2006年03月20日

建設国債と赤字国債の差がなくなっている(EJ1798号)

 建設国債が60年償還であることは、期間が長過ぎるとは思う
ものの、単なる借金ではなく社会資本が残るので、一応納得でき
ます。しかし、赤字国債となると話は違ってきます。
 既に述べたように赤字国債は、国の経常的経費に当てられる国
債であって、財政法では原則として発行できないようになってい
るのです。そのため、歳入欠陥が生じたときは、毎年度特例法を
制定して発行しているのです。
 したがって、本来であれば赤字国債は年度内に償還されるべき
ものです。といっても、さすがに年度内償還は無理であり、通常
10年間で償還していたのです。事実1984年度までは、10
年間の償還期間を守って全額返還されていたのです。それに赤字
国債には借換債は認められていなかったのです。
 しかし、1985年の特例法から、赤字国債も建設国債と同じ
60年償還になったのです。この犯罪的ともいうべき決定をした
のは時の中曽根首相であり、竹下蔵相です。赤字国債に借換債を
認め、60年償還ルールを適用するなどということは他国に例を
見ないのです。
 60年間といえば、財務省などの国の機関で働く官僚が定年に
なるまでの間には――たとえ新入社員であっても、償還期限は到
来しないのです。したがって、どうしても無責任になります。つ
まり、借金の60年先送りです。どうせ償還は先の話であり、そ
のときオレは役所にいない。あとは野となれ山となれだ・・とい
うことになります。
 そもそも戦後日本が赤字国債を発行したのは、1965年度の
補正予算からです。この年はいわゆる「40年不況」で、税収が
大幅に減ったのです。そして、翌年の1966年度からは建設国
債を発行するようになり、国債発行政策をはじめたのです。
 なぜ、国債発行政策をとったかというと、GDP成長率が鈍化
して税収が伸び悩み、その一方において公共投資の必要性があっ
たからです。
 しかし、赤字国債についてはその後1974年度までは発行し
ていないのです。さすがに赤字国債は一時的なものとすべきであ
るというまともな考え方が当時はあったからといえます。
 ところが1985年からは、建設国債と赤字国債は、償還期限
が同じになったので、その根拠法と発行対象の違いはあるものの
区別する必要性はなくなってしまったといえます。
 森本亮氏は、この借換債について、次のように述べています。
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 この財務省の2つの「亡国の技巧」(建設国債の60年償還ル
 ールと赤字国債にも同じルールを適用したこと/平野注)の結
 果、「借換債」というとんでもない代物を生んでしまった。こ
 んな国債は世界に類例がない。日本の財務官僚や政治家の会計
 音痴ぶりが世界の笑いものになっているが、その自覚すらない
 のである。借換債は現在100兆円の大台に乗っているが、こ
 れが財務省の「奥の手」だと自慢しているようでは、言語道断
 だ。財務官僚の罪は万死に値し、具体的には「公務員職権乱用
 罪」にあたるのではなかろうか。
 ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
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 3月16日の朝日新聞によると、財務省は「増税せずに歳出削
減だけで財政を健全化しようとしたら・・」という試算を財政制
度等審議会(財務相の諮問機関)で報告しています。
 国立大学の授業料は4倍近くなり、災害時でも設備が足りない
自衛隊が出動できず、取り締まりが手薄になって不法滞在外国人
が増えるなど国民生活に大きな影響が出るという、増税の地なら
しをしたい同省の意向が強くにじむ内容になっています。
 しかし、日本の財政を今のような状況にしたのは財務省自身で
す。しかるに、そういう反省がほとんど感じられず、国民に対す
る一種の脅しのようになっているのは残念なことです。国民は何
もわるくないからです。
 借換債は2005年に100兆円の大台に乗っており、これか
ら毎年じりどりと増える一方です。
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  2005年  104兆円  2012年  112兆円
  2006年  113兆円  2013年  116兆円
  2007年  117兆円  2014年  123兆円
  2008年  119兆円  2015年  123兆円
  2009年  115兆円  2016年  128兆円
  2010年  113兆円  2017年  133兆円
  2011年  111兆円
                 ――森本亮氏前掲書より
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 こういう借換債は、国の予算である一般会計には計上されない
のです。借換債は、国債整理基金特別会計で発行されるのです。
この特別会計で処理されるものについては外からは見えないので
国民の目につきにくいのです。
 一般的に財政とか予算というのは一般会計のことです。一般会
計は税金などを財源とし、政府活動のなかの基本的な経費を賄っ
ているのです。しかし、特別会計は、特定の事業を含む場合や、
特定の資金を保有して運用を行う場合、その他特定の歳入によっ
て特定の支出に充当し、一般の歳入歳出と区別して経理する必要
のあるものに限って設けられている会計です。
 例えば、市場に出る国債には、一般会計で発行される新規分と
特別会計で発行される借換債の両方があるのですが、市場参加者
にはその区別はつきません。このように、国債の新規発行と借換
発行が会計によって区別されているのは日本だけなのです。
 この他、特別会計で発行されるものとしては、「蔵券」と呼ば
れる財務省証券、「糧券」と呼ばれる食糧証券、「為券」と呼ば
れる外国為替資金証券などがあります。このように会計が2つあ
ると会計が不透明になってしまうのです。・・[日本経済40]


