2006年03月10日

名目成長率VS長期金利論争(EJ1792号)

 名目成長率ともうひとつ別のファクターの組み合わせによる分
析の続きです。
 第3は「名目成長率VS長期金利」です。
 名目成長率と長期金利の関係については、竹中総務相と与謝野
経財相との議論で有名になっています。
 この議論について、『週刊/東洋経済』2/25日号に高橋洋
一氏の次の論文が掲載されています。
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     与謝野・竹中論争が意味するもの
     「政府部内で高まる成長率・金利論争を斬る」
            ――早稲田大学講師 高橋洋一
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 論文自体は少し難しいですが、大変内容のある興味深いもので
あり、一読の価値はあると思います。しかし、この高橋洋一氏と
いうのは、既に述べたように、総務省参事官で、竹中総務相の懐
刀といわれる人物であり、当然のことながら竹中説の正しいこと
を強調する内容になっています。
 この論文で述べられているのですが、「ドーマーの定理」とい
うのがあるのです。
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 名目GDPの成長率が国債のコストよりも高ければ、国債残高
 は自然に減少していく。        ――ドーマーの定理
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 「国債のコスト」を長期金利と考えると、名目成長率と長期金
利の関係になってくるのです。現在の長期金利は1.4〜1.5
%で低水準です。問題は、この長期金利が量的緩和解除によって
どのくらいまで上がるかです。
 3月3日の日本経済新聞によると、量的緩和が解除された場合
6月と12月の長期金利について、4人のエコノミストたちの予
測値が次のように出ています。
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               6月     12月
     佐野和彦氏  1.75%   1.75%
     吉野昌雄氏  1.70%   1.90%
     三浦哲也氏  1.80%   2.00%
     小林益久氏  2.10%   2.20%
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 財務省は2006年度予算を長期金利を2%と想定して組んで
います。したがって、最も高い場合でも長期金利は2%と考えて
間違いないと思います。
 添付ファイルのグラフは、OECD諸国の中で、ドーマー条件
を満たす国の多寡を示しています。ドーマー条件を満たす国の数
から満たしていない国の数を引いて棒グラフにしたものです。条
件を満たしている国がそうでない国より多いときはプラスになり
逆のときはマイナスになります。
 これを見ると傾向は明らかです。1960〜70年代は条件を
満たしている国が多く、1980〜90年代はマイナスになって
います。すなわち、1960〜70年代は名目成長率は金利を上
回っていたが、1980〜90年代になると、名目成長率は金利
を下回っているのです。しかし、2000年代になると、条件を
満たしている国とそうでない国が拮抗しています。
 高橋洋一氏は、G7の主要先進国について1960年から20
04年までの平均で成長率と金利を比較しています。
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          名目成長率     長期金利
    アメリカ   7.3%     7.1% ◎
    イギリス   9.1%     8.9% ◎
    フランス   8.7%     7.9% ◎
    カ ナ ダ   8.2%     8.1% ◎
    イタリア  11.7%     9.8% ◎
    ド イ ツ   6.3%     6.8% ▲
    日  本   7.4%     5.4% ◎
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 竹中総務相は名目成長率4%程度は堅実な前提とし、成長率は
長期金利を上回ると予測しています。この考え方に立てば、税収
は増えるので、増税をしないか、しても小規模の増税でプライマ
リーバランスの黒字化は可能という考え方です。
 しかし、与謝野経財相は成長率4%は楽観的過ぎるとし、金利
は名目成長率を上回るのが常識的であるといって、竹中氏と真っ
向から対立しています。彼は財務省派で増税賛成なのです。
 高橋氏は、この論争は物価上昇率がどうなるかによって決まる
といっています。現在、実質成長率は竹中氏も与謝野氏もともに
2%と予測しており、名目成長率は次の式で決まるからです。
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      名目成長率=実質成長率+物価上昇率
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 最近政府筋が日銀に対し、物価目標の設定を要求しているのは
こういう背景があるからです。日銀はどうなのでしょうか。名目
成長率と金利の関係について日銀の福井総裁は、2月の時点では
次のようにいっているのです。
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 80年代以降、金融の自由化やグローバル化が進んだ後の各国
 の例を見ると、長期金利は名目GDP成長率を幾分上回って推
 移することが多い。           ――福井日銀総裁
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 どうも竹中説は旗色がよくないようです。学者や日銀総裁まで
含めて増税の大合唱――谷垣財務相は土・日曜はテレビ各局にハ
シゴ出演し、財務省出身の評論家も経済番組に頻繁に出演して、
「増税不可避論」をひたすら説いています。菊池教授などはお呼
びがかからないようです。      ・・・[日本経済34]


≪画像および関連情報≫
 ・与謝野大臣と竹中大臣の違い
  ―――――――――――――――――――――――――――
  与謝野経済財政担当相は現状の日銀の金融政策で十分とし、
  インフレ目標政策には否定的である。一方、竹中総務相は、
  現在政府と日銀が政策目標を共有しているとは言いがたい状
  況に対して、インフレ目標政策の導入によって政府と日銀が
  政策目標を共有し、そこまでは政府が金融政策への期待を表
  明するが、ひとたび目標を掲げた後は日銀のオペレーション
  は日銀に任せて、中央銀行の独立性を確保するという、世界
  で標準的な金融政策を求めている。
  『週刊/東洋経済』2/25日号所載/高橋洋一氏論文より
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ・添付ファイルグラフ
  『週刊/東洋経済』2/25日号所載/高橋洋一氏論文より

1792号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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