企業のネットの独占による3つの問題点を再現します。前回、1
の検討が終ったので、今回は「2」について考えます。
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1.米国による世界情報支配が強まる
→ 2.米国のソフトパワーが強化される
3.米国の世界ネット広告市場の制覇
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第2は「米国のソフトパワーが強化される」ことです。
「ソフトパワー」とは何でしょうか。
国際政治の世界には、ハードパワーとソフトパワーという2つ
の概念があるのです。ハードパワーとは、相手の国を力で押し倒
す力のことであり、武力や経済力はハードパワーに属します。米
国はこのハードパワーで世界一の国家なのです。
これに対してソフトパワーとは、周りの国を自国のファンや味
方にすることによって、国際合意の形成などで優位なポジション
に立つという、相手の国を引き込む力を意味しています。文化な
どはソフトパワーということになります。米国は21世紀になっ
てから意識的にソフトパワーを国家戦略として唱えるようになっ
ているのです。
なぜ、米国国内において、ソフトパワーという考え方が唱えら
れたかというと、ブッシュ政権以降のアメリカの中東政策による
国際的な批判の高まりが原因なのです。
とくにイラクの戦後統治などにおいて行った一連の政策が、圧
倒的な軍事力を背景にした強硬なものであるという国際社会から
の批判や、中東やイスラム圏を中心とした反米感情の広がり、ま
たそれを背景にしたテロリズムの頻発やその被害が拡大するなか
で、その事態の打開のための手法としてソフトパワーが提唱され
るようになったのです。
ソフトパワーという概念を提唱したのは、クリントン政権下に
おいて国家安全保障会議議長や国防次官補を歴任した米ハーバー
ド大学大学院教授のジョセフ・ナイ氏です。ジョセフ・ナイ氏は
このソフトパワーによる対外政策の重要性を説く上でブッシュ政
権や政権の中枢を占めた、いわゆるネオコンという勢力に対し、
客観的に評価または批判をし、軍事力や経済力など強制力の伴う
ハードパワーにのみ依存するのではなく、アメリカの有するソフ
トパワーを活かすことの重要性を唱えたのです。
さらに、ジョセフ・ナイ氏は、このソフトパワーをハードパワ
ーと相互に駆使することによって、国際社会の支持を獲得し、グ
ローバル化や情報革命の進む国際社会において真の国力を発揮し
得ると説いています。
このソフトパワーについて、既出の岸博幸氏は、次のように述
べています。
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ハードパワーは強くないけれど、ソフトパワーが強い国の典型
例はイタリアだと思います。GDPは世界第7位で欧州の中で
は英独仏より下位と、経済力は他の先進国ほど強くありません
が、ローマ文明やルネッサンス文化の発祥の地、食文化の高さ
など、文化の力が高く評価されているので、重要な先進国の一
つとして認知され続けています。経済力がこれから低下する日
本が目指すべきは、イタリアのようにソフトパワーが強い国で
はないでしょうか。 ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
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現在、PCを使う人で、マイクロソフトやグーグルなどの名前
を知らない人はいないし、本に興味のある人でアマゾンの名前を
聞いたことがない人はいないと思うのです。
マイクロソフトのОSのウインドウズ、検索エンジンのグーグ
ル、ネット上の書店や電子書籍のアマゾン、アイフォーン、アイ
パッドのアップル──毎日使うものであり、いつも耳にしている
と、そこに何らかの近親感が湧いてくるもの、これこそソフトパ
ワーそのものです。
ジョセフ・ナイ氏は、ソフトパワーの管理に関し、次のように
述べています。
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重要なことはソフトパワーは国家により管理できない。軍事力
や経済力などのハードパワーと異なり、ソフトパワーは、部分
的に政府の目標に影響しているに過ぎないし、そもそも自由な
社会において国家がソフトパワーを管理することがあってはな
らない。 ──ジョセフ・ナイ教授
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しかし、ソフトパワーといえども国家戦略なのです。米国に愛
国者法がある限り、プラットフォーム企業に個人情報を預けるの
は、そこに大きなリスクが生じないとは限らないのです。
世界で5億人を超える会員を有するSNSのフェイスブックは
サイトの利用量で、既にグーグルを追い抜いているのです。この
フェイスブックは、2009年にSNSの信頼を揺るがす大事件
を起こしているのです。
フェイスブックは、ほとんどのユーザーが気がつかないままに
プライバシーポリシーを変更してしまったのです。自分で設定し
直さない限り、メンバー以外の第三者にもプライバシー情報を開
示できるよう改変したのです。また、フェイスブックが、メンバ
ーの個人情報を広告主に「売る」ことで利益を得ていたことも発
覚しています。ユーザーがフェイスブック上の広告をクリックし
たさい、ユーザーの同意を得ないまま、広告主にユーザー名やI
D番号がわたっていたのです。
米国の有名企業で、しかも「無料」ということはひとつのワナ
でもあるのです。ナイ教授は国家は管理できないといいますが、
それがソフトパワーという国家戦略である以上、利用者は慎重に
なるべきです。 ──[メディア覇権戦争/26]
≪画像および関連情報≫
●「ソフトパワー」について
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1、ハーバード大学教授ジョセフ・ナイが国際政治における
ソフト・パワーの重要性を強調した後、軍事力や経済力とい
うハード・パワーを国際情勢の決定的な要因とする見方に対
して、ソフト・パワーを重視すべきであるとの論が出てきて
いる。文化や制度の魅力が国際情勢に与える影響を無視すべ
きではないことは当然である。しかしそれを過大に評価する
と、逆の間違った判断に陥る危険がある。
2、ある国の文化や制度に興味を持った場合、人はその国の
言語を学ぼうとすることが多い。言葉を理解しないで、文化
を理解することは(音楽や絵画は別だが)一般的にいって難
しい。文化のなかで言語の占める位置はかなり重要なのでは
ないかと思われる。その意味で、ある文化の魅力とその文化
の言語への関心はある程度連動している。
http://blogs.yahoo.co.jp/kokusaijoho_center/21088652.html
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ジョセフ・ナイ教授