のため、ひとつのものをたくさんの固有名詞で表現することがで
きます。かつて中曽根康弘氏が首相のとき、選挙公約で「大型間
接税」はやらないと訴えたのに、あとで「消費税」をやろうとし
それを批判されると、「消費税をやらないとは、一言もいってな
い」といって物議をかもしたことがあります。
政治家や官僚は、このようなレトリックを頻繁に使うので、注
意が肝要です。日本の財政を調べていくと、随所に言葉のいい換
えやレトリックによって、本当のことが巧みに隠されているよう
なところがたくさんあります。
1965年――この年の国会で赤字国債の発行が決まったので
すが、そのとき、当時社会党の木村禧八郎議員が徹底的に政府を
追及しているのです。今の野党の国会質問とは雲泥の差があると
いってよいと思います。はじめての赤字国債を発行するのですか
ら、野党から厳しい追求のあるのは当然のことです。
既に何度も述べているように、赤字国債の発行は法律上は認め
られていないのです。そこで、毎年「特例国債法」という法律を
制定して、赤字国債を発行しているのです。
しかし、最近政治家や官僚は赤字国債を「特例公債」とか「特
例国債」といい換えているのです。この姿勢がいけないのです。
あえて赤字国債といい続けるべきなのです。なぜなら、「赤字」
という言葉がそれが借金であることを忘れないようにする最後の
歯止めになるからです。
この歯止めを失ってしまうと、そのうち財政法を改正して赤字
国債を法的に発行できるようにする可能性すらあるのです。これ
では、国債発行の最後の歯止めが外れてしまうことになります。
したがって、財政法は絶対に改正するべきではないのです。
結局、財政に関して現在やらなければならないことは、やはり
プライマリー・バランスの一日も早い均衡を実現することです。
これについては既に政府は計画を推進しており、2011年度に
は、国・地方を合わせて黒字化するといっています。
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2003年度 −19兆6469億円
2004年度 −19兆0214億円
2005年度 −15兆9478億円(見通し)
2006年度 −11兆2000億円(見通し)
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計画はここまでは一応順調に推移しているので、十分達成可能
ですが、このプライマリー・バランスを均衡させる政策にはいく
つかの抜け道があるのです。
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1.国債費が膨張する恐れがあること
2.無駄な公共事業に歯止めかからず
3.特別会計の隠れ借金を増やすこと
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第1は、「国債費が膨張する恐れがあること」です。
心配なのは長期金利が上昇し、金利が高止まりすることです。
量的緩和政策は解除され、やがてゼロ金利も解除されることは確
実です。そうなると、長期金利は上昇し、高止まりすると、国債
費が膨張する恐れが出てきます。この場合、名目GDP成長率が
金利を上回るペースで伸びればいいのですが、そうでないと、債
務残高の増加に歯止めがかからなくなります。
第2は、「無駄な公共事業に歯止めかからず」です。
プライマリー・バランスでは、国債費が外される一方で建設国
債が対象外になっています。つまり、プライマリー・バランスを
悪化させないで、建築事業を継続できるのです。そのため無駄な
公共事業にメスが入らず、建設国債の発行に歯止めがかからなく
なる恐れがあるのです。これでは、プライマリー・バランスが改
善する一方で国債残高は増えていくことになります。
第3は、「特別会計の隠れ借金を増やすこと」です。
もともとプライマリー・バランス均衡の考え方は、財政構造改
革法から出てきているのですが、財政赤字削減目標のつじつまを
合わせるために、一般会計のプライマリー・バランスの均衡に目
を向けさせ、特別会計において「隠れ借金」を増やしていくこと
を黙認していたのです。あるいは当初予算だけがコントロールの
対象となり、補正予算という抜け道も許されているのです。
3月16日の経済財政諮問会議では、長期金利と名目GDP成
長率のいつもの大議論が行われ、結局意見を集約することができ
なかったのです。次にまとめておきます。
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長期金利 名目GDP成長率
民間委員の意見 4% 3%前後
竹中総務相意見 4%以下 4%
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はっきりしていることは、どちらの意見を基本ケースにするか
で増税の幅が違ってくるのです。結局複数のケースで検討するこ
とになったのです。要するに結論が出なかったということです。
いずれにしても増税は避けられそうはありませんが、日本の税
制にはいろいろな問題があるのです。増税をするのであれば、税
制の問題点を是正してから行うべきです。
プライマリー・バランスの黒字化には、、歳入増と歳出減の裏
付けが必要です。森本亮氏は次のようにいっています。
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私にいわせると、これから大切なことは官業の不良債権処理と
官のリストラ問題だ。アレシナ米ハーバード大学教授らの研究
によると、先進国の財政再建は歳出削減七、増税三と指摘して
いる。歳出削減をおろそかにして大増税の税金地獄では失敗に
終わる例が多いのである。
――森本亮著『日本国破産に最終警告』
−−−−−−−−−−−−−−−−−・・・[日本経済42]
≪画像および関連情報≫
・プライマリー・バランスとは
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国などの財政状況を示す。国債などの借金を除いた歳入と、
過去の借金の元利払いを除く歳出を比較する。歳出の方が多
ければ赤字となり、将来の借金負担が経済規模に比べ増大す
ることになる。黒字になれば、新たな借金は過去の借金返済
に充てられるため、財政が健全であることを示す。政府は歳
出削減などで、2010年代初頭の黒字を目指している。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yougo/000338.htm
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