ずの連合から、民主党の選挙対策に批判が出ているのです。参院
選の「2人区・複数候補擁立」の指示に対し、連合静岡の吉岡秀
規会長が小沢幹事長に反対を表明したのです。
そして「ここまで支持率が下がったのは小沢幹事長の政治とカ
ネの問題が大きいので、どうしても2人を擁立したいなら、小沢
氏は辞任すべきである」とまで述べたのです。
小沢幹事長はもちろん拒否しましたが、応援団にまで民主党内
の一部の大臣たちと同じような考え方を持つ人が出てきているの
は残念なことです。そのようにして味方同士でもめているから支
持率が下がるのです。
小沢幹事長が政治とカネに関して問題があるとされるのは、小
沢事務所の元秘書を含む秘書が3人逮捕され、起訴されている事
実にあります。これは確かに異常なことであり、秘書たちが本当
に悪いことをしたのであれば、当然上司である小沢には重い責任
が生ずることになります。
しかし、3人の秘書は起訴されたものの、小沢本人は不起訴に
なっているのです。それに「起訴=犯罪成立」ではないのです。
これから裁判があるのです。おそらく決着がつくまで一年以上を
要するでしょう。小沢事務所としては、起訴事実を認めていない
ので、責任を取って小沢が幹事長を辞任すれば、その事実を認め
たことになってしまいます。
それに元秘書を含む3人の秘書のうち、大久保秘書については
一年前に逮捕・起訴され、裁判が行われたにもかかわらず、検察
側証人から起訴事実を否定する証言が飛び出し、検察側が不利な
状況に陥っているのです。
そのため、3月に一審判決が出ていなければならないのに、検
察側は公判日程を未定にしたまま引き延ばしを図っています。大
久保秘書は、起訴事実をいっさい認めていないので、このまま行
くと、無罪判決が出かねないからです。現時点で大久保秘書の無
罪判決が出ると、検察側はまさに完敗ということになります。
過去にも特捜部の捜査に対し、公然と身の潔白を主張した政治
家はたくさんいます。ロッキード事件の田中角栄、リクルート事
件の藤波孝生、証券取引法違反容疑が浮上していた新井将敬、緑
資源機構の発注事業をめぐる官製談合事件の松岡利勝など──い
ずれの政治家も暗い結末を迎えています。共同通信元司法キャッ
プの石亀昌郎氏は小沢の不起訴についてこう述べています。
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小沢氏のように、水谷建設から秘書に金が渡されたと認定し、
事情聴取や事務所の家宅捜索までしながら、立件を見送ったケ
ースというのは記憶にない。
──『世界』4月号/石亀昌郎氏の論文より
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石亀昌郎氏は、これをもって「特捜部の敗北」だといっている
のです。そして、特捜部がどうしてこのような敗北に追い込まれ
たかについて、元特捜検事のコメントを紹介しています。
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完全な見立て違い。水谷建設から渡されたとされる5000万
円にとらわれすぎた。不動産購入資金の4億円にこの5000
万円が入っているかどうかだけが立件のポイントになり、結果
として入っているという証拠が得られなかった。そもそも、4
億円のうち5000万円だけがゼネコンからの裏献金というの
はどう考えてもおかしい。もし、水谷建設からの5000万円
が含まれているなら、残りの金も当然ダム工事の受注などをめ
ぐるゼネコンの献金でなければ、そういう話になって、石川議
員らの逮捕後、慌ててゼネコンの一斉捜索に乗り出した。手順
が逆。見通しが悪すぎる。 ――元特捜検事のコメント
──『世界』4月号/石亀昌郎氏の論文より
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実は、最高検と東京高検は、最初から小沢捜査については慎重
だったといわれています。その理由は次の通りです。
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政治資金規正法の虚偽記入罪は、一種の身分犯である。政治団
体の会計責任者については罪に問いやすいが、政治家はそうで
はない。共謀というには、単に知っているだけでは駄目だ。指
示、命令まで出てこなければ政治家本人の立件は困難である。
さらに了承と言っても、いつ、どこで、どのような言葉で了承
したのか。ストーリーとして供述がなければ割れたとは言えな
い。 ──『世界』4月号/石亀昌郎氏の論文より
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民主党の立場から見ると、野党時代の小沢代表のときと与党の
幹事長のときの2回にわたって、ちょうど大事な選挙のある直前
に秘書を逮捕されています。これは、究極の選挙妨害以外の何物
でもないと考えます。小沢を潰しにかかっているのです。
民主党が野党のときは、自らが身を引くことが選挙戦を有利に
展開できると判断して選挙戦術として小沢は辞任しましたが、今
回は辞任しないと思います。それは辞任しなくても参議院選では
勝てると踏んでいるからです。その根拠については、明日のEJ
で示すことにします。
異論はあるでしょうが、小沢幹事長もいっているように、検察
が徹底的に調べ上げて、それで不起訴になったのだから、それが
何よりもの説明責任を果たしているというのは、それなりに筋が
通っていると思います。
日本では、一度でも検察に起訴されると、最終的に無罪と認定
されてもどうしても色がついてしまうものです。完全無罪判決を
受けた菅谷利和氏は、かつて自分がやっていた幼稚園のバスの運
転手を続けたいと思っているそうですが、父兄が反対して実現で
きないでいます。そういうことを考えると、検察は捜査を慎重に
やってもらいたいものです。それにしても「検察改革」を主張す
る政治家はなぜ皆無なのでしょうか。――[小沢一郎論/64]
≪画像および関連情報≫
●佐藤優氏/政治資金規正法は国家の暴力治安維持法になる!
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政党助成金制度が導入され、国民の税金で政治活動を行うよ
うになったので、政治資金規正法の性格が変わった。政治資
金収支報告書への誤記、不記載が意図的な場合は、刑事責任
を厳しく追及すべきであるという検察の主張は筋が通ってい
る。しかし、ほとんどすべての政治家が誤記、不記載を行っ
ているのが実情だ。そうなると秘書や国会議員を厳しく締め
上げて「故意にやりました」という認識を調書に書かせれば
どの政治家も犯罪者として処理できる。政治資金規正法が、
21世紀の治安維持法に変容しつつあるが、この危険性に関
してマスメディアはあまりに無自覚だ。
──佐藤優著、『この国を動かす者へ』/徳間書店刊
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完全無罪となった菅谷利和氏