既に政界を引退していますが、楢崎元代議士は「国会の爆弾男」
の異名で知られ、誰もが驚くようなネタ掴んで鋭く質問すること
で与党議員から恐れられていた存在だったのです。
その楢崎代議士が、1988年7月以降に、リクルートとコス
モスに何回もやってきて、次のように迫ったというのです。
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国政調査権がある。コスモス株の譲受人の名簿をすべて提出し
てもらいたい。 ──楢崎弥之助氏
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もし、名簿を渡すと、名前が明らかになっていない株譲受人に
迷惑がかかるので、幹部はその対応に苦慮していたのです。そう
いうときに、松原社長室長に危機管理を専門にしていると自ら売
り込んで、リクルートに中途入社した男がいるのです。田中辰巳
氏というのです。この田中なる人物は、江副氏が保釈後にリクル
ートを退社し、株式会社リスク・ヘッジを設立しています。この
会社は現在でも存在はしていますが、今ひとつ素性がはっきりし
ていないのです。
その田中なる人物は、楢崎代議士の狙いはカネであるとし、赤
坂の議員宿舎にカネを持っていくよう主張したのです。それをリ
クルートの間宮常務が真に受け、カネを持って楢崎代議士のとこ
ろを訪問するよう松原社長室長に指示したというのです。今にし
て思えば、中途入社の素性のはっきりしない人物の言を信ずるな
ど考えられないことですが、困り果ててうかつにも悪魔のさそい
に乗ってしまったのではないと思われます。
間宮常務の指示を受けた松原氏は、8月4日の夜、楢崎代議士
の議員宿舎を訪ねて、株の譲受人の名簿はご容赦いただきたいと
いって、楢崎氏にカネを渡そうとしたのです。しかし、楢崎氏は
カネは受け取らなかったのです。
しかし、それから26日後の8月30日、楢崎代議士から松原
氏に電話が入り、「例のものを持ってきて欲しい」と要請された
というのです。そこでその日の午後3時頃に楢崎代議士の議員宿
舎を訪ねて、前回と同様にカネを渡そうとしたところ、また断ら
れたというのです。これには、松原氏はおかしいとは思ったので
すが、そのときも目的を果たせず、引き上げたのとです。
それは、リクルート・コスモス側からのカネの提供──コスモ
スは、そういうことですぐカネを出す企業体質の会社であるとの
証拠にするため、楢崎氏が誰かと仕組んで、隠しカメラで松原氏
とのやりとりの模様を撮影させたのです。そして、楢崎事務所は
そのテープを日本テレビに持ち込んだのです。
このテープの放映を巡って、日本テレビ内では相当議論があっ
たようです。しかし、結局は「スクープ特番」として、9月5日
に日本テレビから放映されたのです。これが「松原事件」と呼ば
れるものです。1988年9月8日、楢崎代議士は東京地検に松
原、江副氏らを告発したのです。
もし、リクルートが田中なる人物のいうことを無視し、楢崎代
議士の事務所にカネなど持って行かなければ、検察も動かず、リ
クルート事件はそれで終わっていたのです。しかし、それでは困
ると考える人たちがいて、何とか騒ぎを大きくしたかったと思わ
れるのです。
検察は、コスモスの未公開株譲渡事件では最初から動くつもり
はなかったのですが、松原事件によって「これならいける」と考
え直したのです。最低でも松原弘室長は贈賄容疑で起訴できると
確信したからです。
10月12日に、半蔵門病院入院中の江副浩正氏に対し、衆議
院の「税制問題等調査特別委員会」による病床質問が行われたの
です。その委員会の委員長は、あの金丸信氏であったのです。
翌日13日の朝日新聞は次のように報じ、江副氏のイメージは
だんだん最悪になっていったのです。
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≪第一面トップ≫
江副氏、株譲渡先の公表拒む
≪社会面トップ≫
刑罰受けても話せぬ
──10月13日付、朝日新聞より
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さらに朝日新聞は、10月15日に次の見出しでリクルート疑
惑の徹底解明を謳っているのです。
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株譲渡解明へ捜査態勢を強化/リクルート疑惑で東京地検
──10月15日付、朝日新聞より
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告発を受理した東京地検特捜部は、10月19日にリクルート
本社や関連会社など数か所の強制捜査を着手したのです。このと
き、リクルート本社には捜査員が30人、コスモス社には20人
が動員されたのです。そして、その翌日、特捜部は松原室長を贈
賄容疑で逮捕したのです。
しかし、楢崎代議士のやったことは、その後大きな問題になっ
たのです。この件については、文芸評論家の山本七平氏が次のよ
うに述べています。
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決定的瞬間を隠し撮りするために期待をもたせて何度も通わせ
たのは国会議員が国民を罪に陥れようとしたことで、道義的に
問題である。 ──山本七平氏
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いずれにしても、この松原事件は、リクルート事件のターニン
グポイントになったのです。このようにして、いったん終わりか
けていたリクルート事件は息を吹き返し、その後ますます大事件
になって、政財界に大きな影響を及ぼしたのです。
――──[ジャーナリズム論/12]
≪画像および関連情報≫
●楢崎氏の手記/事実と異なる話になっている
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私がこれはおかしいなと思い始めたのは、それまで何の面識
もない松原弘リクルートコスモス社長室長が私の予算委員会
質問の前日、八月四日の夜遅く、突然、赤坂議員宿舎の私の
部屋を訪れたからだ。引き続いて旧盆休み明けの二十五日、
そして二十八日、二十九日は二日間続けてわざわざ東京から
私の故郷、博多の自宅にまで彼が飛んできてからである。毎
回「できるだけのことはいたしますので、何分お手柔らかに
よろしくお願いします」とか「どうぞ助けて下さい」などと
いって、「先生も政治活動には何かと費用がかかりましょう
から」と執拗に現金を私に受け取らせようとする言動、そし
て「先生が議員活動を続けられている限り、リクルートとし
ては最後まで、ご支援をさせていただきたいと思っておりま
す」という支援申し込み、これは余りにも異常である。
http://www.eda-jp.com/books/usdp/3-29.html
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楢崎 弥之助氏