2010年05月11日

●「江副浩正と大物検事との攻防」(EJ第2809号)

 1988年11月7日、遂に特捜部が半蔵門病院にやってきて
江副氏は松原事件に関する事情聴取を受けたのです。そのとき、
やってきたのが、樋渡利秋検事──現検事総長です。
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 樋渡検事は頭脳明断で沈着冷静な紳士との印象を受けた。
 「松原弘の楢崎氏への贈賄申込みに君は関与しているの」
 「関与していません。テレビを見て初めて知りました」
 「お金の出どころはどうなつているの」
 「分かりません」
 「君は本当に関与していないの」
 「はい。テレビを見て初めて知りました」  ──江副浩正著
    『リクルート事件・江副浩正の真実』/中央公論新社刊
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 ここで江副浩正という経営者について少し説明をしておく必要
があると思います。そうでないと、江副氏がなぜあれほど多く
の政治家やその秘書にコスモスの未公開株の譲渡をしたことが理
解できないと思うからです。
 江副氏自身は、自分の付き合いについて自著で次のように述べ
ています。
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 40代になり、銀座に本社ビルを建て、そのあと日軽金ビルを
 買ったころから、私は社外へ目を向けるようになった。経団連
 に入会、経済同友会の幹事や日経連(日本経営者団体連盟)の
 政策委員になり、経済同友会の軽井沢での夏季セミナーや、日
 経連が開催する富士吉田の合宿研修に参加するうちに、他の経
 営者との付き合いが深まっていった。そうした場で知り合った
 経営者から、「僕が応援している政治家の出版記念パーティが
 開かれることになった。僕は世話人代表だが君も世話人の一人
 になってくれないか」と話しかけられることが時折あった。ま
 た、私は取締役会に政治家を招いて話を聞くこともしていた。
 全社マネジャー会議でも、学者や経済評論家だけでなく同じよ
 うに政治家も講師に招き、国の経済政策や外交問題など、ビジ
 ネスには直接関係のないテーマで講演してもらっていた。
                ──江副浩正著の前掲書より
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 そうした付き合いを通じて、江副氏は積極的に政治献金をする
ようになっていったといいます。政治献金なしには良い政治家は
輩出されない。良い政治家が出てこなければ良い国はできないが
政治家は代議士の身分でいること自体にお金が必要である──そ
う考えて、江副氏は積極的に政治献金やパーティー券の購入を拡
大していったのです。そこには、何らかの見返りを求める気など
きったくなかったのです。
 実は検察も江副氏に関するそういう情報はある程度掴んでいた
のです。しかし、松原事件で腰を上げた検察は、そういう江副氏
を落とす──起訴して有罪──にするにはどうするかを徹底的に
研究したのです。検察の立場からすると、腰を上げた以上そうい
う成果が得られなければ、検察の敗北を意味していたからです。
 そこで検察は、EJ第2807号でも述べたようにあるストー
リーを組み立てたのです。それは、江副氏がリクルートのさらな
る事業の拡大を図るために積極的に政治献金を行い、値上がり確
実なコスモスの未公開株を政財界に幅広く譲渡することによって
近い将来何らかの便宜を計ってもらうというストーリーです。
 1988年12月20日、特捜部から「マスコミを避けるため
こちらから出向くので、どこか場所を指定して欲しい」という連
絡が入ったのです。そこで、リクルートグループのホテル「芝グ
ランドプラザ」に部屋を用意し、江副側の牧義行弁護士が検察庁
に検事を迎えに行ったのです。
 容疑は「証券取引法違反」、担当検事は宗像紀夫氏であったの
です。いきなり大物検事の登場です。そのやりとりの一部を江副
氏の本から紹介します。
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 「なぜ大勢の人に株譲渡をしたのですか。親しさもあるでしょ
 うが、利害関係もあるでしょう」
 「50歳にもなれば、仕事の関係と友人とを区別するのは難し
 くなります。経営者の集まりで知り合って、友人関係になるこ
 ともあります」
 「それはよく分かります。利害関係がなければいいんですよ。
 仮にあなたが私と学生時代からの親しい関係で、私に譲渡した
 のならば問題はない。しかしそうでない人もいるでしょう」
 「株譲受人と特段の利害関係はありません」
 「政治家は違うでしょう?見返りを期待しない政治献金はない
 と、どの新聞も書いています」
 「政治家を応援しようという気持ちからで、見返りを期待した
 ものではありません」     ──江副浩正著の前掲書より
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 宗像検事は、「グレーのスーツに厚い眼鏡で中肉中背、実直な
公僕というイメージ」と江副氏は書いています。この人は穏やか
な口調で話す人で、けっして怒鳴ったりしないそうです。
 宗像検事は「新聞では」というフレーズをよく使う人です。上
記のやりとりでも「見返りを期待しない政治献金はないと、どの
新聞も書いています」といっています。
 取り調べが終わると、宗像検事は「次回は調書を作ってくるの
で署名だけしてもらいたい」といって帰っていったといいます。
この調書というのが、前述の検察の作ったストーリーが書かれて
いるのです。
 宗像検事が引き揚げた直後に、江副氏がテレビのスイッチを入
れると「本日、東京地検特捜部は江副前会長を取り調べた模様」
と報道していたのです。メディアを避けるといいながら、ちゃん
とメディアとつながっていたのです。
            ――──[ジャーナリズム論/13]


≪画像および関連情報≫
 ●東京地検特捜部の取り調べを伝えるメディア
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  「江副氏の事情聴取は、今回の捜査で主任検事を務める宗像
  紀夫・特捜部副部長が自ら行ったが、特捜部の副部長が調べ
  に乗り出すのはきわめて異例。そこに、特捜部の並々ならぬ
  意気込みがのぞく。江副氏は、問題の株ばらまき工作で紛れ
  もない中心人物。江副氏にすべてを語らせない限り、リクル
  ート疑惑の全容解明はあり得ない、と多くの捜査関係者は指
  摘する。しかし、表面はソフトな語り口ながら、こうと決め
  たら口を開かない江副氏のしぶとさは、株譲渡を受けた民間
  人の氏名公表を詰め寄られても、あくまで応じなかった国会
  証言で実証済み。     ──12月29日付、読売新聞
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樋渡利秋検事総長.jpg
樋渡 利秋検事総長
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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