2006年04月04日

経常収支の黒字は国を亡ぼす(EJ1808号)

 純債権国とは何でしょうか。
 純債権国とは、正確には「債権超過国」といい、次の定義があ
ります。
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 純債権超過国とは、その国が諸外国に保有する資産が、諸外国
 がその国に保有する資産――つまり、その国が諸外国に負って
 いる債務を上回っている国のことである。
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 日本は、1970年になってから対外債権が対外債務を上回る
ようになったのです。この時点で日本の産業の利益は向上し、投
資の回収が進んで、負債を返済できる企業が多くなっていったの
です。そして、1980年代に入ると、資産状態は一層改善し、
安定感を増すようになったのです。そして、1980年代の後半
に日本は米国に代って世界最大の純債権国になったのです。
 いま考えるとその頃が日本の絶頂期だったのです。それがどの
ような経過をたどって現在のような状態になったかです。日本は
何に失敗したのでしょうか。
 私が今回のテーマ「日米経済関係の謎」を取り上げてみようと
思ったのは、昨年末に次の本を読んだからです。
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    三国陽夫著/文春新書481
    『黒字亡国/対米黒字が日本経済を殺す』
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 常識的には、「黒字」は善、「赤字」は悪です。それが「黒字
亡国」とは・・・本のタイトルを見たときの最初の印象です。な
かでも興味深かったのは、著者の三国陽夫氏がイタリアの中央銀
行総裁をしていたギッド・カルリ氏に会って、次のように警告さ
れる部分です。
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 日本は一日も早く黒字を減らしなさい。黒字は増えれば増える
 ほど、日本が手塩にかけて大切に構築してきた生産能力を、そ
 れだけ大きく破壊することになるのです。
       ――元イタリアの中央銀行総裁ギッド・カルリ氏
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 「黒字を早く減らせ」という日本に対する警告は、誠に衝撃的
です。今回のテーマは、三国氏の主張をベースに日本経済の謎の
解明にメスを入れてみたいと思います。
 実はこのことに早くから気が付いていた人がいます。元首相に
して大蔵大臣を務めたこともある石橋湛山その人です。その石橋
氏が昭和4年(1929年)に『週刊東洋経済新報』に発表した
次の論文においてです。
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 石橋湛山著
 『金輸出解禁論史』/『週刊東洋経済新報』より/1929
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 1929年といえば、第一次世界大戦当時ということになりま
すが、そのとき日本は既に経常収支の巨額の黒字を有していたの
です。この論文の概要を三国氏の本からご紹介します。
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 アメリカが第一次世界大戦中に金の輸出を停止している時に、
 日本が大きな黒字を計上し、同時に多額のドルの輸出代金を抱
 えた。金と切り離されて、いわば紙切れ同然となったドルの輸
 出代金を円に交換しようとすると、円の為替レートが大きく切
 り上がった。円高を嫌って多額のドルをそのまま抱えると、今
 度はデフレ効果が現われた、と。
   ――三国陽夫著『黒字亡国/対米黒字が日本経済を殺す』
                      文春新書481
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 石橋湛山といえば、第1次吉田改造内閣で大蔵大臣を務めた経
験があり、1956年12月23日に内閣総理大臣に就任したの
ですが、病に倒れ、1957年2月25日に退任しています。石
橋内閣は、総理在位65日という短い内閣だったのです。
 しかし、時の内閣総理大臣が、これだけ立派な経済論文を書く
実力を持っているのです。総理大臣であれば、その程度の能力を
持っていて当然であるとはいえ、日本には、そういう総理が今ま
であまりにも少なかったことは事実です。「経済のことは専門家
にまかせている」と平気でいう無責任な総理もいるのですから。
 石橋論文を読むと、彼は日本が対米黒字を大量に抱える危険性
に気づきはじめていたことがよくわかります。ちなみに、当時は
金本位制だったのですが、戦時中であったために米国は金の輸出
を停止しており、現在と同様にドルは金と切り離されていわば紙
切れ同然の状態だったのです。したがって、石橋論文が正しいと
すると、日本のデフレの原因は、日本が円高を嫌って大量のドル
を抱えていることであるということになります。
 輸出拡大によって経常収支の黒字が累積することがデフレの原
因であるなら、輸出を抑えて現地生産に切り替えればよい――常
識的には誰でも考えることです。実際に日本の企業――とくに輸
出産業である自動車産業などはそれを実施しています。
 しかし、その結果はどうだったのでしょうか。1985年当時
と2004年度とを比較してみましょう。
 日本全体の輸出総額は約41兆円から約58兆円に増えていま
す。自動車関連の輸出額についても約8兆円から約11兆円へと
増えており、現地生産にもかかわらず減っていないのです。その
ため、同期間の経常収支は、約4.9兆円から約18.6兆円に
膨らんでしまっています。
 その原因は、現地生産を増やせば増やすほど、日本でしか作れ
ない高性能部品を輸出せざるを得ないからです。この部品の輸出
増加が経常収支の黒字を増やしているのです。まるで、日本は蟻
地獄に落ち込んだようにひたすら輸出を増やし、大量のドルを抱
えてデフレに苦しんでいるのです。 ・・・[日米関係の謎03]


≪画像および関連情報≫
 ・石橋湛山はなぜ総理を降りたのか
  石橋湛山の病気は急性肺炎である。先日、小池百合子環境相
  が急性肺炎で入院したが、石橋の場合は真冬にも関わらず、
  積極的に有権者の話を聞くべく各地を回ったために肺炎を起
  こした上に脳梗塞の兆候がある事が判明したからである。こ
  れに関してもうひとつの理由がからむのである。石橋はかつ
  て「東洋経済新聞」において暴漢に襲われて帝国議会への出
  席が出来なくなった当時の浜口雄幸首相に対して退陣を勧告
  する社説を書いたことがあった。もし国会に出る事が出来な
  い自分が首相を続投すれば、その時の社説を読んだ読者に嘘
  をつく事になると考えたのである。

1808号.jpg
posted by 平野 浩 at 05:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日米経済関係の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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