2006年03月24日

日本経済の潜在成長率は2%程度(EJ1801号)

 森本亮氏の本を含む多くの国家破綻本に共通していることがひ
とつあります。それは、日本の国家破綻の時期が2008年であ
ると予測している点です。このことは「2008年問題」として
巷でもいわれていることでもあります。その根拠とされているこ
とは、次の3つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.団塊の世代がちょうど定年を迎え、年金負担が急増する
 2.ビルやマンションが供給過剰になり資産デフレが起きる
 3.小渕政権時代に発行した長期国債の償還時期に該当する
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 2005年の衆議院総選挙で自民党が圧勝した9月13日のこ
とですが、谷垣財務大臣が定率減税の廃止と消費税増税について
発言し、大方のひんしゅくを買っています。選挙中自民党と公明
党は「いわゆるサラリーマン増税はしない」と訴えていただけに
財務大臣が国民の反発がくるのを承知しながら、なぜこの時期に
あえて増税発言をしたか――おそらく財務相の頭に2008年問
題があったからと考えるのが自然であると思います。
 この谷垣財務相を抵抗勢力として竹中総務相と中川自民党政調
会長が批判しています。中川政調会長は、増税の前に歳出削減が
先であるとして、公務員宿舎などの国有財産の実態を記者団を連
れて視察するというパフォーマンスを行っています。竹中総務相
も同様の発言を繰り返しています。
 また、竹中総務相は、経済財政諮問会議において、財務省寄り
の与謝野経財相や民間議員に対して、名目GDP成長率は長期金
利を上回る4%は見込めると強硬に発言し、いかにも増税反対の
旗手のように振る舞っています。
 しかし、これらの行動を冷静に見ると、事前に練り上げられた
シナリオがあって、それに沿ってそれぞれの役割を演じているよ
うに思えるのです。最終的に大増税と消費税率引き上げは同時に
行われることになっていて、中川・竹中両氏の言動は、国民の不
満が爆発しないように押さえ込む一種のガス抜きであると考えて
よいと思うのです。
 森本亮氏の分析によると、日本は必然的に重税国家になると予
測しています。その根拠は、日本の潜在成長率が2%程度まで落
ち込んでいることを上げています。
 この潜在成長率とは何でしょうか。
 潜在成長率とは、国全体の労働力、資本設備など生産活動に必
要な要素をすべて使った場合に達成可能な成長率のことです。実
質成長率、名目成長率、それに潜在成長率と実にややこしい話で
すが、潜在成長率は実質成長率や名目成長率を生み出す基盤と考
えてよいと思います。
 竹中大臣の口グセですが、日本経済は低く見積もっても2%後
半から3%程度の実質成長率を達成できる潜在的可能性を持って
いるが、その潜在成長率を高めるのが構造改革である――この考
え方は違っていないのですが、その構造改革自体が、現状何らう
まくいっていないから問題なのです。
 第一生命経済研究所の門倉貴史氏のレポートによると、ニート
の増加が、直接的には投入される労働量を減少させることによっ
て、潜在成長率の下押し要因になること。さらに、労働投入量が
減ると、資本の投入量も影響を受け、ニートの増加は間接的に資
本の投入量を押し下げることを指摘しています。
 門倉貴史氏は、日本の潜在成長率は、ニートの影響を考慮しな
い場合でも、労働不足などにより中長期的に低下するとして、以
下の予測をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    2000〜2005 ・・・ 1.72%
    2006〜2010 ・・・ 1.48%
    2011〜2015 ・・・ 1.26%
    2016〜2020 ・・・ 1.06%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 かつて高度成長期には、日本の潜在成長率は10%を超えてい
たのです。それが今やダウンする一方です。それが石油危機のあ
とは5%になり、現在では2%――門倉レポートでは2%以下に
なっている――そのくらいしかないのです。
 そうであるからこそ、竹中氏は名目成長率こだわるのです。な
ぜなら、名目成長率は物価上昇率を加えているからです。それに
名目成長率は所得税や法人税と相関が高く、税収に密接に関係し
ているのです。実質GDPが増加しなくても名目GDPが増加す
れば税収は増加することになります。わかりやすくいうと、イン
フレが起これば実質的に税収は増加するのです。
 しかし、世界規模で見ると、世界的にデフレ基調であり、景気
が好調な中国、インド、米国でもインフレ率は高くなっておらず
こんななかにおいて、日本だけインフレを起こすことは現実的な
ことではないのです。
 森本氏は上記の理由により、日本の名目成長率は高く見積もっ
ても2%程度と予測しています。森本氏はここで「税収の予測弾
性値」という考え方を持ってきます。税収の予測弾性値というの
は、GDPが1%増加するとき、税収は何%増加するかをあらわ
す数値です。森本氏はこれを「1」と想定しています。
 これによると、GDPが2%伸びたときの税収の増加率は「2
%×1.0=2%」となります。日本の税収はGDPの約10%
ですから、GDPが2%増加したときの税収増は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  500兆円×10%=50兆円 GDPが2%増えると
  50兆円×2%=1兆円 → 税収増加分
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょう。現在の税制のもとでは、自然増収は今後好況が
続いても、せいぜい1兆円しか見込めないのです。これではプラ
イマリー・バランスを黒字化の実現とその継続などできるはずが
ないのです。            ・・・[日本経済43]


≪画像および関連情報≫
 ・潜在成長率とは何か
  潜在成長率とは、国内総生産(GDP)を生み出すのに必要
  な供給能力を毎年どれだけ増やせるかを示す指標。労働力、
  資本設備など生産活動に必要な要素をすべて使った場合に達
  成可能な成長率。GDPは、個人消費や設備投資といった需
  要項目から捉えるのが一般的だが、これは需要サイドからみ
  たGDPであり、それに対して労働力や資本ストック(これ
  らを生産要素という)から、一国の供給能力を測ったものが
  潜在GDPである。
  http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_politics/w007661.htm

1801号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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