2006年03月13日

100兆円が使える日本政府(EJ1793号)

 ここまでの分析ではっきりしてきたことは、要するに日本の財
政の問題点は税収が減少を続けているという点にあります。税収
を上げるには、名目GDPの成長率を毎年4〜5%程度まで上げ
る必要があります。
 菊池教授によると、それを実現するには政府は次の2つのこと
を実施すればよいというのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   1.政府が緊縮財政をやめ積極財政に切り換える
   2.財政支出の重点を投資項目に集中させること
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そのためには国債を増発させる必要があります。しかし、もし
政府がそれをやろうとすると、きっと、反対の嵐が巻き起こるで
しょう。「ただでさえ、国の借金が多いのに、その借金をさらに
増そうというのか」という非難です。
 これは、完全にわれわれが財務省のレトリックに騙されている
からなのです。ここまで、菊池教授の本を中心にいろいろ財務省
のレトリックを暴いてきていますが、もうひとつわかりやすい例
を上げることにします。
 小泉首相がしきりと牽制していたにもかかわらず、福井日銀総
裁は3月9日に量的緩和の解除を決定しています。そうすると、
長期金利が上り、国債費の利払いが急増する――大量の借金を抱
えている日本の財政は、税収のほとんどが国債費の利払いに消え
てしまうことになると多くの人が考えています。
 仮に日本の国債の残高が600兆円としましょう。長期金利が
1%でも6兆円の財政負担となります。もし、金利が5%になっ
たら30兆円の財政負担――日本の税収は現在40兆円ですから
税収の75%が国債費の利払いで消えてしまう計算です。これで
は財政が破綻する――大増税やむなしとなるわけです。
 しかし、このロジックは、金利が上ることのマイナスの面しか
いっていないのです。政府は金融資産を480兆円も保有してい
るのです。それに個人金融資産が1400兆円もあります。もし
金利が5%になったら、こういう金融資産も当然金利を生むこと
になります。
 もし、5%になると、個人金融資産は70兆円の金利を生むこ
とになります。その約20%の14兆円は源泉徴収で税金として
国庫に入るのです。この源泉徴収分を引いた56兆円は大きな経
済効果を生みます。日本のGDPは約500兆円――それに56
兆円規模の消費が加わったらどうなるでしょう。大変な消費税が
国庫に入ってくることでしょう。
 ですから、仮に国債費が30兆円になったとしても、差し引き
プラスの面が多いのです。財務省はマイナス面だけを強調して増
税を煽り、プラスの面は口をつぐんでいるのです。
 しかし、現状で国債を増発してもとくに問題はないのです。そ
れによって国債価格が暴落し、長期金利が上昇する可能性は非常
に低いと考えられるのです。
 既に述べたように、政府の金融資産は次のように480兆円も
あるのです。データを再現しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     社会保障基金 ・・・・・ 254兆円
     内外投融資 ・・・・・・ 136兆円
     外貨準備 ・・・・・・・  90兆円
     ――――――――――――――――――
                  480兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 注目していただきたいのは、外貨準備の90兆円です。こんな
に多額の外貨準備を持っている国は日本以外にないのです。この
お金は、国が外貨危機に陥ったときや、急に多額の外貨が必要に
なったときに使うために保有している資金です。
 この外貨準備――その大部分を米国の国債で運用しているので
すが、問題はこのお金をどこから調達しているかです。国家のた
めに外貨を買うのですから、当然中央銀行の資金で賄うのが常識
であり、他国ではすべて中央銀行の資金で賄っているのです。
 しかし、日本の場合は違うのです。正確にいえば、1999年
9月までは日銀の資金で調達されていたのですが、それ以降現在
までは違うのです。
 財務省は円高を防ぐために為替市場で円売りドル買いをします
が、その資金はどうするのかというと、財務省は政府短期証券を
発行し、それを日銀が引き受けるというかたちで調達していたの
です。これは正常なかたちであるといえます。
 この場合、日本は大量のドルを手にすることになりますが、政
府はそのほとんどを米国国債に投資しているのです。ところが、
1999年10月から政府は外貨買い取りのための円資金調達の
手段である政府短期証券を市場に売り出すことにしたのです。当
時金融機関は莫大な資金を有しながら投資先がない状況にあり、
それをカバーする目的があったと考えられます。
 そうなると、政府短期証券は銀行などの一般金融機関が購入す
ることになるのです。これは、われわれ国民の預金が政府短期証
券の購入に使われることを意味します。そうすると、国民の預金
が海外に出てしまうことになります。
 外貨準備は国家のために外貨を買うのですから、日銀の資金で
調達するのがすじというものであり、本来の姿に戻すべきである
といえます。それをしても何も問題は起こらないのです。
 もし、これが実現されると、金融機関には100兆円という巨
額な金額が浮いてくることになります。この100兆円を日本は
自分のために使えばよい――菊池英博教授はこのように提案して
いるのです。この100兆円は、そのまますぐ国債発行のために
使うことは可能なのです。
 何もあわてふためいて多くの国民が難渋する増税をやる必要は
ないのです。世の中にはいろいろなからくりがあり、われわれが
知っていることはごく一部なのです。・・・ [日本経済35]


≪画像および関連情報≫
 ・政府短期証券とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  財務省が支出に必要な資金を一時的に調達するために発行す
  る債券で、国の借金(債務)とみなされる。税金が入るまで
  のつなぎ資金を調達する財務省債券、為替介入の円資金を調
  達する外国為替資金証券、備蓄石油を買う石油証券などがあ
  る。2004年9月末時点の残高は86兆7875億円。
                  ――「マネー経済」より
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yougo/000438.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ・添付ファイルの図
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
  はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊

1793号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック