2006年03月09日

名目成長率がかぎを握っている(EJ1791号)

 名目成長率が上がること――これはプライマリーバランス黒字
化の達成要件のひとつであることは確かです。竹中総務相のいう
ように、実質成長率がいかに上ってもデフレ下では、それは本物
の景気回復とはいえないのです。名目とか実質とわかりにくい話
で恐縮ですが、できるだけわかりやすく説明します。
 菊池英博教授は、デフレのもとでは「実質」成長は幻想に過ぎ
ないといい、次のように述べています。
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 構造改革が始まった2001年から今日まで、マクロ経済指標
 (経済全体からみた指標)は悪化し、それが税収の激減、財政
 赤字の拡大、政府債務の増加になっている。デフレのもとで数
 字が「よくなった」といっても「実質」の数字であり、ここに
 デフレのマジック(数字上のごまかし幻想)がある。「名目」
 での統計数字が改善しない限り、税収は増加しないのである。
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
       はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
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 名目成長率の数字だけが改善すれば良いというわけではありま
せん。名目成長率ともうひとつ別のファクターの両方を見て、判
断する必要があります。
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   1.名目成長率 VS 純債務増加率
   2.名目成長率 VS 国債残高の加重平均利回り
   3.名目成長率 VS 長期金利
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 ひとつずつ検証していくことにします。
 第1は「名目成長率VS純債務増加率」です。
 結論からいうと、名目成長率が純債務増加率を上回ればよいの
です。1997年から2003年までの6年間について、米国、
英国の2国と日本を比較してみます。
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 1997年〜2003年の6年間             
          純債務増加率        名目成長率
 米国  8.5%(年率1.4%) 34.0%(年率1.4%)
 英国 11.7%(年率2.0%) 37.8%(年率6.3%)
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 米国はこの6年間で純債務は8503億ドルから9229億ド
ルに増加しているのですが、名目成長率が34%増加しているの
で、政府債務の国民負担率は53.1%から42.8%に低下して
いるのです。
 英国も同様で、純債務は3420億ポンドから3820億ポン
ドと11.7%増加しているのですが、名目成長率が37.8%増
加しているので、政府債務の国民負担率は46.6%から34.7
%に低下しています。
 これに対して、日本とドイツは名目成長率が低く、純債務増加
率の方が高いので、政府債務の国民負担率は増加しています。と
くに日本はこの6年間で、名目成長率はマイナス6.6% である
ので、純債務は35.2%から76.2%と、2倍以上に増えてし
まっています。これは金融政策の失敗以外のなにものでもないと
いえます。
 米国が双子の巨額の赤字を抱えている債務国であるのに、大幅
な減税をしたり、積極的な投資をしているのは、債務を上回る名
目成長率を上げれば、債務負担度合いが減ることを十分に心得て
いるからです。
 米国に比べれば、日本は債権国であり、国債残高も純債務でみ
れば正常であるにもかかわらず、大増税をしようとし、同じ財政
政策の失敗を何回も繰り返して国民を苦しめているのです。その
ためには、国民は現在EJが取り上げているような生きた経済学
の知識を身につけて、政府や財務省のウソに騙されないようにす
る必要があると思います。
 第2は「名目成長率VS国債残高の加重平均利回り」です。
 国債残高が減少するための必要な条件は、名目成長率が国債残
高の加重平均利回りを上回ればよいのです。ここ15年ほど名目
成長率は、国債残高の加重平均利回りを下回っているのです。
「国債残高の加重平均利回り」とは、長期国債だけではなくすべ
ての国債残高の利回りであり、国の資金調達コストを意味してい
ます。関連知識としては巻末の解説を読んでください。
 要するに、国の資金調達コストを上回る名目成長率――税収と
いってもよい――を上げなければ、いつまで経っても元本である
国債残高は減らないというわけです。
 現在、国債残高の加重平均利回りは、1.5% 程度と考えられ
ています。2005年度の名目成長率は政府実績見込みの 1.6
%を達成できれば、15年ぶりに成長率が加重平均利回りを上回
るのです。問題は、日銀がおそらく実施すると思われる量的緩和
解除が金利にどういう影響を与えるかです。
 ここで強調しておきたいことは、名目成長率を上げる一番よい
方法が公共投資を増やすことであるということです。しかし、日
本は財務省のPRが効き過ぎて、そのようなことを一切いえない
雰囲気になっています。日銀が量的緩和を解除する時期にそのよ
うなことをすれば、国債価格は暴落し、長期金利は跳ね上がり、
国債の元利払いが急増するという批判を浴びます。財務省の思う
つぼなのです。
 国債残高を600兆円として、長期金利が1%上がると、6兆
円も財政負担が増えます。もし、5%になると30兆円――現在
税収が40兆円しかないので、税収のほとんどが国債の元利払い
に消える――この論法に多くの人が騙されています。
 この論法は財務省とそれを看板にする評論家が繰り返しいって
いることですが、金利が上がると国の金融資産も上がるのです。
ここからの税収増を計算に入れず、利払いのことだけをいってい
るのです。3については明日述べます。・・・[日本経済33]


≪画像および関連情報≫
 ・加重平均利回りについて
  A社とB社がともに10円ずつの配当金を出したとしましょ
  う。A社の時価総額は10億円、B社の時価総額は50億円
  だとします。この場合、同じ10円の配当金額でも、時価総
  額ではA社のほうが少なく、したがって10円の配当金の重
  みが違ってきます。つまり、A社のほうが、配当政策に対し
  て積極的であると判断できるのです。単純な平均利回りでは
  このような点はいっさい加味されていません。加重平均利回
  りは、企業の規模に応じてより妥当性を追及したかたちでの
  利回りを示すわけです。
 ・添付ファイルのグラフ
  <出所/みずほ証券>『週刊/エコノミスト』2/7日号
  「金利の復活」特集より

1791号.jpg
posted by 平野 浩 at 09:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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