2010年04月20日

●「マスコミとジャーナリズムの違いは何か」(EJ第2798号)

 フリーランスのジャーナリストである上杉隆氏は、著書の冒頭
で、次のように読者に問いかけています。「日本にジャーナリズ
ムはあるのだろうか」と。これに対して、上杉隆氏は自ら次のよ
うに答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 結論から先にいえば、「日本に『ジャーナリズム』はある」。
 ただし、それは日本独特のものであり、海外から見ればジャー
 ナリズムとはいえない。           ──上杉隆著
        『ジャーナリズムの崩壊』/幻冬舎新書089
―――――――――――――――――――――――――――――
 マスコミ、ジャーナリズム、報道、取材などなど、いろいろな
言葉が使われていますが、それぞれの言葉の意味することをちゃ
んと区別できるでしょうか。
 とくに「マスコミ」と「ジャーナリズム」は、同じもののよう
に考えている人が多いですが、これらは次のように、ぜんぜん別
のことを意味する概念なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    マス・コミュニケーション ・・・・・ 現実
         ジャーナリズム ・・・・・ 理念
―――――――――――――――――――――――――――――
 現代社会には、利害ではなく特定の理念によって構成される社
会領域があるのです。ジャーナリズムもそのひとつです。その社
会領域で働く人々は、そうした理念に基づいて活動するのです。
しかし、時間が経過するにつれて、そうした理念はさまざまな利
害によって浸食され、形骸化していくことが多いのです。
 マス・コミュニケーションは、もともとジャーナリズム活動と
してはじまり、それを柱として発展してきたという歴史的事情が
あります。しかし、その発展プロセスの中で、ジャーナリズムの
理念がしだいにその比重をうすめて、ジャーナリズムがマス・コ
ミュニケーションのひとつの機能に過ぎないと考えられるように
なっていったのです。そのため、「理念」をあらわすジャーナリ
ズムが「現実」をあらわすマス・コミュニケーションとよく混同
されるのです。ジャーナリズム研究家の新井直之氏は、ジャーナ
リズムの本質を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ジャーナリズムの本質とは、「いま言うべきことをいま言う」
 ことであり、「いま伝えなければならないことをいま伝える」
 ことである。『伝える』とは、いわば報道の活動であり、『言
 う』とは、論評の活動である。それだけが、おそらくジャーナ
 リズムのほとんど唯一の責務である。    ──新井直之氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主主義とは何でしょうか。
 民主主義とは国民が直接的、間接的に政治に参加すること──
自分たちのことは自分たちで決めるという原則です。そのとき、
重要なのは、自分で決定するさいの知的条件というか情報──自
分たちの現状について、できるだけ正確で詳しい知識や情報を有
している必要があるということです。
 国民一人ひとりが平等に自分たちの現状について、その知識や
情報を平等にわかちあっていることが民主主義の前提条件という
ことになります。これが「国民の知る権利」です。
 ところが、民主主義的手続きによってひとたび権力が成立する
と、意思決定に必要な知識や情報が権力の極の方に集中し勝ちに
なり、平等に配分されなくなってくるのです。もし、この傾向が
放置されると、権力は国民による正当なコントロールから外れ、
逆に権力が国民をコントロールする事態を招くことになります。
 そうならないようにするため、なんらかの制度的対策が必要に
なってきます。新井直之氏が前述したように、「いま言うべきこ
とをいま言う」ことと「いま伝えなければならないことをいま伝
える」こと、すなわち、ジャーナリズムが要請されるのは、この
ためなのです。ジャーナリズム活動の正当性は、国民がもともと
もっている「知る権利」の代行──具体化にあります。
 原則論はこのくらいにして、日本の現状について考えてみるこ
とにします。日本において「ジャーナリズム」といっているのは
海外における「ワイヤーサービス」に該当するのです。それでは
「ワイヤーサービス」とは何でしょうか。
 ワイヤーサービスとは、日本でいうと、共同通信や時事通信の
ような通信社のことをいうのです。すなわち、ワイヤーサービス
とは、速報性を最優先業務とするメディアのことです。ここで重
要なのは通信社と新聞社はその役割が違うということです。
 通信社と新聞社はどこが違うのでしょうか。
 1999年7月にANA61便がハイジャックされたことを覚
えているでしょうか。そのとき上杉隆氏は、ニューヨーク・タイ
ムズでインターンとして働きはじめたばかりのときであり、いき
なり大事件に遭遇していささか慌てたそうです。自分は何をすベ
きかわからなかったからです。
 そこで、上杉氏は当時の支局長であるニコラス・クリストフ氏
に電話をして指示を仰いだのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今ハイジャックが発生している。当該機はまだ飛行中だ。私は
 羽田空港に行くべきか、運輸省(当時)に行くべきか、あるい
 は全日空の本社に行くべきか、判断がつかない。他のスタッフ
 との兼ね合いもあるだろうから、支局長からの指示がほしい。
                      ──前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の新聞社なら「すぐ空港へ行け!」というような指示が出
されることが予想されたのですが、クリストフ支局長からは予想
に反して次のような暢気な返事が返ってきたのです。
 「なぜそんなに慌てる必要があるのか」と。それから、支局長
はゆっくりと解説をはじめたのです。
            ――──[ジャーナリズム論/02]


≪画像および関連情報≫
 ●ワイヤー・サービス(Wire Service)とは何か
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  プレスリリースを、メディアに配信し、さらにサービス事業
  者のウェブサイトや提携メディアに掲載する広報通信サービ
  ス。日本では配信だけを行うサービスも多い。元は報道機関
  にニュース情報を提供している通信社が、電話回線などを使
  って企業のリリースを配信していたため「ワイヤー」と呼ば
  れている。リリース配信先をサービス事業者が最新のものに
  保ってくれることや、リリース掲載によってリンクが増える
  ことが、サービス利用のメリットだといわれている。
  ―――――――――――――――――――――――――――

上杉隆氏.jpg
上杉 隆氏
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(1) | TrackBack(0) | ジャーナリズム論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マスコミ・ジャーナリズムに関して、微妙なワーディングの違いでかなり類似したことが書かれています。説明願えますでしょうか。

http://www.socius.jp/lec/12.html
Posted by やまさき at 2013年01月21日 22:36
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