2006年03月15日

シュンペーター的財政赤字の日本(EJ1795号)

 ここまで日本の財政危機に関して、何が何でも大増税を実施し
ようとしている財務省などの動きに関し、菊池英博教授の本を中
心に本当に日本は財政危機なのか、増税する前にまだやることが
あるのではないかといろいろ探ってきました。
 しかし、世の中の動きは政府内で多少の反対の動きはあるもの
の、大増税に向って真っ直ぐ進んでおり、残念ながら、いまさら
何をいおうと大増税の路線は変わらないように思います。
 どうしてなのでしょうか。どうも何かが隠されているように思
えてなりません。財務省はそのすべてを知っており、何が何でも
ここで大増税をしないと大変なことになることを知っているので
はないでしょうか。
 神野正彦東京大学・大学院教授は、日本の財政赤字の実態を次
のことばで表現しています。
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  小さすぎる政府が大きすぎる借金を抱えた弱すぎる財政
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 このように表現されると、日本は確か「小さい政府」を目指し
ているはずだけれど、既に「小さすぎる政府」であるとはどうい
うことかと考える人が多いと思います。
 なぜ、「小さすぎる政府」なのかというと、神野教授によると
日本は米国とともに経常収入が先進国中非常に小さいので、小さ
すぎる政府だというのです。
 それでは「経常収入」とは何でしょうか。
 経常収入とは、国税と地方税の租税負担と社会保障負担の合計
――すなわち、国の国民負担率のことです。この金額のGDP比
をとると、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            1999年     2000年
     日  本   31.1%     32.2%
     米  国   31.0%     31.6%
     カ ナ ダ   40.9%     40.3%
     英  国   40.4%     40.3%
     フランス   50.4%     49.8%
     ド イ ツ   44.5%     44.4%
     イタリア  46.4%      46.6%
   神野正彦著、『二兎を得る経済学/景気回復と財政再建』
                 講談社+α新書79−1C
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この数字を見ると、日本と米国は他の国に比べると、GDP比
が非常に低いことがわかると思います。したがって、日本は小さ
すぎる政府であるというのです。
 なぜ、日本がこのような小さすぎる政府になったのかというこ
とについて、神野教授は次のようにいっています。
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  不況のもとで少なくとも実施しておくべき税制改革は、景気
 が回復した時に自然増収が期待できるようなメカニズムをイン
 プットしておくことである。不況になれば、所得が減少し、個
 人所得税は低い累進税率が適用されるようになり、企業は赤字
 に陥り、法人税の租税負担を免れ、自動的に減税になる。
  逆に景気が回復すれば所得が増加するため、所得税には高い
 累進税率が適用されたり、法人税を納税しなければならなくな
 り、自動的に増税となる。そのため景気が回復すると、所得税
 や法人税では自然増収が期待できる。
   神野正彦著、『二兎を得る経済学/景気回復と財政再建』
                 講談社+α新書79−1C
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、日本は今までに景気回復を狙って所得税や法人税を大
幅に減税してしまっているのです。そのため、景気が回復しても
自然増収が期待できない税制になっているのです。つまり、日本
の税制は計画的に考え抜かれていないということです。
 日本の場合、消費税がかなり遅れて導入されたのですが、ある
程度の高率の消費税が定着している国では、不況のさいには、消
費税を減税し、それによって消費需要を増加させ、間違っても所
得税や法人税の減税はしないという手が打てるのです。
 よく減税論議が出るときに政府側は、減税分が消費に回らず貯
蓄されてしまうということを反対の理由として使いますが、消費
税の減税であれば、ものを購入する人だけに減税が適用されるの
で、確実に消費が増えるのです。消費税の税率が20%の国で、
もし、10%の減税が実施されれば、その時を狙って多くの人は
家を建てたり、車を購入したりするはずです。
 神野正彦教授は、現在の日本の財政赤字は「シュンペーター的
財政赤字」であるといっています。ところで、「シュンペーター
的財政赤字」とは何でしょうか。
 シュンペーターは、オーストリアの経済学者であり、財政社会
学の始祖といわれている学者です。彼は古い時代と新しい時代の
転換期には、財政が必ず危機に陥ることを指摘したのです。
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 現存の制度が崩壊をし始め、新たな制度が生まれ始めていると
 きには、いつも財政が危機に陥ることになる。そのため、社会
 が転換期にあるときには財政分析が最も効果的である。
               ――ヨーゼフ・シュンペーター
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 神野教授は、こうした歴史の峠を越えるような総体としての社
会の大転換期に生ずる財政危機を「シュンペーター的財政赤字」
と名付けることを提案し、日本の財政赤字はまさにそれであると
指摘しているのです。
 マーガレット・サッチャーは、英国がこのシュンペーター理論
通りにならないように、政権運営を進めたという話は有名ですが
日本の財政赤字は、神野教授によると、シュンペーター理論通り
になりつつあるようです。     ・・・ [日本経済37]


≪画像および関連情報≫
 ・ヨーゼフ・シュンペーター
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  シュンペーターは、経済活動における新陳代謝を創造的破壊
  という言葉で表し、資本主義経済の発展は企業家の行う不断
  のイノベーション(革新、新結合)によってであるとした。
  また、資本主義は、成功ゆえに巨大企業を生み出し、それが
  官僚的になって活力を失い、社会主義へ移行していく、とい
  う有名な理論を提示した。      ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

1795号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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