除に関連して次のような趣旨の発言をしたのです。
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実質成長率は確かに上がってきたが、名目成長率は低いままで
ある。量的緩和解除の指標はCPIだけではなく、エネルギー
を除いたGDPデフレーターもある。名目成長率が上がってく
ることが重要である。 ――竹中総務相
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竹中氏は、日本経済はまだデフレを脱却しておらず、間接的に
「量的緩和解除はまだ早い」といいたいのでしょう。量的緩和が
解除されると、それは長期金利の上昇を招き、名目成長率を上回
ってしまうからです。そこで、竹中・中川ラインは、しきりに日
銀に対し、「目標を示せ」と迫っています。
その目標とは何でしょうか。
それは「物価水準数値目標を示せ」ということであると思いま
す。例えばインフレ率を1〜3%とし、その達成期限を明示せよ
ということです。名目成長率は、実質成長率に物価上昇率を加え
たものですから、要するに「名目成長率を上げよ」というのはイ
ンフレ・ターゲッティング政策と同じ意味になるのです。
しかし、竹中氏といえば、日本経済の問題点は供給サイドにあ
るとして、供給サイド――すなわち、企業を金融機関の不良債権
処理を加速させて削減しています。弱いところ、問題のあるとこ
ろを削減すれば、強いところが残るという論理なのです。
しかし、問題なのは、その一方で緊縮財政を5年間も継続させ
需要を徹底して抑制したことです。その結果として、デフレは一
層深化し、大幅な税収の落ち込みを招いてしまったのです。
竹中・中川ラインは、現在は財務省の目論む大増税路線に反対
し、正義の味方のように振舞っているものの、大幅に税収を落ち
込ませ増税の言質を財務省に与えたのは、これまでの経済運営の
結果なのです。ここに竹中政策の矛盾点があるのです。
それでは名目成長率を増やすにはどうしたらよいでしょうか。
大方の批判を覚悟していえば、「緊縮財政を解いて、公共投資
を増やすこと」です。このようにいうと、政府債務が795兆円
もあるのに、そのうえ無駄な公共投資を増やせというのかという
批判を浴びてしまうでしょう。現在の世の中は、そういうムード
になってしまっているからです。
『増税が日本を破壊する』
菊池英博教授は、これについて次のように述べています。
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@「公共投資はGDPの増加に寄与していない」
この言葉は、当初から小泉純一郎氏と竹中平蔵氏がよく宣伝し
マスコミも便乗して使っている。しかし、事実に反する発言で
あり、大間違いである。1990年代の前半から今日までのG
DP成長と税収の関係をみると、積極財政の効果は税収を増加
させている。問題は、効果が出始めると、すぐ緊縮財政に切り
換える政策をとっていることだ。
菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
はないこれだけの理由』
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現在、日本では「公共事業=悪役」という構図ができ上ってい
ます。しかし、本当にそうなのでしょうか。これに関して、『中
央公論』1903年12月号に出ている国土交通省技監の大石久
和氏の「本当に公共事業は悪役なのですか」という論文が参考に
なります。
大石氏は、公共事業に関する批判を次の4つに分けています。
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1.公共事業の大きさに 係わるもの
2.公共事業の対象に 係わるもの
3.公共事業の経済効果に係わるもの
4.公共事業の手続きに 係わるもの
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第1は公共事業費の金額の大きさに関する批判です。大石氏は
2003年度の国債発行額36.4兆円を例に上げて説明してい
ます。確かに大きい金額ですが、36.4兆円のうち30兆円は
赤字国債――税収不足を埋める国債であり、公共事業に使われる
建設国債は6.4兆円(18%)に過ぎないのです。そこまで調
べたうえで公共事業費が大きいといってはいないはずです。
第2は公共事業の対象に関する批判です。つまり、内容や質の
問題です。人の通らない道路建設とか不要なハコものの建設など
がそうです。クリントン前大統領は、地上交通網の建設や地域開
発、教育振興、学校建設など十分に質を考えて投資しています。
日本でも必要な対象がたくさんあるはずです。
第3は公共事業の経済効果です。財政出動の経済効果は経験則
でしかいえませんが、辛抱強く継続したケースではちゃんと効果
が上がっているのです。日本の場合は、少し効果が出てくると、
すぐ緊縮財政に切り換えてしまうことの繰り返しであり、これで
は効果をうんぬんできないのです。
第4の手続きに関するものとして一番批判があるのは談合、そ
れによる高コスト体質のことです。
大石氏は額の大きさに関し論文中で次のように述べています。
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国債発行額の増加は赤字国債の急激な拡大に起因しており、公
共事業に使われる建設国債発行額は逆に減少。公共事業の規模
も、同様に年々縮小しているというのが、この数年間の構造な
のである。この構造を見れば、財政悪化の主因が公共事業のた
めの国債発行にあるとする主張『財政破綻主因論』は、およそ
説得力に欠けるものと言わざるを得ない。 ――大石久和氏
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毎年大量の赤字国債を発行しなければならない主原因は、緊縮
財政による税収減少なのです。 ・・・ [日本経済31]
≪画像および関連情報≫
・大石久和氏の主張より
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政府予算における公共事業費は、削減され続けてきた。平成
15年度当初予算における一般公共事業関係費(国費)は前
年度比3.8%減の約8兆円であり、これは景気対策として
大規模な補正予算が組まれた平成10年度の約6割にすぎな
い。事業規模が縮小したことそれ自体を慨嘆する必要はない
が、その結果として、日本の国際競争力が必要な水準に維持
されているか否か、日本が目指すべき国土利用に向けて直実
に進んでいるのか否か、を懸念するのである。
『中央公論』/2003年12月号――大石久和著、『本当
に公共事業は悪役なのですか』―――森田実著、『公共事業
必要論』
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