2006年03月22日

日銀と政府の不適切な関係(EJ1799号)

 日本の一般会計予算で特徴的なことといえば、歳入と歳出が同
じであることです。いや、同じであるといういい方は正しくない
――同じにしているというべきでしょう。
 人に聞いた話ですが、米国の予算においては歳入と歳出は違う
のが普通なのだそうです。そして歳入の不足分があるときは「財
政赤字」と明記されているそうです。これを埋めるのは国債であ
り、こういう会計のやり方であれば、「国債は借金である」こと
が誰の目にも明らかであって、大変わかり易いのです。
 しかし、日本では「歳入の部」に「税収」と並んで「国債」の
項目があるのです。これはおかしな話です。国債は借金であるの
に歳入の部――すなわち、収入の部に計上されているからです。
赤字が収入の部に計上されている――これは基本的におかしなこ
とですが、これが当たり前なこととして通っているところに日本
財政の借金体質を見る思いがします。当然のように毎年借金をし
ているという感じなのです。
 国債を償還するための借換債が100兆円ある――この事実を
認識している国民は少ないと思います。国民の感覚では毎年30
兆円前後の赤字国債を発行せざるを得ないことはわかっていても
その他に国債の償還のためにさらに100兆円以上の国債発行を
しているとは思っていないでしょう。国債償還費が特別会計で処
理されているため、国民には見えにくいのです。
 日本は今後毎年100兆円以上の借換債に加えて30兆円前後
の赤字国債を発行し続けなくてはならないのです。それに道路建
設などのための建設国債もそれに加わるのです。こうなってくる
と、いかに日本は金融資産を持っているといっても安心はできな
いといえます。長期金利の上昇が心配だからです。
 森本亮氏は、長期金利の上昇による債券クラッシュが起きる前
に、カルロス・ゴーン氏のような人が現われて、大なたを振るっ
てくれることが大事であるとして、国債の両刃の剣の怖さを知り
抜いている福井日銀総裁に次のように期待をかけています。
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 福井総裁はかつて自分の立場を「両手を縛られてボクシングを
 するようなものだ」と語ったことがある。福井総裁は大学時代
 には、ハンドボール部の主将をつとめた方だけに、スポーツを
 見る目、万事に通ずるということか。とにかく、最後のデフレ
 ファイターである福井総裁が「両手を縛られたボクサー」から
 抜け出す道は、「忍耐と寛容」から脱皮して、国債は今や「世
 紀の愚策」であり、「両刃の剣」であることを堂々と口にする
 ことではなかろうか。
 ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
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 その福井日銀総裁は、3月9日にコップ一杯の水でいい患者に
バケツ一杯の水を与えるに等しい量的緩和の解除を宣言して、既
に縛られた縄を解いています。しかし、最近の日銀のやっている
ことには、いささか懸念すべきことが多いのです。
 そのひとつは、日銀が2003年度から会計ルールを変更した
ことがあげられます。ところで日銀、すなわち日本銀行は、れっ
きとした株式会社なのです。1960年に店頭登録されており、
1株の額面は100円、発行総額は1億円です。しかし、日銀株
の55%は財務大臣が保有していて、株主には議決権がなく、出
資総会(一般の株主総会)にも議決権はないのです。
 2003年まで日銀は保有国債の評価法について「低価法」と
いう会計ルールを持っていたのです。低価法とは、取得原価と期
末時点での時価(時価とは期末時点での取得に通常要する価額で
す)とを比較して、いずれか低い方の価額で債券を評価する方法
です。つまり、低価法をとると、毎期評価損益を計上する必要が
あるのです。
 これに対して「原価法――償却原価法」とは、期末時点で保有
する債券を取得原価で評価する方法をいうのです。この場合、期
末時点で保有する債券について、取得時から値下がりしていたと
しても、その値下がりについて損失を計上しなくていいのです。
 日銀としては、原価法を採用したことによって、市中銀行が保
有している国債や株式――本来やってはならないことを引き受け
易くしたことは確かであり、そのための会計ルールの変更である
といわれても反論はできないと思うのです。
 2005年12月現在、日銀の株価は14万6000円です。
日銀株価の最高値は、1988年12月の75万5000円でし
たので、実に約80%ダウンしたことになります。それに日銀の
現在の自己資本比率は7.33%であり、8%を割り込んでいる
のです。どうして、こうなったのでしょうか。
 それは、日銀が財政法第5条で禁じられている「日銀による国
債引き受け」をやっているからです。次の2004年12月2日
付、日本経済新聞の記事を読んでください。
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 政府・日銀は来年度以降の国債の大量償還に備えた協力体制を
 強化する。現在はオペなどで日銀が市中購入した国債が満期を
 迎えた際、政府が1年に限って短期国債を発行。日銀に引き受
 けてもらって現金償還を先延ばししているが、政府・日銀はこ
 の期間をもう1年延長する方向だ。過去に積み上がった国債の
 償還を段階的に進める狙い。ただ、例外的に認められる「日銀
 の国債引き受け」が拡大する懸念がある。
       ――2004年12月2日付、日本経済新聞より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日銀が保有する長期国債は、償還期が来たら現金で償還される
のがルールです。ところが日銀はそれをしないで、1年間の短期
国債で借り換え、現金償還を1年延期したのです。これは事実上
の日銀による国債引き受けになります。上記の日経の記事はこの
方法が常態化することを懸念しているのです。なぜなら、そうな
ると、国債の相場が急落するからです。それに2008年には長
期国債の償還が激増するのです。   ・・・[日本経済41]


≪画像および関連情報≫
 ・財政法第5条
  「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受
  けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを
  借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合におい
  ては、国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない」
 ・財政法では、このように日銀国債の引き受けは禁じている。
  しかし、日銀の「乗り換え短期国債」の引き受けは例外規定
  に基づき、国会の議決を経て引き受け可能となっている。

1799号.jpg
posted by 平野 浩 at 09:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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