2006年03月08日

クリントン前大統領の米財政改革(EJ1790号)

 財政改革で日本が一番参考にしなければならないのは、米クリ
ントン前大統領の財政改革です。クリントンが大統領に就任する
前の米国経済の状況は次の通りです。ちなみにクリントン氏が大
統領に就任したのは、1993年1月のことです。
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  1991年 ・・・・・ GDP実質成長率がマイナス
  失業率   ・・・・・ 7.5%
  財政赤字  ・・・・・ 2904億ドル(過去最高)
         (1991年10月〜1992年9月)
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 クリントン政権は2期行われていますが、その期間は次のよう
になります。
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     第1期 1993年 〜 1996年
     第2期 1997年 〜 2000年
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 クリントン大統領は、1993年2月17日に議会で演説し、
経済戦略を次のように打ち出しています。
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     1.支出を消費から投資に向ける
     2.家族と勤労をとくに尊重する
     3.保守的な見積りの予算の編成
     4.政府支出削減と公平税制導入
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 まず、クリントン大統領は、雇用を増やすための手を打ってい
ます。限られた政府予算から消費を削減して、投資項目に重点支
出することを表明したのです。
 続いて予算方針を打ち出したのですが、それには次の3つの特
徴があったのです。
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  1.予算は積極財政、物価の上昇率を上回る3.3%
  2.消費項目を抑えて投資項目に予算を重点的に投入
  3.政府職員を3万人削減、物価上昇でも支出は不変
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 重要なことは、第1期、第2期とも予算は積極財政であるとい
うことです。支出項目別年平均の伸び率で見ると、第1期は歳出
規模で3.3%、第2期でも3.0%の伸びになっています。そ
して、第1期は軍事費を3.6%削って、投資項目にプラスして
いるのです。
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             第1期     第2期
  歳出規模      3.3%    3.0%
  【裁量的経費】
    全 体     0.1%    2.5%
    国防費    △3.6%    1.2%
    その他     公共投資    公共投資
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 公共投資としては、第1期、第2期とも地上交通開発費、地域
社会開発、職業訓練、雇用増進費、教育費を大幅に増額している
のです。つまり、景気振興策を財政に組み込んだわけです。日本
は、なぜこういう投資ができないのでしょうか。
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             第1期     第2期
 地上交通開発費   37億ドル   70億ドル
 地域開発その他   28億ドル  115億ドル
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 第2期に入ると、財政赤字は大幅に縮小してきましたが、日本
のように緊縮財政を組むことなく、積極財政を続けたのです。そ
のため1998年には黒字となり、財政再建に成功しています。
公共投資は第1期よりも第2期の方が多いことが日本とは大きく
違うところといえます。
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             第1期     第2期
  歳出規模      5.6%    4.6%
  【義務的経費】
    社会保障    5.4%    3.7%
   メディケア   10.9%   11.9%
     その他   △0.1%    7.2%
     利払い    4.4%   △1.6%
     その他   △0.1%    7.2%
     利払い    4.4%   △1.6%
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
       はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
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 1990年代後半になって、長短ともに金利が低下してきたの
です。そこでクリントン政権は長期国債の書き換えを短期国債で
行い、国債コストの削減を行っています。
 このように、クリントン大統領は消費項目を抑えて投資項目に
予算を重点的に投入し、景気振興策をとっているのですが、クリ
ントン政権は、2003年から景気が回復基調にあることを鋭く
見抜いていたため、こういう手を打ったのです。
 巨額な財政赤字を解消するには、景気回復の力を借りて、思い
切ったメリハリのある手を打つべきです。日本の場合も小泉政権
の発足した1年後は景気回復基調にあったのです。
 しかし、小泉政権は経済がデフレであるにもかかわらず、緊縮
財政をひいて需要を抑え込み、供給サイドを強くすると称して、
金融機関の不良債権処理を強行して企業をつぶしたのです。それ
が税収の大幅減少を招き、赤字国債の発行額を増やすという財政
再建とは逆のことをやったのです。それが改革なくして景気回復
なしの正体です。          ・・・[日本経済32]


≪画像および関連情報≫
 ・2001年度大統領の予算教書より
  財政赤字が減少し始めたのは1993年度からである。これ
  は米国の景気が回復し始めた時期であり、その後1995年
  にかけて景気が回復し、税収が増加した。この間の財政赤字
  減少の約7割は、景気回復によるものであり、税率の変更な
  どの構造要因は約3割にすぎない。ついで1995年度から
  1998年にかけては、税収が増加し、財政は黒字に転換し
  た。この間の税収増加要因の約7割が、税率の引き上げなど
  の構造要因である。  ――2001年度大統領の予算教書

1790号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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