2006年03月31日

日本の英国化とは何か(EJ1806号)

 日本の経済の問題を追及していくと、必ず米国との関係という
壁に突き当たります。日本にとって米国は一番大事な同盟国であ
り、そういう観点から考えると、米国との壁が存在するのは当然
であるといえます。
 しかし、日本の巨額の財政赤字もこれから実施されようとして
いる大増税もそのウラには米国の影がちらつくのです。なぜ、こ
のような国内問題にまで米国の影響が及ぶのか――このように、
日本と米国との関係には大きな謎がたくさんあるのです。そこで
今日から、「日米経済関係の謎」というテーマでしばらく考えて
みたいと思います。
 日本は世界一巨額の財政赤字を抱える一方で、経常収支は巨額
の黒字です。それに対して米国は、財政赤字と経常収支の赤字の
「双子の赤字」を抱えているのです。それにもかかわらず、米国
の経済は好調ですし、日本は元気がありません。
 ところでここでいう「経常収支」とは、モノやサービスの経常
取引の収支のことです。つまり、日本がどのくらいモノやサービ
スを輸出し、どの程度輸入したか――その差が経常収支になりま
す。日本は輸出主導経済を目標にしてきたので、当然経常収支は
黒字になります。
 しかし、日本の場合、景気が上向いてきたことは確かですが、
相変らず税収は伸びず、財政赤字は拡大し、今後史上最大の大増
税が実施されようとしています。何かおかしい、どこかおかしく
はありませんか。
 『拒否できない日本』(文春新書刊)において、著者の関岡英
之氏はこの書の「あとがき」で次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 いまの日本はどこか異常である。自分たちの国をどうするか、
 自分の頭で自律的に考えようとする意欲を衰えさせる病がどこ
 かで深く潜行している。(一部略)アメリカがこれまで日本に
 してきたことは、一貫してアメリカ自身の国益の追及、すなわ
 ち、アメリカの選挙民や圧力団体にとっての利益の拡大、とい
 うことに尽きる。そのこと自体に、文句を言ってもはじまらな
 い。自国の納税者の利益を最大化するために智恵を絞るのはそ
 の国の当然の責務である。アメリカ政府は当たり前のことをし
 ているのに過ぎないのだ。問題は、アメリカの要求に従ってき
 た結果はどうなったのか、その利害得失を、自国の国益に照ら
 してきちんと検証するシステムが日本にないことだ。
 ――関岡英之著、『拒否できない日本』より。文春文庫376
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最近「米国は日本を英国化しようとしている」ということがよ
くいわれます。どういう意味かわかるでしょうか。
 実はこの指摘は正しいのです。われわれの印象による英国とい
えば、とくに米国が仕掛ける戦争などで、たとえそれがどのよう
に理不尽であっても、それにいの一番に賛成し、行動を共にする
米国の仲良し国――そういうイメージがあります。米国は日本も
そのようにしたいのです。いや、それは単なる米国の願望などで
はなく、着実に日本を英国化すべく長期にわたって計画的に手を
打ってきていると考えるべきです。
 日本は現在純債権大国です。その順位は3番目です。最初に純
債権大国の地位についたのは英国です。蒸気機関を使う鉄道と汽
船――産業革命によって純債権大国になったのです。
 そのとき、英国に追いつこうと必死になっていたのは米国なの
です。そして、第一次世界大戦後に米国は、英国からその地位を
奪って純債権大国になるのです。内燃機関を使う自動車や航空機
などで世界を制覇したからです。これも新しい産業を起こしたと
いう意味で産業革命といえます。
 その米国に代わって三代目としてその名誉ある地位――純債権
大国になったのが日本なのです。しかし、日本の場合、英国や米
国のように、新しい産業を起こしていないのです。これが英国や
米国と決定的に違う点です。
 それは取引を行う通貨が、英国のときはポンド、米国のときは
ドルというように自国通貨を使っていたのに対し、日本はドルを
使って取引をしている点です。実はこの点が、日本が純債権大国
でありながら、大きく伸びることができない理由なのです。
 日本に純債権大国の名誉ある地位を奪われる――これが米国人
にとってどれほど屈辱的なことか、それはわれわれ日本人が考え
ている以上に大きいものなのです。いや、これは米国のみならず
ヨーロッパを含めた欧米人も同様に考えています。
 米国は失われた純債権大国の地位を取り戻すべく十分に練った
計画のもとに着実に手を打ってきているのですが、多くの日本人
にその意識は薄いようです。日本人は「われわれは戦争には負け
たが、経済で米国に勝利したのだ」と考えていますが、それは甘
い考え方です。負けたままになっている米国ではないのです。
 英国が純債権大国――ケインズ時代の英国のとき、米国は明ら
かに経済によって英国を潰しにかかっています。米国は英国に対
して何をしたのでしょうか――われわれはそれを詳しく知る必要
があると思うのです。
 日本はよく「米国の51番目の州」といわれます。興味深いこ
とに、あのジョン・メイナード・ケインズもかつて新聞記者に次
のようにいわれているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 新聞記者:ケインズさん。あんたは英国を、アメリカの49番
      目の州にしちゃったってもっぱらの噂です。ほんと
      うなんですか。
 ケインズ:ああ、そういう幸運には恵まれないね。
     ――谷口智彦著、――『通貨燃ゆ/円・元・ドル・ユーロ
             同時代史』より。日本経済新聞社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 当時はアラスカ、ハワイは米国の州ではなかったので、49番
目でいいのです。         ・・・[日米関係の謎01]


≪画像および関連情報≫
 ・谷口智彦氏について――『通貨燃ゆ/円・元・ドル・ユーロ
  同時代史』の著者
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日経BP社編集委員室主任編集委員。1957年香川県生ま
  れ。1981年東京大学法学部卒業後雑誌『現代コリア』、
  株式会社東京精密を経て1985年12月〜2003年8月
  『日経ビジネス』記者、主任編集委員。この間米プリンスト
  ン大学フルブライト客座研究員、ロンドン特派員、ロンドン
  外国プレス協会会長、上海国際問題研究所客員研究員を歴任
  現在米ブルッキングズ研究所北東アジア政策研究センター・
  フェロー、ワシントン滞在中。
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1806号.jpg
   『通貨燃ゆ』
posted by 平野 浩 at 05:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日米経済関係の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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