2006年03月03日

量的緩和政策は役に立ったか(EJ1787号)

 このところ日銀の問題を取り上げています。日銀総裁が量的緩
和解除の姿勢を見せているからです。今回のEJは、財務省が目
論んでいる財政再建を目的とする大増税は本当に不可避なものな
のかについて追求していますが、そのさい日銀の判断は大きな鍵
を握っています。
 2000年8月に実施したゼロ金利解除に失敗した速水前総裁
は、2001年3月に量的緩和を打ち出しています。そのさい、
金融政策の操作目標を従来のコールレートから日銀当座預金残高
に変更したのです。
 つまり、目標残高として5兆円を設定したのです。当時、所要
準備は4兆円であったので、1兆円の余裕を作ったのです。こう
することによって、コールレートは当然ゼロ金利に貼り付くこと
になります。
 日銀はその後長期国債の買いオペを増やすことによって、20
04年1月までの間に目標残高を実に9回にわたって引き上げて
現在は30兆円〜35兆円の巨額に達しているのです。これが量
的緩和なのです。
 2003年3月20日に速水総裁は退任し、福井総裁に代わっ
たのですが、日銀当座預金残高の引き上げはその後4回行われ、
現在の水準に至っているのです。
 既に述べたように、量的緩和の「量」はマネタリ−ベースの量
のことです。マネタリーベースとは、日銀がその量を調節できる
お金のことであり、これを増大させようというのです。なお、マ
ネタリーベースは、ベースマネーともいわれます。
 日銀の量的緩和によって、ベースマネーの平均残高は次のよう
に飛躍的に増加しているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    ●ベースマネー平均残高の前年比増加率
     2001年 ・・・・・  7.4%
     2002年 ・・・・・ 25.7%
     2003年 ・・・・・ 16.4%
     2004年 ・・・・・  7.1%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、この世界に類を見ない量的緩和策は効果があったので
しょうか。
 金融機関は預金などで集めたお金を企業や個人に貸し出したり
債券や株式など有価証券に投資して、預金に対して支払う利息以
上のお金を生み出すことにより、収益を上げています。日銀当座
預金も金融機関にとっては、貸し出しや有価証券などと同じ資産
となるのです。しかし、日銀当座預金の場合、一切利子は生まな
いのです。
 量的緩和というのは、そういう利子を生まない資金が通常必要
とされる以上に積み上がっている状態ですから、資金をそのまま
に放置すると、巨額の資金を寝かすことになり、資産の利回りは
悪化してしまうことになります。
 そうすれば、金融機関はそれを取り崩して、貸し出しなどリス
クを取った運用を増やそうとするはずである。そうでなければ、
資産の利回りは悪化する――そういう狙いが日銀にはあったので
す。このように、貸し出しなどで市場に出回る資金のことを「マ
ネー・サプライ」というのです。
 このマネー・サプライについてもう少し正確に述べましょう。
マネー・サプライは通常次のように定義されます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     マネー・サプライ = M2+CD
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 M2(エム・ツー)は、普通銀行の「定期性預金」のことであ
り、CDは「譲渡性預金」のことです。ちなみに、M1は「当座
預金/普通預金」、M3は「郵便貯金」を意味します。譲渡性預
金は、途中で売買できる預金証書のことです。
 この「M2+CD」をマネー・サプライといい、日銀が金融政
策の運用上で一番注目しているデータの一つなのです。2001
年〜2004年間についてマネー・サプライの平均残高の前年比
の伸びを見てみることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 2001〜2004(量的緩和あり)  1.7〜3.3%
 1997〜2000(量的緩和あり)  2.1〜4.0%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これによると、マネー・サプライ(M2+CD)は、量的緩和
を実施した4年間と量的緩和のない先の4年間に比べても明らか
に増えていないのです。
 どうしてマネー・サプライが増えなかったのかというと、銀行
としては、国からの性急なる不良債権処理、自己資本比率維持、
収益改善の三重苦の押し付けによって、古い貸し出しの回収と新
規貸し出しに慎重姿勢を取らざるをえなかったのです。
 マネー・サプライが増えないだけではないのです。デフレから
も脱却していないのです。消費者物価指数(CPI/生鮮品をの
ぞく)は一貫してマイナスになっているのです。
 量的緩和の効果があったとされることがひとつあります。それ
は、長期金利の上昇を抑えたことです。それは日銀が量的緩和の
継続条件として、CPIの前年比上昇率が安定的にゼロ以上にな
るまでという客観的条件を表明したことです。
 このように客観的指標を示したことにより、市場は量的緩和の
継続期間が予測しやすくなり、間違った思惑(リスク)によって
長期金利が上昇することを未然に防いだのです。
 鈴木政経フォーラム代表/鈴木淑夫氏は、「現在の長期金利は
将来の予想短期金利の加重平均にリスクプレミアムを加えたもの
である」といっています。したがって、リスクプレミアムを小さ
くすることによって長期金利は安定化するのです。これは財政の
金利負荷軽減に大いに貢献したのです。しかし、量的緩和には大
きなデメリットもあるのです。   ・・・ [日本経済29]


≪画像および関連情報≫
 ・鈴木政経フォーラム代表/鈴木淑夫氏のコメント
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (速水総裁の打ち出した)新機軸の最大の副作用は、金融機
  関経営の自主性喪失と市場の歪みである。金融機関経営とは
  将来の金利、資金のアベイラビリティ、顧客の信用などにつ
  いて、自主的に判断してリスクをとり、ポートフォリオを調
  整していくものだ。しかし、量的緩和政策の下で、日本銀行
  が巨額の長期資金を安定した金利で供給し続けた結果、金融
  機関は市場との自主的な対話で将来の金利や資金事情を予想
  し、リスクを取る必要がなくなった。
    ――『週刊/東洋経済』7/30/鈴木淑夫氏論文より
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ・添付ファイルの図
  http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo204.htm

1787号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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