2010年07月29日

●「米新聞社の倒産ラッシュの原因」(EJ第2865号)

 2008年12月8日のことです。発行部数と売り上げで全米
第2位のトリビューン社が破産手続きを申請したのです。その負
債総額は130億ドル(約1兆3000億円)にのぼるのです。
 今から思えば、それが雪崩のような米新聞社の経営破綻のはじ
まりだったのです。3月までをメモしてみることにします。
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 ◎2009年1月15日
  ・ミネソタ・スター・トリビューンが破産申請
 ◎2009年2月15日
  ・NYT社の経営危機が表面化
 ◎2009年2月23日
  ・フィラデルフィア・インクアイアラーズ社破産申請
 ◎2009年2月26日
  ・ロッキー・マウンテン・ニュースが廃刊
 ◎2009年3月31日
  ・サンタイムズ・メディア社破産申請
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 同業の新聞社の倒産を伝える新聞の見出しには「大虐殺」の文
字まで躍り、倒産情報専門の「新聞死亡ウォッチ」というサイト
まであらわれるほどだったのです。
 ここに興味深いデータがあります。発行部数の上位5社の米新
聞社の2009年3月現在の発行部数と前年比です。
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  1.USAトゥデー
             2113725(− 4.60 %)
  2.ウォール・ストリート・ジャーナル/WSJ
             2082189(+ 0.61 %)
  3.ニューヨーク・タイムズ
             1039031(− 3.55 %)
  4.ロサンゼルス・タイムズ
              723181(− 6.55 %)
  5.ワシントン・ポスト
              665383(− 1.16 %)
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきことは、WSJだけが前年比がプラスになっている
ことです。実は全米トップ25紙中でも前年比プラスはWSJだ
けなのです。
 第1位のUSAトゥデーは、2009年10月には発行部数は
188万部に減少し、第2位のWSJのそれは202万部で全米
トップの地位を奪っているのです。なお、このWSJの数字には
40万部近い電子版が含まれています。
 このWSJとニューヨーク・ポストは、いくつものテレビ局や
新聞社を傘下に置くメディア王、ルパート・マードック氏の保有
紙なのです。マードック氏は、グーグルやヤフーなどのプラット
フォーム業者によるコンテンツの無料閲覧には強い危機感を持っ
ており、2009年4月2日の有線放送業者の年次総会で次のよ
うに怒りをぶつけています。
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 インターネットを使って、ニュース・コンテンツを無料で閲覧
 する時代を終わらせなくてはならない。いつまでグーグルなど
 が我々の著作権を盗んでいくことを許しておくのか。NYTや
 WSJといったブランド力のある媒体は、そんなことをさせる
 必要はない。   ──河内孝著『次に来るメディアは何か』
                    ちくま新書/826
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国では、2009年に入ると、新聞社、通信社などのコンテ
ンツの提供者──コンテンツ業者とグーグルやヤフーなどの集約
・配給者──プラットフォーム業者の間で、利益の配分や、最終
消費者に小額課金制を導入することの是非を巡って、厳しい対立
が続いています。
 元毎日新聞常務取締役で現国際厚生事業団理事の河内孝氏によ
ると、ここでいうコンテンツ事業者のことを「アグリゲイター」
と呼んでいますが、ここでアグリゲイターとは仲介業者という意
味になります。
 こういうマードック氏の「他人の作ったコンテンツを売り、広
告収入を上げながら、富をコンテンツ提供者と分かち合おうとし
ないプラットフォーム業者は寄生虫のようなもの」という批判に
対しては反論も少なくないのです。
 CNNのケビン・ボイグ記者は、マードック氏の批判を次のよ
うに批判しています。
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 マードックの言うことはいったんひねり出した歯磨き粉をチュ
 ーブに戻すような試みではないか。
          ──河内孝著『次に来るメディアは何か』
                    ちくま新書/826
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、マードック氏にしてみると、WSJについては電子版
の有料化に成功しつつあるものの、グループ全体の利益が前年に
比べて実に47%に落ち込み、約3200億円の赤字になってい
るので、事態を深刻と受け止めざるを得ないのです。
 そのため、マードック氏としては、数年かけて新聞「紙」から
撤退し、電子版に移行する──その前提として、インターネット
・アグリゲーター、消費者へのニュース提供を有料にするという
方針を打ち出し、実行に移そうとしてきているのです。
 つまり、新聞「紙」ビジネスをデジタルコンテンツ・ビジネス
に切り替えられない限り、マードック帝国の明日はないとみてい
るのです。鋭い時代感覚であり、日本のメディアの経営者も見習
うべきです。どうも日本では、電子書籍化の怒涛のような波が既
存メディアに襲いかかりつつあるという認識を持つ人が少ないよ
うです。          ──[メディア覇権戦争/04]


≪画像および関連情報≫
 ●FOXテレビでのルパート・マードックの言葉
  −――――――――――――――――――――――――――
  10年後には、ほぼすべてのニュース・コンテンツがパソコ
  ン、もしくはアマゾン社の携帯電子媒体キンドルなどを通し
  て、読者に読んでもらうことになるだろう。
         2009年6月8日/ルパート・マードック
          ──河内孝著『次に来るメディアは何か』
                    ちくま新書/826
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ルパート・マードック氏.jpg
ルパート・マードック氏
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | メディア覇権戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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