2010年09月28日

●「マスメディアのネットへの対応」(EJ第2906号)

 テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアの世界や映画、音楽な
どのコンテンツの世界では、コンテンツの制作から流通に至るま
で、すべてのプロセスを全部自社で行う垂直統合型のビジネスが
行われています。
 例えば、テレビ局では、自社ないし関連会社でコンテンツ、す
なわち番組を制作し、それを電波に乗せて、ユーザーのテレビに
送るまでの全てを自社で行っているのです。この流通独占によっ
て、テレビ局は多くの利潤を生み出してきたのです。
 新聞、音楽、映画においても、それぞれの媒体ごとに縦割りの
構造のなかで、制作、編成、流通の垂直構造を維持・管理し、そ
こを押さえることによって莫大な超過利潤を獲得しています。
 ネットの自由を主張するネットの専門家の多くは、そういうマ
スメディアの流通独占を既得権益として批判しますが、そういう
超過利潤によってジャーナリズムがこれまで育成され、ひとつの
文化として育ってきたことは確かなのです。
 既出の岸博幸氏は、ジャーナリズムに関して次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジャーナリズムには2種類の役割が存在します。1つは公にな
 った事実をそのまま伝える単純な事実報道、もう1つは隠され
 た事実の調査を積み重ねてその真実を明らかにし、新しい視点
 を提起するという調査報道です。前者の事実報道は素人でもあ
 る程度対応できるかもしれません。しかし、後者についてはプ
 ロのジャーナリストの働きが不可欠ではないでしょうか。(一
 部省略)アナログ時代は、新聞社が流通独占によって獲得した
 超過利潤でたくさんのプロのジャーナリストを養えたため、結
 果的にジャーナリズムが維持されてきたのです。
            ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ネットにおける情報やコンテンツの流通経路では、こ
の縦割りの垂直構造が既に崩れているのです。ネット上では、誰
が制作したかは関係なく、すべての情報やコンテンツを流通して
しまうので、そこに「横割り」の流通機構ができているのです。
そしてそこには流通の担い手としてのネット企業が登場するので
す。(添付ファイルの図を参照)
 この状況をマスメディアサイドから見ると、今まで独占してき
た流通をネット企業に奪われてしまったことになるのです。それ
に加えてネット上のビジネスモデルとして定着している「無料モ
デル」によって、コンテンツ企業としてのマスメディアやコンテ
ンツ企業の収益は当然悪化したのです。
 マスメディアの収益がどれほど損なわれるかの例としてアマゾ
ンと新聞社のケースをご紹介します。既に述べたようにプラット
フォームに端末(キンドル)を融合させることで、新たなプラッ
トフォームを構築しようとしています。
 キンドルで新聞を定期購読すると、ユーザーは新聞のデータを
毎日ダウンロードすることになりますが、そのさいのパケット代
を気にすることはないのです。定期購読料のなかに通信料は含ま
れており、今や情報が流れる土管に過ぎなくなっているインフラ
・レイヤーをユーザーから見えなくしているのです。これによっ
てアマゾンは、「プラットフォーム+インフラ+キンドル」を融
合させた新しいプラットフォームを構築したのです。
 アマゾンと新聞社の契約条件は、米国での報道によると、ユー
ザーがキンドルに対して支払う新聞の定期購読料の70%がアマ
ゾンに入るのです。つまり、新聞社はどんなにコストをかけて良
い紙面を作っても、定期購読料の30%しか入らないということ
になるのです。このような状態では新聞社はよい紙面を維持する
ことは困難になること必至です。
 これに関して、マスメディア側の取るべき対策として岸博幸氏
は、次の2つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ネットを含む情報/コンテンツのあらゆる流通経路のなか
   で、何らかの方法で新たな流通独占を作り出し、失った超
   過利潤を少しでも取り戻す方法である。
 2.流通独占を取り戻すのは諦め、流通はプラットフォーム・
   レイヤーのネット企業に依存するという決断をしたうえで
   適正な収益の配分を求める方法である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとつの動きがあります。「Hula」(フールー)というサイト
をご存知でしょうか。
 フールーは、2007年に米国のネットワーク局4局中の2局
(NBCとFOX)が共同で開発し、その後ABCも参加して、
3局が最新のテレビ番組の提供を始めたのです。コンテンツ・レ
イヤーに属するメジャーなテレビ局が意思を統一し、一緒になっ
て、プラットフォーム・レイヤーに進出したのです。
 フールーはなかなか好調で、米国の動画サイトでユーザーが視
聴したビデオの数で見ると、ユーチューブの105億には遠く及
ばないものの、フールーは、8・6億と第2位を占めているので
す。この数字は3位の2倍の規模に達しており、フールー上に掲
載されるディスプレイ広告の単価も他のサイトに比べて高い水準
に達しつつあります。
 フールーの成功に即発されて、米国では似たような動きが加速
しています。米最大出版社のタイム、コンデ・ナスト、ハースト
およびメレディスと新聞社のニューズ・コーポレーションの5社
が共同で、共同フォーマットの開発を行うことを2009年12
月に発表しています。
 この動きは、上記マスメディア側の取るべき対策の1に沿った
対応策であり、日本においても今後同じような動きが出てくるも
のと予想されます。コンテンツ企業の危機感による動きのひとつ
と捉えるべきです。    ──── [メディア覇権戦争/45]


≪画像および関連情報≫
 ●フールー設立を伝えるブログより/2008年3月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フールーの最初のプレスリリースから数ヵ月、プロジェクト
  の名前が未定だったそうです。しかも、最終的にフールーに
  落ち着きましたが、フールーはスワヒリ語で「差し止める」
  という意味だったそうです。さらにフールーの会社の目的を
  グーグルからコピーしたり、NBCユニヴァーサルのデジタ
  ル担当役員から良くない評価が出たリと、むちゃくちゃだっ
  たのです。フールーとNBCとニューズ・コーポレーション
  が立ち上げたものなので、NBCとユーチューブは提携関係
  を解消したそうです。
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図出典/岸 博幸著/幻冬舎新書/156『ネット帝国主義
  と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より

従来メディアとネット.jpg
従来メディアとネット
posted by 平野 浩 at 04:41| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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