2010年08月27日

●「米国による情報支配の現実」(EJ第2886号)

 グーグルやアマゾンなどの米国のプラットフォーム・レイヤー
企業が各国のシェアを独占しています。日本をはじめ米国以外の
先進国は、この分野での競争には完全に遅れをとっています。こ
のまま行くと、何が問題になるでしょうか。
 慶応義塾大学教授の岸博幸氏は、米国のプラットフォーム・レ
イヤー企業による市場独占によって、次の3つの問題点を指摘し
ています。今週から来週にかけて検討して行きます。
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      1.米国による世界情報支配が強まる
      2.米国のソフトパワーが強化される
      3.米国の世界ネット広告市場の制覇
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「米国による世界情報支配が強まる」ことです。
 ネットというのは情報の流通経路ですが、その中核はプラット
フォーム・レイヤーです。これは、情報を蓄積・加工・提供する
レイヤーですが、ここを米国企業に牛耳られつつあるのです。こ
れについてとくに日本人は何ら危機感を持っていないのです。
 「情報を米国に見られる」リスクについて考えたことがあるで
しょうか。典型的なものに、プラットフォーム・レイヤーが提供
するフリー・ツールがあります。ホットメール、Gメール、それ
に無料のビジネス・アプリケーションなど、これらを利用してい
る人はきわめて多数に上ります。
 しかし、それらのデータを蓄積しているサーバーが米国内にあ
るとき、それらのデータを米国で誰かに見られる可能性はけっし
てゼロではないのです。
 もちろん、それらのデータは一応守秘義務に守られています。
しかし、それは絶対的なものではないのです。既出の岸博幸氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もちろん契約上は守秘義務などが書かれていて、情報のセキュ
 リティ確保が明示されているはずです。しかし、紙の上の文言
 を文字通り信じてしまうのは、ちょっとナイーブ過ぎるのでは
 ないでしょうか。(中略)性悪説や米国不信が過ぎる考え方か
 もしれませんが、個人的には、情報という点 に関しては米国
 は怖い国であると思っています。もしあなたや あなたの企業
 が米国に目を付けられたら、あなたが米国のネット企業のサー
 バーに預けている情報は、決して安全ではないと考えるべきで
 す。         ──岸 博幸著/幻冬舎新書/156
 『ネット帝国主義と日本の敗北/搾取されるカネと文化』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「米国愛国者法」という法律が米国にあります。2001年9
月11日の米国同時多発テロ事件後45日間で成立し、米国内外
のテロリズムと戦うことを目的として、政府当局に対して権限を
大幅に拡大させた法律です。
 それまでの米国の法律では、当局が通信傍受できる対象にネッ
トが入っていなかったので、それが改正され、ネット上の情報の
収集についても大幅に当局の権限が拡大されています。
 これにより、電子メールも傍受の対象に入り、それにCATV
回線を使った通信も傍受できるのです。その他、医療情報、金融
情報や他の記録についても調査できる権限が与えられています。
 また、FBIがネット・サービス・プロバイダに対して個人情
報の提出を求める場合でも、プロバイダの同意が得られれば、裁
判所の関与なく捜査できるようになっています。
 この場合、ネット・サービス・プロバイダの定義が曖昧である
ので、それを拡大解釈して、プラットフォーム・レイヤー企業に
対しても、サーバーにストックされている情報を見ることが可能
であるといえます。
 要はテロと戦うという建前があれば、米国内にあるどのような
情報も当局が見ることは可能なのです。これは、国防という観点
からも放置できない問題であるといえます。
 重要なことは、日本は遅まきながらも、国内のプラットフォー
ム・レイヤー企業を育てる努力をするべきです。そういう意味で
日本の場合、ヤフー・ジャパンは51・3%のシェアを有する日
本企業です。これは世界でも例のないことです。
 といっても、米ヤフーとの関連で純粋な日本企業かどうかはっ
きりしない点があったのですが、今回ヤフー・ジャパンが、検索
エンジンを米ヤフーからグーグルに切り替えたことによって、ヤ
フー・ジャパン自身の立ち位置をはっきりさせたことになるとい
えるのです。
 なぜ、ヤフー・ジャパンが米ヤフーの提供する検索エンジンを
採用しなかったのには理由があるのです。米ヤフーはこれまで自
前の検索エンジンの開発を進めてきたのですが、昨年の夏に自前
の開発を断念し、マイクロソフトの検索エンジン「ビング」に切
り替える方針を固めたのです。そうすると、ヤフー・ジャパンに
も「ビング」が提供されることになります。
 ヤフー・ジャパンはこれを嫌ったのです。どうしてかというと
マイクロソフトのビングは開発の歴史が浅く、とくに日本語の検
索と広告配信の性能と処理能力が低いからです。そこでグーグル
に相談を持ちかけたのです。
 グーグルの立場に立つと、ヤフー・ジャパンの申し出を断る方
が戦略的にプラスだったといえます。なぜなら、ビング採用によ
って、ヤフー・ジャパンの検索の精度が下がり、多数の広告がヤ
フー・ジャパンからグーグルに移り、日本の51・3%のシェア
は切り崩されてしまうからです。
 しかし、グーグルはあえて供給に応じたのです。それは、長期
的かつ世界的な検索エンジンを巡る覇権競争が背景にあるからで
す。もし、日米のヤフーがビングになったら、大量の検索処理実
績をベースにビングの処理能力が向上することは間違いないから
です。したがってこれは、日本の唯一の砦であるヤフー・ジャパ
ンの防衛に寄与するのです。  ──[メディア覇権戦争/25]


≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフト「ビング」とは何か
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  米国時間2009年5月28日に、マイクロソフトは新しい
  検索エンジン「Bing(ビング)」を発表しました。元々、コ
  ードネーム「Kumo」という名前で開発されていたましたが、
  「Bing(ビング)」という名前に決まったようです。マイク
  ロソフトとしては、当然、グーグルと差別化する必要があり
  ますが、その差別化として「検索エンジン」ではなく、「意
  思決定エンジン」というコンセプトを挙げています。
   http://www.nextglobaljungle.com/2009/06/bing.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

岸 博幸氏.jpg
岸 博幸氏
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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