≪画像および関連情報≫
 ・特別会計とは何か
  国の予算には、教育費や防衛費など政策経費を扱う一般会計
  のほかに、厚生保険特別会計や道路整備特別会計など全部で
  31の特別会計(特会)がある。特会は、国民の「受益と負
  担」との関係を分かりやすくし、弾力的かつ効率的に予算執
  行するのが本来の趣旨だ。しかし、実際には、31特会の予
  算規模はあわせて387兆円、特会同士の重複部分などを除
  いても207兆円にのぼり、例外のはずの特会が、一般会計
  の5倍近い規模に膨らんでいる。さらに、特会の収入のうち
  の47兆円は、一般会計からの繰り入れでまかなわれ、一般
  会計歳出の6割近くを使っている。―2005年度予算数値
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo151.htm

1798号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:54| Comment(3) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも勉強させてもらっています。
色々読ませていただきまして、少し疑問に思うことがございましたのでコメントさせていただきます。
今までの正社員サラリーマン層が派遣社員、パートなどに置き換わってきているのが今の日本だと思うのですが、なぜ政府はこれからの日本を引っ張っていくこれらの層に対して増税を行っていくのでしょうか?そしてなぜ、それらの層と反対側にいる恵まれた層には減税を行うのでしょうか?
私には理解できませんので、ぜひ、見解をお聞かせ願いたいのですが。
Posted by てつを at 2006年03月21日 10:02
 てつを様
 EJブログをご愛読ありがとうございます。
 ご質問に件については私も同感です。政府はとりやすい層から税金を取
りたいわけです。日本の場合、国民の大多数(サラリーマンは就業者全体
の70%)は中流以下であり、所得の少ない層ですが、人数は圧倒的なの
です。したがって、この層の税を増やすと大きな税収が得られるわけです。
 それに対して富裕層は数が少ないことと、そのなかには、大企業の経営
者など、選挙のさいに協力してくれる人が含まれますし、自分もそのなか
に入っているわけで、どうしても甘くなるのです。
 これらのことは、改めてEJのテーマとして取上げて論じたいと考えて
います。今後ともよろしくお願いします。
Posted by 平野 浩 at 2006年03月22日 10:17
ご返答ありがとうございます。
つまり、一部の人たちのための政治を行っているのですね。
わたしは、現状の日々が続くとの認識の中で海外移住を検討しています。日本が全ての膿をだして、老後まで安心して暮らせるようになれば、最高なんですが。

それでは、更新を楽しみにしております。
Posted by てつを at 2006年03月24日 12:54
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