2010年08月02日

●「日本の電子書籍化を阻む3つの壁」(EJ第2867号)

 日本では電子書籍は果たして普及するのでしょうか。現在の日
本では、アイパッドで読める書籍は外国に比べて非常に少ないの
です。それは、出版各社が様子見をしていて、他社の動きや普及
状況をにらみながら、態度を決めようとしているからです。
 日本において、電子書籍の普及を阻んでいるのは、次の3つの
ハードルなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.独特の流通機構がある
        2.著作権という壁がある
        3.フォーマットの標準化
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は、「独特の流通機構がある」ということです。
 日本には、出版社・取次・書店の間での独特の流通機構がある
のです。電子書籍が普及すると、紙の本の売り上げは減少します
が、それにどう対応すべきか決まっていないのです。
 第2は、「著作権という壁がある」ということです。
 これまでは、出版社と著作者が契約書を交わすことはほとんど
なかったのです。しかし、電子化するとなると、既刊本でも新刊
本でも著作者から出版の許諾が必要になります。
 第3は、「フォーマットの標準化」ということです。
 紙の本を電子化するには、電子端末で読めるよう文字やレイア
ウトなどを一定のルールに基づいてデジタル化する必要があるの
ですが、その仕様がフォーマットなのです。しかし、日本ではそ
のフォーマットの標準化ができていないのです。
 ここで日本の再販価格制度──再販売価格維持制度について知
っておく必要があります。再販価格制度とは何でしょうか。
 再販価格制度とは、簡単にいうと、「定価販売」を義務付ける
法律のことです。出版社側(メーカー)がそれぞれの出版物の小
売価格(定価)を指定して、書店などの販売業者が指定価格通り
に販売することを義務付ける制度です。その対象商品は次の6種
類になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.書籍     4.音楽CD
      2.雑誌     5.音楽テープ
      3.新聞     6.レコード
―――――――――――――――――――――――――――――
 再販価格制度には期限が設けられているのです。したがって、
古本や中古CDなどが安売りされているのは、価格保持期限が過
ぎた商品だからです。
 しかし、不思議なことにDVDは、その姿・形は音楽CDそっ
くりですが、実は再販制度商品ではないのです。したがって、書
店などで激安で売られているのです。もし、電子書籍も再販価格
制度の適用外になると、書籍の激安が実現することになります。
 アマゾンは日本で「キンドル」を発売するにあたって、2つの
条件を打ち出しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.ベストセラータイトルの90%程度をラインアップ
  2.ホールセール契約(卸売りモデル)を採用すること
―――――――――――――――――――――――――――――
 アマゾンの提案による「ホールセール契約」とはどういう契約
でしょうか。
 出版社が卸売価格を決めて、小売価格はアマゾンが決めるとい
うのがアマゾンのホールセール契約なのです。再販価格制度があ
る日本では、価格による柔軟なマーケティングができないので、
アマゾンとしては小売価格決定権を持つ必要があるのです。
 このアマゾンの提案を受けて驚いたのは日本の大手出版社なの
です。そして彼らが慌てて立ち上げたのが日本電子書籍出版社協
会なのです。2010年2月1日のことです。
 日本電子書籍出版社協会は、講談社や小学館、集英社など大手
出版社21社が参加し、2000年に発足した電子文庫出版社会
を母体として、同会が運営する電子書籍の販売サイト「電子文庫
パブリ」を継承して、拡大させる方針で設立され、書籍のデジタ
ル化にさいして著作権者、ハードメーカーとの交渉や規格の共通
化、契約モデルの策定などを目指すのが目的です。
 要するに、抜け駆けをしてアマゾンとホールセール契約を結ぶ
出版社が現れないようにしようというわけです。それにしてもド
ロナワの対応そのものです。
 日本の場合、再販価格制度の他にもうひとつ委託販売制度とい
うのがあり、2つの制度の組み合わせで出版流通の仕組みが出来
上がっているのです。
 委託販売制度とは、一定の期間を定めて書籍を書店に販売委託
するのです。そして、その期間内に売れたものの代金を受取り、
売れ残ったものは返品してもらう販売システムのことで、日本の
出版物の大半がこのシステムを利用しているのです。
 取次は出版社から委託扱いで書籍を仕入れ、書店に委託扱いで
販売させる方式なのです。この方式のメリットは、書店は、売れ
なかった書籍を返品できるので、リスクが小さく多種類の銘柄書
籍を販売することができるという点です。
 しかし、日本の出版流通は、1996年をピークにして縮小し
返品率40%という異常事態の中でこの制度を維持できなくなり
つつあるのです。完全に制度疲労を起こしているのです。
 公正取引委員会の再販売価格制度を支える法的根拠は実は弱い
ものであり、公正取引委員会のスタンスは次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 出版物における再販売価格の拘束は認めているに過ぎない。多
 くの人は誤解しているが、「やっても構いません」というもの
 であって「やりなさい」ではない。
             ──『週刊東洋経済』7/3号より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[メディア覇権戦争/06]


≪画像および関連情報≫
 ●「委託販売」から「買い切り」へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  出版業界には「責任販売」という言葉がある。仕入れた側が
  責任を持って売るという、商売の世界ではごく当たり前で、
  改めて言うまでもないことなのかもしれないが、出版流通・
  販売の世界では、いま最も重要なキーワードのひとつになっ
  ている。ただし、「責任販売」に明確な定義があるわけでは
  ない。その範囲は、書店や取次が仕入れたものが売れ残って
  も返品できない「買い切り」から、返品すると仕入れ価格よ
  りも安くなる「返品ペナルティー」など、方法は様々で、主
  体も筑摩書房のような出版社(メーカー)のほか、大手取次
  (流通)、書店(小売)のそれぞれから提案されている。共
  通しているのは、「返品」をなくす、ないしは削減しようと
  いう点である。
http://www.asahi.com/digital/mediareport/TKY200904070280.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「週刊/東洋経済」/メディア覇権戦争.jpg
「週刊/東洋経済」/メディア覇権戦争
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。