2010年09月03日

●「日本を素通りする米国のデータセンター」(EJ第2891号)

 クラウド・サービスが普及したお陰で、ネットを使ったビジネ
スを行う業者は、膨大な設備投資なしで、ビジネスを行うことが
できるようになっています。
 現在、ソーシャルメディアとして注目を集めるツイッター──
ユーザーが激増しているので、ツイッターに関連するアプリケー
ションソフトの開発も過熱しています。
 ツイッターの携帯電話向けのアプリケーションソフト「モバツ
イ」の開発者、藤川真一氏は、アマゾンの「EC2──エラステ
ィック・コンピュート・クラウド」というレンタルサーバーを駆
使してビジネスを行っています。現在、「モバツイ」は登録者数
が70万人もいますが、たった一人で対応しているのです。
 藤川氏は、通常はサーバー40台の利用契約をアマゾンと交わ
していますが、何かイベントがあって書き込みが急増することが
予想されるときは、PCから操作してサーバーを10台ほど増や
して対応しているそうです。
 まるで、水道の蛇口をひねるように、需要に応じ、自在にコン
ピューティングパワーを利用できるのが、クラウド・サービスの
特徴なのです。何しろ通信環境とPCさえあれば、個人でもベン
チャー企業でも、規模に応じて低廉な料金で使うことができるの
ですから、便利な時代になったものです。
 アマゾンの「EC2」に関して、藤川真一氏は次のように述べ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EC2は、最も安いレンタルサーバーではないが、これほど臨
 機応変に増減できるものはほかにない。ビジネスのスピードを
 落とさないためには理想的だ。       ──藤川真一氏
                『週刊東洋経済』7/3より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このクラウド・サービスを提供している主役は、米国のプラッ
トフォーム企業であるアマゾン、グーグル、マイクロソフトなの
です。これらの企業は巨大なデータセンターを世界中に構築し、
その一部を世界中のユーザーに貸しているのです。
 このクラウド・サービス用のデーターセンターは、米国だけで
なく、世界中に置かれているのですが、日本にはないのです。ど
うしてでしょうか。日本のクラウド・サービスは盛況であり、外
資系のクラウド・サービス業者がひしめいているのです。
 クラウド上でデータを保存・共有するストレージサービスを展
開するシュガーシンクという企業があります。同社の「シュガー
シンク・マネージャー」の日本のユーザー数は世界全体の8%を
占めており、単一国では米国に次いで第2位なのです。
 同社のローラ・イーシーズCEОは、日本向けのマーケティン
グをしていなかったのに、このユーザー数は驚きであるとコメン
トしているほどです。
 まだあります。政府のエコポイント制度で、商品交換手続きな
どを行うシステムは、米セールスフォース・ドットコムのクラウ
ドに構築されているのです。セールスフォース・ドットコムは、
米国カリフォルニア州に本社を置く、CRМソリューションを中
心としたクラウド・サービスの提供企業です。
 それほど、クラウド・サービスが盛況な日本で、なぜ、データ
センターが置かれないのでしょうか。
 それは、コストの高さが原因なのです。法人税や電力価格が高
いことに加えて、日本の場合、高コストのビル型のデータセンタ
ーにしないと、建築基準法や消防法に抵触してしまうのです。
 しかし、現在データセンターはビル型から脱皮し、コンテナ型
やモジュール型のデーターセンターに移りつつあるのです。その
典型的なデータセンターがシカゴ郊外にあります。欧米やアジア
に6つのデータセンターを持つマイクロソフトのデータセンター
のひとつです。
 敷地面積は、東京ドームの1・4倍に当たる6万5000平方
メートルもあるのですが、データーセンターそのものは、簡素な
平屋の建物に過ぎないのです。内部には貨物コンテナが並んでお
り、その中にサーバーがぎっしりと収められているのです。
 コンテナ3個でサーバー11万台であり、日本のビル型データ
センター1棟に相当するのです。注目すべきは、マイクロソフト
の加治俊一CTОの次の発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 個々のサーバーが故障してもその状況を把握するだけで、取り
 換えない。一定の割合が壊れたときにコンテナ全体を取り換え
 る。          ──マイクロソフト加治俊一CTО
                『週刊東洋経済』7/3より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このコンテナ型のデータセンターは第3世代ですが、これから
は第4世代のモジュール型に発展しようとしているのです。モジ
ュール型では、コンテナは使わず、仕切り壁と骨組みを組み合わ
せたモジュールセルの中にサーバーは格納されるのです。
 冷却はどうするのかというと、近隣の水源からくみ上げた常温
の水を巡らすだけなのです。当然壊れるサーバーが出てくるので
すが、そのときは取り換えてしまうのです。その方がはるかに安
くつくからです。
 しかし、こうなると、コンテナ型やモジュール型は日本の建築
基準法や消防琺に抵触するので、日本では第4世代型のデータセ
ンターは作れないのです。そういうわけで、米プラットフォーム
各社のデータセンターは、日本を素通りしてシンガポールに設置
されてしまうのです。
 もっともシンガポールでもビル型以外は難しいのですが、法人
税率の低さや電力などの運用経費に対する補助金があり、十分コ
ストに見合うのです。日本でこういう問題に関して新しい動きが
見られないのは、国民全体のIT技術に対する知識不足が災いし
て、問題意識がきわめて低いからです。このままでは日本はアジ
アの二流国になります。    ──[メディア覇権戦争/30]


≪画像および関連情報≫
 ●電気代と法人税の比較/日本は圧倒的に不利
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ≪電気代≫
   日本     ・・・・・ 10・53円/KWH
   オクラホマ州 ・・・・・  4・55円/KWH
   ワシントン州 ・・・・・  4・65円/KWH
   オレゴン州  ・・・・・  4・76円/KWH
   アイオワ州  ・・・・・  4・81円/KWH
  ≪法人税≫
   日本     ・・・・・ 39・54%
   シンガポール ・・・・・ 18・00%
   アイルランド ・・・・・ 12・50%
   韓国     ・・・・・ 24・20%
  ―――――――――――――――――――――――――――

サン/МDS20.jpg
サン/МDS20
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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