2006年03月23日

プライマリー・バランス論の抜け道(EJ1800号)

 日本は諸外国に比べて文化的に名詞がたくさんある国です。そ
のため、ひとつのものをたくさんの固有名詞で表現することがで
きます。かつて中曽根康弘氏が首相のとき、選挙公約で「大型間
接税」はやらないと訴えたのに、あとで「消費税」をやろうとし
それを批判されると、「消費税をやらないとは、一言もいってな
い」といって物議をかもしたことがあります。
 政治家や官僚は、このようなレトリックを頻繁に使うので、注
意が肝要です。日本の財政を調べていくと、随所に言葉のいい換
えやレトリックによって、本当のことが巧みに隠されているよう
なところがたくさんあります。
 1965年――この年の国会で赤字国債の発行が決まったので
すが、そのとき、当時社会党の木村禧八郎議員が徹底的に政府を
追及しているのです。今の野党の国会質問とは雲泥の差があると
いってよいと思います。はじめての赤字国債を発行するのですか
ら、野党から厳しい追求のあるのは当然のことです。
 既に何度も述べているように、赤字国債の発行は法律上は認め
られていないのです。そこで、毎年「特例国債法」という法律を
制定して、赤字国債を発行しているのです。
 しかし、最近政治家や官僚は赤字国債を「特例公債」とか「特
例国債」といい換えているのです。この姿勢がいけないのです。
あえて赤字国債といい続けるべきなのです。なぜなら、「赤字」
という言葉がそれが借金であることを忘れないようにする最後の
歯止めになるからです。
 この歯止めを失ってしまうと、そのうち財政法を改正して赤字
国債を法的に発行できるようにする可能性すらあるのです。これ
では、国債発行の最後の歯止めが外れてしまうことになります。
したがって、財政法は絶対に改正するべきではないのです。
 結局、財政に関して現在やらなければならないことは、やはり
プライマリー・バランスの一日も早い均衡を実現することです。
これについては既に政府は計画を推進しており、2011年度に
は、国・地方を合わせて黒字化するといっています。
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   2003年度   −19兆6469億円
   2004年度   −19兆0214億円
   2005年度   −15兆9478億円(見通し)
   2006年度   −11兆2000億円(見通し)
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 計画はここまでは一応順調に推移しているので、十分達成可能
ですが、このプライマリー・バランスを均衡させる政策にはいく
つかの抜け道があるのです。
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     1.国債費が膨張する恐れがあること
     2.無駄な公共事業に歯止めかからず
     3.特別会計の隠れ借金を増やすこと
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 第1は、「国債費が膨張する恐れがあること」です。
 心配なのは長期金利が上昇し、金利が高止まりすることです。
量的緩和政策は解除され、やがてゼロ金利も解除されることは確
実です。そうなると、長期金利は上昇し、高止まりすると、国債
費が膨張する恐れが出てきます。この場合、名目GDP成長率が
金利を上回るペースで伸びればいいのですが、そうでないと、債
務残高の増加に歯止めがかからなくなります。
 第2は、「無駄な公共事業に歯止めかからず」です。
 プライマリー・バランスでは、国債費が外される一方で建設国
債が対象外になっています。つまり、プライマリー・バランスを
悪化させないで、建築事業を継続できるのです。そのため無駄な
公共事業にメスが入らず、建設国債の発行に歯止めがかからなく
なる恐れがあるのです。これでは、プライマリー・バランスが改
善する一方で国債残高は増えていくことになります。
 第3は、「特別会計の隠れ借金を増やすこと」です。
 もともとプライマリー・バランス均衡の考え方は、財政構造改
革法から出てきているのですが、財政赤字削減目標のつじつまを
合わせるために、一般会計のプライマリー・バランスの均衡に目
を向けさせ、特別会計において「隠れ借金」を増やしていくこと
を黙認していたのです。あるいは当初予算だけがコントロールの
対象となり、補正予算という抜け道も許されているのです。
 3月16日の経済財政諮問会議では、長期金利と名目GDP成
長率のいつもの大議論が行われ、結局意見を集約することができ
なかったのです。次にまとめておきます。
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           長期金利   名目GDP成長率
   民間委員の意見   4%       3%前後
   竹中総務相意見 4%以下         4%
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 はっきりしていることは、どちらの意見を基本ケースにするか
で増税の幅が違ってくるのです。結局複数のケースで検討するこ
とになったのです。要するに結論が出なかったということです。
 いずれにしても増税は避けられそうはありませんが、日本の税
制にはいろいろな問題があるのです。増税をするのであれば、税
制の問題点を是正してから行うべきです。
 プライマリー・バランスの黒字化には、、歳入増と歳出減の裏
付けが必要です。森本亮氏は次のようにいっています。
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 私にいわせると、これから大切なことは官業の不良債権処理と
 官のリストラ問題だ。アレシナ米ハーバード大学教授らの研究
 によると、先進国の財政再建は歳出削減七、増税三と指摘して
 いる。歳出削減をおろそかにして大増税の税金地獄では失敗に
 終わる例が多いのである。
 ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
 −−−−−−−−−−−−−−−−−・・・[日本経済42]


≪画像および関連情報≫
 ・プライマリー・バランスとは
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  国などの財政状況を示す。国債などの借金を除いた歳入と、
  過去の借金の元利払いを除く歳出を比較する。歳出の方が多
  ければ赤字となり、将来の借金負担が経済規模に比べ増大す
  ることになる。黒字になれば、新たな借金は過去の借金返済
  に充てられるため、財政が健全であることを示す。政府は歳
  出削減などで、2010年代初頭の黒字を目指している。
     http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yougo/000338.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

1800号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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