた。パネル
  ディスカッションではパネリストから、「ネット法ができれ
  ばコンテンツ流通が促進されるというのは根拠のない『おと
  ぎ話』に近い」など、自民党などで議論されているネット法
  に批判的な意見が相次いだ。
http://journal.mycom.co.jp/articles/2008/12/12/jasrac2008/index.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

岸博幸慶応義塾大学大学院教授.jpg
岸 博幸慶応義塾大学大学院教授
posted by 平野 浩 at 04:08| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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