2006年03月30日

日本は金持ちなのか貧乏なのか(EJ1805号)

 1月24日から46回にわたって続けてきた「日本は破綻危機
なのか」は今回で終了します。
 3月25日の朝刊のトップに、2005年末の国の債務残高が
800兆円を超えたという記事が出ていました。勘違いしないで
いただきたいのは、国債の残高が800兆円を超えたのではない
ことです。しかし、見出しだけを見ると、国債の残高が800兆
円を超えたと勘違いしてしまう人も出てくると思います。
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   未償還の国債残高 ・・・ 663兆7743億円
   借入金 ・・・・・・・・  59兆3494億円
   政府短期証券 ・・・・・  90兆0593億円
   ―――――――――――――――――――――――
                813兆1830億円
                   ――財務省発表
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 実は同じ25日には、2005年末の個人金融資産残高が15
00兆円を突破したという明るいニュースがあるのです。ところ
が国の借金が増えたニュースは第1面で大きく扱い、個人金融資
産増加のニュースは他の面で扱うか、ニュースそのものを載せて
いない新聞もあったのです。
 借金を大きく見せて、資産を小さく扱う――新聞まで財務省に
協力しているのでしょうか。ちなみに国の債務残高のニュースは
財務省の速報、個人金融資産のそれは日本銀行の速報です。
 日本の個人金融資産といえば1400兆円台ということで相場
が決まっていたのですが、それが前年末よりも5.6%増えて、
1509兆円になったのですから大きなニュースであり、このこ
とは日本経済にとっては明るいニュースといえます。
 景気回復で所得が増えたことに加え、株価や投資信託の価格上
昇が残高を押し上げた結果なのです。このまま景気上昇が続くと
個人金融資産は今後大きく伸びていくことが期待されます。
 個人の金融資産は、1990年度に1000兆円を突破し、そ
の後順調に伸びたのですが、2001年末に株価低迷などで前年
末比で減少に転じ、2003年末から景気回復に伴って再び上昇
に転じていたのです。
 個人金融資産が1500兆円であるということは、主要先進国
で米国に次ぐ第2位であり、大変なことなのです。しかし、その
中身を見ると、「貯蓄から投資へ」という流れが顕著であり、こ
の傾向は今後ますます強まると考えられます。
 これは一面において危険な兆候でもあるのです。貯蓄離れが進
み、投資へのシフトが加速すると、国債の中心的な引き受け手が
いなくなるからです。これによる国債価格の暴落(長期金利の上
昇)もあり得るからです。
 さて、この個人金融資産1500兆円――およそ実感の持てな
い数字だとは思いませんか。
 それは、「個人金融資産」の日銀の定義が問題なのです。まず
誰でも資産と考える不動産などの実物資産は入らないのです。逆
に資産とは考えないものが含まれます。最も金額が多いのは年金
準備金――これが150兆円以上あります。また、企業年金の運
用資産相当額も含まれるのです。
 このほか、個人事業者の事業用資産が含まれています。法人で
なければ預貯金などの名義はすべて個人となるからです。また、
未収・未払い金――まだもらっていない預金利息なども個人金融
資産に含まれているのです。
 しかし、富裕層向けの営業に力を入れる金融機関の関係者によ
ると、1500兆円の個人金融資産には実感があるといっている
のです。メリルリンチ日本証券は、日本の個人金融資産について
次のように推計しています。
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 日本の個人金融資産は人口上位1%の126万人が全体の30
 %の440兆円を保有している。1人平均では3億5000万
 円。上場企業のオーナー経営者の自社株保有額は上位500人
 で計7兆円(1人平均140億円)に上がるという。
        http://be.asahi.com/20041016/W13/0044.html
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 また、米系のハートフォード生命保険の関係者によると、現役
を引退した高齢者の持つ金融資産だけで、ゆうに600兆円近く
あり、それが使われずに眠っているといっているのです。ハート
フォード生命保険は、2000年に日本で営業を開始して、3年
半で変額個人年金保険の預かり資産が1兆円を超えたというので
す。顧客は10万〜12万人、契約1件当りの平均保険料は、約
800万円――すべて現金一括払いであるというのです。
 このように見ていくと、日本には一部に途方もない大金持ちが
存在し、それらの資金が有効に使われていない実態が見えてくる
のです。何しろ実態に近いといわれる家計調査との差が500兆
円もあるというのですから驚きです。
 47回にわたって財政を中心に日本経済を調べてきたのですが
何かすっきりしないものが残ります。なぜなら、米国に次ぐ世界
第2位の経済大国である日本の台所事情が火の車に近いというの
はどういうわけなのでしょうか。何かわれわれの知らないウラに
途方もないカラクリが隠されているのではないでしょうか。
 森本亮氏の本に次のようなことが書いてあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の外貨準備90兆円のうち73兆円の米国国債はニューヨ
 ーク連銀金庫に保管され、事実上の資産凍結となっている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本は米国の意のままに米国国債を引き受けており、莫大な米
国国債を抱え込んでいる――ブッシュ政権はその資金で減税をし
ているのです。しかも、その国債のほとんどはニューヨーク連銀
の金庫に保管され、日本は意のままに使えないのです。日本と米
国はそういう関係なのです。     ・・・[日本経済47]


≪画像および関連情報≫
 ・読売新聞/YOMIURI ONLINE
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  日本銀行が24日発表した資金循環統計で、昨年12月末の
  個人金融資産が1500兆円の大台を突破した。景気回復を
  背景に、家計が貯蓄を株などへの投資に振り向け始めた。企
  業の負債(借金)は1997年に調査を始めて以来、初めて
  増加に転じた。負債を減らし続けてきた企業も、借金をして
  設備投資をする攻めの経営に転じ、デフレ経済で停滞してい
  たお金が前向きに動き出している。(五十棲 忠史)
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20060327mh06.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

1805号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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