2010年08月24日

●「国会図書館から書籍のデジタル化は進む」(EJ第2883号)

 グーグルの和解案は、ベルヌ条約批准国に強い反発を招いたこ
とにより、見直され、2009年11月に和解修正案が仮承認を
受けたので、それによると、適用国が米国、英国、オーストラリ
ア、カナダの英語圏4ヶ国に限定されたのです。
 これによって日本の出版界は一息ついたのですが、それはきわ
めて甘い判断であったというべきです。なぜなら、紙の書籍のデ
ジタル化の流れは今まで少しずつ動いていたのですが、一度本格
的に動き出してしまうと、もう誰にも止められない奔流となって
世界中を席巻しつつあるからです。
 この2009年という年は、電子書籍の世界でも、政治の世界
でも大きな変化の起きる前触れの年となったのです。いうまでも
なく政治の世界では、2009年8月の衆議院選で民主党が自民
党を破り、政権交代が実現しています。
 こういう政治の動きとも関連して、日本国内において日本の出
版社や著者にグーグル問題よりもはるかに影響力の大きいあるプ
ロジェクトの動きが知られることになったのです。
 それは国立国会図書館蔵書のデジタル化の問題です。実はこの
作業は年に1億円程度の予算で、今まで少しずつ進められてきた
のです。そして2009年の時点で、明治大正期刊行図書14万
8000冊、江戸期以前の古典籍資料1000冊がデジタルデー
タ化され、図書館館内の端末で閲覧に供されていたのです。
 それが一般に知られることになったきっかけはリーマンショッ
クに対応する麻生内閣の2009年の補正予算において、従来の
100年分に相当する127億円が蔵書デジタル化予算として付
けられることになり、それが話題になったのです。
 その後民主党に政権が移り、この予算は見直しされたのですが
そのまま満額承認されています。これによって、デジタル化され
るのは、古典籍資料10万冊、戦前期刊行雑誌2万7000冊、
学位論文1万5000冊に加えて、1968年までに刊行された
図書を含めた75万4000冊に及ぶのです。
 重要なことは、これに伴い、著作権法が改正されたことです。
もともと図書館においては、資料の保存のための複製は認められ
ていたのですが、2009年の改正では、国会図書館に限定して
複製の範囲が拡大されています。その目的は「原本を利用される
ことによる滅失、損傷または汚損を避けるため」とはされていま
すが、今回の改正では「原本に代えて公衆の利用に供するため」
と記述されているのです。
 さらに、この改正案が国会で可決されたときに「その有効な活
用を図ること」という附帯決議が付いているのです。多額の税金
を注ぎ込んで、デジタル化する以上、これらのデータを広く国民
に提供するのは当然のことです。日本には納本制度というものが
あります。納本制度とは、次のような制度です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 納本制度は一国において、その国で流通された全ての出版物が
 図書館などの指定された機関に義務的に納入されることを目的
 とする制度のことである。納本制度により出版物の納本を受け
 る権利を有する図書館を納本図書館といい、特に法律によって
 定められた納本制度は法定納本あるいは義務納本と呼ばれる。
                    ──ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 国立国会図書館は納本図書館に指定されています。国会図書館
にはすべての書籍が集められるのです。したがって、そのデジタ
ル化は書籍の電子化そのものです。
 近い将来、電子書籍が普及し、日本の書籍や雑誌がすべてデジ
タル化され、そのデジタルデータが国会図書館に納本されるよう
になるはずです。そうなると、それらの書籍を図書館に足を運び
館内の端末でしか見られないのでは不便です。そこで、必ずイン
ターネットを通じた館外閲覧の要望が出てくるはずです。つまり
グーグルが提起したのと同じ問題が、日本国内に生じてくること
になるのです。
 紙の書籍の時代から、出版市場と図書館は、ある面では対立し
ある面では依存する関係だったのです。それは無料と有料のはざ
まで生まれる対立です。
 図書館の本の閲覧は無料であり、それは基本原則です。その一
方で図書館は利用者数を増やしたいのです。したがって、図書館
は、現在話題になっている書籍や売れている書籍を複数部購入し
て貸し出しています。これに対して出版社は、その分だけ本が売
れなくなると抗議するのです。
 しかし、無料で借りられますが、けっして読みたいときに読め
るわけではないのです。村上春樹さんの『IQ84』(新潮社)
などの貸出予約は2年分もあるのです。しかし、これがデジタル
化されると、予約する必要はなく、いつでも何人でも、館外閲覧
が可能になります。
 こういう場合は、読者の利益を中心に考えると、その道筋が見
えてきます。ポット出版の沢辺均氏は、グーグルの和解案を歓迎
して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 すべての人が、書籍の書誌情報(タイトル・著者名など)だけ
 でなく、その全文にたいして一定の言葉の存在を検索できるこ
 とは、その人にとって有用な書籍を『発見』する手だてを格段
 に増やし、そのことで、社会全体でさまざまな知の共有が前進
 すると思う。              ──佐々木俊尚著
  『電子書籍の衝撃/本はいかに崩壊し、いかに復活するか』
                 ディスカヴァー携書048
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、ネット検索で書籍・雑誌を含めて全文検索ができるよう
になると、読者の利便性が一挙に高まり、書籍データが有用の知
として、生かされることになります。実はグーグルが、最初から
狙っていたのはこれなのです。電子書籍元年といわれる2010
年、それは確実に前進します。 ──[メディア覇権戦争/22]


≪画像および関連情報≫
 ●「産経ニュース」/2010.8.16
  ―――――――――――――――――――――――――――
  電子書籍の利活用に注目が集まるなか、国立国会図書館は、
  電子書籍からの文字データの抽出や全文検索する際の技術的
  課題を探る実証実験を行うと発表した。来年1月までに実験
  用システムを構築し、2、3月に実験を実施、結果を取りま
  とめる予定。デジタル出版(DTP)データから文字情報を
  抽出し、規格の共通化を行うほか、実験用システムを使って
  書籍の全文検索を行うなどの実験を想定している。同館では
  書籍データの提供などで実験に協力する出版社や印刷会社を
  募集している。
  ―――――――――――――――――――――――――――

国立国会図書館/東京本館.jpg
国立国会図書館/東京本館
posted by 平野 浩 at 04:09| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。