2010年04月05日

●「日本郵政無血開城と社長人事のウラ」(EJ第2787号)

 話は16年ほど前に遡ります。1994年(平成6年)2月2
日深夜のことです。細川総理は急遽会見を開き、消費税を3%か
ら7%に増税し、使途を福祉目的にする「国民福祉税構想」を突
然発表したのです。
 これは当時新生党代表幹事であった小沢一郎と大蔵事務次官で
あった斉藤次郎氏が主導したものです。しかし、連立政権内部で
の合意も得られていなかったので、外部から大きな批判を浴びて
細川総理は数日後にこの構想を撤回しています。
 1994年6月に村山政権が発足し、与党に復帰した自民党の
亀井静香氏は、野中広務氏とともに斉藤大蔵次官を辞任に追い込
んでいます。しかし、亀井氏は、「10年に一度の大物次官」と
いわれた斉藤次官の実力は認めていたのです。
 2005年8月、郵政民営化に反対して自民党を離党し、国民
新党を結成した亀井氏は、斉藤氏と連絡を取り、食事をしたり、
政策についての意見交換をするようになったのです。
 2009年8月の衆議院選の前に亀井氏は斉藤氏と会い、次の
ように協力を依頼しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もはや政権交代は間違いない。政権を取ったら郵政の見直し
 をやるので、いざとなったら力を貸して欲しい
―――――――――――――――――――――――――――――
 暗に日本郵政の社長就任を求めている──そういう解釈をした
うえで斉藤氏は「わかりました」と亀井氏に返事をしています。
既に郵政民営化は、西川社長のもとで着々と進められており、大
きな流れができてしまっている。その流れを止めて変更させるの
は尋常なことではないのです。
 何しろ日本郵政は、従業員45万人、総資産305兆円であり
日本最大規模の株式会社です。とても一般企業の社長経験者では
日本郵政の後任社長は務まらないのです。しかし、斉藤次郎なら
できる──亀井氏はそう判断していたのです。
 鳩山政権で郵政改革担当大臣に就任した亀井氏は、西川社長を
いかに円満に辞めさせるかが重要であると考えたのです。西川社
長は一向に辞める様子は見られなかったからです。
 政府は、日本郵政の株を100%持っているので、臨時株主総
会で西川社長を解任することはできますが、亀井氏としてはあま
り強引なことはやりたくなかったのです。
 まして2009年5月18日には、日本郵政の指名委員会が西
川社長の続投を全会一致で確認し、6月29日の株主総会では、
西川社長の続投を承認しているのです。もし、強行突破をすれば
マスコミは西川側について、政府批判を繰り広げることは明らか
だったのです。
 「無血開城させるにはどうしたらよいか」──奥田碩氏しかい
ないと亀井氏は判断したのです。亀井氏は、自民党政調会長時代
にトヨタ自動車の会長であった奥田碩氏と親しかったのです。
 しかし、奥田氏は日本郵政の社外取締役で、指名委員会の委員
長なのです。それでも、奥田氏の懐の深さをよく知っている亀井
氏は奥田氏と会い、次のように頼んだのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 わたしは西川さんにやめてもらいます。しかし、血の雨が降る
 ようなやり方でやったっていいことはないでしょう。ですから
 奥田さん、勝海舟の役をやってくれませんか。
                      ──大下英治著
       『小沢一郎の最終戦争』/KKベストセラーズ刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 奥田氏は亀井氏の要請を受け入れたのですが、次期社長には誰
を考えているのかを聞いたといいます。しかし、亀井氏は「それ
はいえない」と言下に否定しています。西川社長は奥田氏の勧め
によって、日本郵政の社長を自ら辞任する決意を固めたのです。
こういういきさつで、奥田氏は今でも日本郵政の役員として残っ
ているのです。
 2009年10月20日、鳩山内閣は「郵政改革の基本方針」
を閣議決定しています。その日の午後6時30分、西川社長は記
者会見を開き、辞任を表明したのです。
 同じ日の午後8時過ぎに、亀井氏は斉藤氏に電話を入れ、正式
に日本郵政の社長就任を要請したのです。斉藤氏は「一晩考えさ
せて欲しい」とはいったが、亀井氏は声のトーンから判断して必
ず引き受けてくれると確信を持ったのです。
 そして、鳩山総理に電話を入れたのです。亀井氏は、鳩山総理
にも斉藤次郎氏を日本郵政の社長に考えていることを打ち明けて
いなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 亀井は、鳩山総理に電話をかけた。
 「後任の社長は、斉藤次郎氏でいきます」
 鳩山総理は、さすがにびっくりしていた。
 「ええッ!」
 亀井は言った。
 「天下りや渡りを問題にしてきた民主党とすれば、元大蔵次官
 の起用は、いろいろ批判されるかもしれませんが、後任の社長
 は斉藤さんしかいません」
 鳩山総理は、了解してくれた。「わかりきした」
                      ──前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 斉藤元大蔵次官を日本郵政の社長にすることを小沢も亀井氏か
ら、聞かされてはいなかったのです。「ほほー。よく引き受けて
くれたな」が、そのことを知ったときの小沢の反応です。
 2009年10月21日、午前10時、亀井氏は金融庁で記者
会見を開き、西川社長の後任に斉藤次郎氏を充てる人事を正式に
発表しているのです。
 現在の民主党でこのような剛腕ぶりを発揮できるのは、亀井静
香氏と小沢しかいないのです。  ―――[小沢一郎論/63]


≪画像および関連情報≫
 ●文藝評論家山崎行太郎の政治ブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  西川社長は辞任会見でカメラマンを相手に怒りを爆発させた
  ようだが、西川・亀井会談なるものがどれだけ激しいものだ
  ったかを想像させるに充分な辞任会見だったといっていい。
  度胸のある亀井大臣でなければ、ここまで追い詰めて、詰め
  腹を切らせることは不可能だっただろう。藤井財務相あたり
  が、亀井大臣の強引な、矢継ぎ早の行動に、ピンとはずれの
  横槍を入れようとしているらしいが、かえって鳩山内閣の癌
  藤井財務相らしいということが鮮明に焙り出されるだけで、
  所詮は「焼け石に水」ということになるだろう。
  http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20091020/1256035648
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辞任を発表する西川社長.jpg
辞任を発表する西川社長
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 小沢一郎論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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