2006年03月06日

日銀金融政策3つの選択肢(EJ1788号)

 どうやら日銀による量的緩和政策は、3月中か遅くも4月には
解除される見通しが強くなってきています。3日発表のCPIが
明確なプラスになり、政府内部も解除容認のムードになってきて
いるからです。福井日銀総裁としては、次の2つの理由から、少
しでも早く量的緩和解除を実現したいのです。
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 1.「異例の政策」を一日も早く終わらせて正常に戻したい。
   解除条件であるCPIのプラス化をクリアしつつある。
 2.このところ「買いオペ札割れ」による日銀当座預金の目標
   残高割れが何回も起こっており、限界に達しつつある。
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 確かに金融機関が必要とする以上の大量の資金を日銀が供給す
る量的緩和政策は異例の政策といえると思います。日銀総裁とし
ては一日も早く日銀当座預金の目標残高「30兆〜35兆円」を
本来の6兆円まで引き下げ、政策手段を金利に戻したいと考える
のは至極当然のことです。
 まして、最近は「買いオペ札割れ」が何回も起こっており、日
銀当座預金残高の目標「30兆〜35兆円」を下回ることが何回
も起きているのです。これは量的緩和政策が限界に達しつつある
ことを示すサインと考えることができます。
 日銀が金融調節をするさい、手形や国債を買い入れる予定額を
事前に金融機関に伝え、金融機関がこれに応札するかたちで行わ
れるのです。これに対する代金の支払いというかたちで日銀は各
金融機関の日銀当座預金口座に資金を振り込んで、残高を増加さ
せるわけです。
 しかし、応札額が日銀の予定する額を下回ることがあります。
これが「買いオペ札割れ」です。このところ短期国債では札割れ
が頻繁に起こっているのです。
 短期国債だけでなく、中期国債でも札割れが起きています。こ
の2月22日、中長期国債オペは、入札予定額3000億円に対
し、応札額が2302億円にとどまったのです。中期国債の需要
が一時的に高まり、日銀に中期国債を売る金融機関が少なかった
ためとみられています。これは中長期国債の買い入れオペでは9
年5ヶ月ぶりのことなのです。
 なぜ、札割れが起きているのでしょうか。
 それは、景気が回復し、金融機関は必要以上の手元資金を不測
の事態に備えておく必要がなくなったと考えられます。つまり、
札割れの頻発は景気回復のシグナルであるといえます。
 しかし、不用意に量的緩和政策を解除すると、長期金利が上昇
する危険があります。それは量的緩和の解除を金融引き締めのサ
インであるととられる恐れがあるからです。
 なぜなら、日銀は日銀当座預金の残高を引き上げるときに「追
加緩和」といってきたからです。したがって、残高を引き下げる
と「金融引き締め」と受け取る恐れがあるのです。
 こういう憶測が広がると、長期金利が上昇(債券が下落)し、
金融機関が抱える大量の国債に含み損が発生する恐れがあるので
す。そうなると、企業収益が悪化し、景気を腰折れさせる恐れが
出てくるのです。
 しかし、景気回復が確実なものになった現在では、札割れが起
こるということは、量的緩和がその役割を終えており、後は粛々
と目標残高を下げていけばよいという意見が支配的です。これに
対してRIETIのファカルティ・フェローである伊藤隆敏氏は
それは正しくないといっています。
 やはり不用意に量的緩和解除を行うと、日銀は金融引き締めに
転換したと受け取られるというのです。そのため、日銀による現
在の金融政策としては、次の3つの選択肢がありうると伊藤氏は
提言しているのです。
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    第一の選択肢:30兆〜35兆円を死守する
    第二の選択肢:日銀当座預金に利息をつける
    第三の選択肢:物価水準目標を明示的に導入
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 伊藤氏は、日銀の量的緩和政策は景気回復に大きく貢献してい
ると評価し、継続すべきであるという立場に立って、上記3つの
選択肢を示しています。
 札割れに対する対策としては、第一の選択肢として長期国債と
その他の債券――具体的には社債や不動産投資信託(REIT)
株価指数連動型上場投資信託(ETF)などのリスクを伴う債券
の購入を検討すべきであるといっています。これによって長期金
利を低く保つことができるからです。
 第二の選択肢である「当座預金に利息を付ける」の発想はなか
なかユニークです。これは、金融機関が余剰資金を日銀に預ける
インセンティブとなり、日銀は30兆〜35兆円を維持すること
が可能になります。
 第三の選択肢は、デフレ脱却のためのシグナルを「量的緩和」
から「物価水準数値目標」にシフトし、デフレ脱却に向けてのコ
ミットメントを強める――日銀が具体的な数値を上げて物価安定
を定義し、その目標達成期限を示すことを伊藤氏は求めているの
です。そうしておくことによって日銀当座預金残高を減額させて
も、金融引き締めと市場は受け取らないからです。竹中総務相も
同じようなことをテレビ朝日「サンデー・プロジェクト」でいっ
ていました。
 コミットメント――約束することですが、これは市場に対して
強いシグナルを送るのです。とくに日銀総裁の発言は市場に強い
メッセージとして伝わるのです。
 福井総裁は解除に向けて前のめりの姿勢で訴えているので、政
府内には容認のムードが出てきたものと思われます。問題は出口
ですが、その姿勢として、「ゼロ金利は続ける」とし、その上限
を0.1%とするという踏み込んだ発言もしています。問題は長
期金利がどうなるかです。      ・・・[日本経済30]


≪画像および関連情報≫
 ・「買いオペ札割れ」について
  オペの札割れとは、日本銀行が金融調節のためのオペレーシ
  ョンをオファーしたときに、金融機関から申し込まれた金額
  が、入札予定額に達しないことを言います。資金供給オペレ
  ーションで札割れが起こっているということは、金融機関に
  十分な資金が既に行き渡っているため、金融機関がオペレー
  ションに全額は応じようとしなくなるほど、日本銀行が豊富
  に資金供給を行っていることを意味します。
 ・伊藤隆敏氏のレポートのサイト
  「ファカルティ・フェロー」とは、省庁や大学に籍を置く非
  常勤のフェローのことである。
  http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/ito/01.html

1788号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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