は紙の本に加えて、電子書籍の契約をかわすようになってきてい
ます。出版社としては当然の処置であると思います。
しかし、1990年代ぐらいまでは、電子書籍のことなど想像
もしていないので、そのような契約をかわしていないのです。こ
の場合、電子書籍の出版の権利は書き手が有しており、それを出
版社以外の誰かに譲渡することは可能なのです。
既刊本のほとんどは忘れられますが、その中でも時代を超えて
永く読み継がれている名著があります。司馬遼太郎の『坂の上の
雲』や吉川英治の『宮本武蔵』などの古典から、山崎豊子の『白
い巨塔』など、そういう本はたくさんあります。
それらのいわゆるベストセラー書籍のほとんどは電子書籍の契
約を結んでいないのです。そのため、それらの著者やその家族が
既刊本のデジタル化の権利をアマゾンなどの企業に渡してしまう
ことは十分あり得ることです。
米国では実際にそういう事例がたくさんあるのです。『7つの
習慣/成功には原則があった!』という本があります。1990
年に刊行された本で、スティーブン・R・コヴィーという人が著
者です。この本は全世界で1000万部以上を売り上げており、
現在でも毎年10万部以上が販売されているのです。まさにロン
グセラーそのもの。コヴィー氏には、このほかにもたくさんのベ
ストセラー書があるのです。
この米国の売れっ子作家のコヴィー氏が『7つの習慣』の電子
書籍化権を大手出版社サイモン&シェスターからアマゾンに移し
てしまったのです。2009年の暮れのことです。
アマゾンとコヴィーさんの契約にはロゼッタブックスという小
さな会社が入っています。電子書籍が売れて、この会社がアマゾ
ンから得る利益の半分以上がコヴィー氏に支払われるようになっ
ているそうです。米国の大手出版社の場合、ネット利益の25%
が著者の取り分になるのが慣例ですが、ロゼッタブックスによる
とコヴィー氏に対し、通常の倍以上の印税を支払う契約をしたと
いっています。
既刊書のロングセラー書は、出版社にとって宝物なのです。出
版社はとくに宣伝などの努力をすることもなく、重版していくだ
けで、毎年利益を生み出してくれるからです。『7つの習慣』の
場合、その出版社であるサイモン&シェスターは、その宝物をア
マゾンにもっていかれたので、怒るのは当然ですが、これはどう
しようもないことです。
コヴィー氏の息子のショーン氏によると、今後のコヴィー氏の
本については、紙の本と電子書籍の出版権については2本立てで
進めるといっています。そして、紙の本については今後もサイモ
ン&シェスターから出し続けるといっています。
さて、コヴィー氏とアマゾンの間に入ったロゼッタブックスの
ような業者を「ディストリビュータ」といい、米国にはたくさん
そういう企業が出現しています。そのディストリビュータの中で
最も注目されているのは、スマッシュワーズという企業です。
電子書籍を作るには、それが電子書籍端末で読めるようにパブ
リッシュする必要があります。スマッシュワーズの最大の特色は
どこの電子書籍のフォーマットにも対応できる「マルチフォーマ
ット」を有しているのです。したがって、スマッシュワーズを経
由すると、キンドル、ソニー、バーンズ&ノーブルのヌックなど
あらゆる電子書籍端末でパブリッシュできるのです。
この対価として、スマッシュワーズは、著者が電子書籍で得る
印税の15%を手数料として請求しています。スマッシュワーズ
を経由して、キンドルストアで2000円の本を売る場合を考え
てみましょう。
アマゾンは最近では違うレートを採用していますが、当初は販
売手数料を65%としていたのです。これによると、2000円
の本であれば、1300円をアマゾンが取り、スマッシュワーズ
は残りの700円の15%の105円を受け取り、著者には残り
の85%に当たる595円を支払うのです。
このスマッシュワーズは、出版社やエージェントも利用するこ
とができます。そうすると、専用の販売サイトを持つことができ
スマッシュワーズの作った電子書籍を自由に販売できるのです。
その場合の印税も85%なのです。
米国の電子書籍市場ではスマッシュワーズは台風の目になりつ
つあり、創業してから2年しか経っていないのに、著者2000
人、独立系の出版社80社と契約しています。販売された電子書
籍の数は3000冊を超えているのです。
そうなると、本の書き手である著者は、大きな可能性が広がる
ことになります。今までは本を出すには、出版社から依頼を受け
るか、出版社に売り込むしかなかったのですが、電子書籍の時代
になると、紙の書籍は出さず、最初から電子書籍で行く書き手も
多くあらわれることになります。
その場合、著者は、出版社ではなく、こういうスマッシュワー
ズのようなディストリビュータと契約するか、直接アマゾンと契
約する道を選ぶようになります。こういう動きについて、出版社
は相当の危機感を持っています。
何しろアマゾンは2500円のハードカバーの本の電子書籍版
を900円で売ってしまうので、出版社としては、ハードカバー
の本を守るために対抗上いろいろなことを始めたのです。
新刊のハードカバーの本を出すときは、紙の書籍の市場を守る
ために、電子書籍版の方を紙の本の刊行よりも4〜5ヵ月遅くし
たりするなど、アマゾンと必死に戦ったのです。サイモン&シェ
スターなどはその最右翼の存在であったのです。
しかし、この戦いはどう見ても出版社が不利なのです。キンド
ルは、ますます急成長し、電子書籍のプラットフォームとしての
キンドルの支配力は強化されていったのです。そして、2009
年末のキンドルの市場シェアは60%、電子ブックの売上げでは
90%を支配したのです。 ──[メディア覇権戦争/17]
≪画像および関連情報≫
●Amazonで「電子書籍が上回った」意味
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米アマゾン社の発表によると、同社サイトでの『キンドル』
向け電子書籍の販売数が、ハードカバー本の販売数を50%
近く上回っているという。4月から6月の3ヵ月で見ると、
同社の販売は、ハードカバー本100冊につきキンドル電子
書籍143部という割合らしい。電子書籍販売は加速を続け
ており、この1ヵ月で見ると、ハードカバー本100冊につ
き、キンドル電子書籍が180部の割合にまでなっている。
大きな理由は「今年6月にキンドルが、約260ドルから約
190ドルという手ごろな価格にまで値下げされたためだ。
http://wiredvision.jp/news/201007/2010072123.html
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スティーブン・コヴィー氏の本


