務省首脳の3人が幹事長の小沢一郎に突き付けた「申し入れ書」
があります。これによって、第1次湾岸戦争に日本は自衛隊を派
遣できず、135億ドルもの大金を拠出しながら、クウェートか
ら感謝されないという屈辱を味わっています。これが現在も日本
人のトラウマになっているのです。
こんな話があります。湾岸戦争が終わり、日本は遅まきながら
6隻の掃海艇をペルシャ湾に派遣し、機雷除去の作業を行ってい
ます。これは小沢が自民党幹事長の最後の仕事として日本の名誉
回復のために実現させたものです。
任務を終えて日本に帰国した隊員の慰労会の席上で、小沢が隊
長から聞いた話です。
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現地のアメリカ軍司令部に挨拶に行った際、(隊長が)「日本
は135億ドル、国民一人当たり100ドル出した」と言うと
相手の将校がポケットから100ドル紙幣を出して「これを君
にやるから、オレの代わりに戦ってくれないか」と言われて恥
ずかしかったと。
──渡辺乾介著、『小沢一郎/嫌われる伝説』より/小学館刊
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日本が世界からこのような屈辱を受ける原因ともなった外務省
首脳による「申し入れ書」について外務省は完黙しているし、小
沢も公表していませんが、「申し入れ書」自体は小沢はきちんと
保管しているそうです。
この「申し入れ書」とはどういう性格の文書なのでしょうか。
外務省の総意というのであれば、いつ、どこで、外務省のどのレ
ベルの会議で、どんなメンバーの意見を集約したものなのか。そ
れとも3人だけで決めたものなのか。もし、そうであるなら、総
意は偽装されたことになる――渡辺乾介氏はこういっています。
おそらく外務省がきちんと手続きを踏んで幹事長に提出した文
書ではないと思います。
渡辺乾介氏の本にはこんな話が披露されています。小沢に「申
し入れ書」を突き付けた3人組の1人である斎藤邦彦――そのと
き既に外務省事務次官になっていた斎藤が1994年7月に社会
党委員長の村山富市が総理大臣に指名された直後の記者会見で、
村山が日米安保反対というのではないかと心配になり、外務省か
ら出向している首相秘書官に次のように命じているのです。これ
は斉藤自身が語ったものとされているのです。
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脅してもいいから、反対とは言わせるな
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かりそめにも相手は総理なのです。たとえ部下に対する命令で
も言っていいこととわるいことがあります。このように、高級官
僚の思い上がりはひどいものなのです。これは現在でも、何も変
わっていないようです。したがって、小沢に突き付けた文書もこ
れと同じように幹事長をコントロールする目的で出されたものと
思われます。明らかに官僚主導外交です。
とにかく湾岸戦争では、自衛隊を海外に出すことについて、日
米重視、国連中心ではなく、韓国、中国、アジア諸国が容認しな
いと外務省はいっていたはずです。それが、小沢への「申し入れ
書」に書かれているからです。
それが13年後のアフガン、イラク支援の自衛隊派遣では、一
転して日米重視になり、中国でも、韓国でもなく、アジアの一言
もないのです。これは外務省の方針変更なのか――小沢は次のよ
うに外務省を批判しています。
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湾岸以後のイラク戦争にいたる間に、外務省の国際社会に対す
る分析、認識やアジア観が変わったのか。変わったとすれば、
いかなる手続き、段階を経て変えたのかをクリアにしなければ
ならない。 ――小沢一郎
──渡辺乾介著、『小沢一郎/嫌われる伝説』より/小学館刊
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何本もの国連決議があっても、アジア重視を主張して自衛隊を
海外に出すのに反対した外務省であったはずです。それが13年
後には一転して日米重視となり、辻褄合わせの新法を作って、国
連決議がなくても自衛隊を派遣している――つまり、政治の究極
の決断と責任であるはずの軍を動かすという重大事に対して、主
務官庁である外務省は一貫した方針というか、原則というものを
持っていないことになります。
自民党の歴代政権は「武力行使と一体化しない後方支援は憲法
が禁止する集団的自衛権の行使には当たらない」という内閣法制
局の憲法判断を金科玉条とし、それに加えて「戦争をしに行くの
ではない。危なくないところに行く」という虚構の論理で自衛隊
を海外に出してきたのです。
官僚のトップの事務次官が総理大臣を裏からコントロールする
ことなどあってはならないことです。しかし、自民党幹事長当時
の小沢に対しても、そのコントロールが「申し入れ書」というか
たちでなされているのです。いったいこの国はだれが統治してい
るのでしょうか。だからこそ、政権交代において民主党が「政治
主導」を推進しようとしているのですが、それがさまざまな面で
強い反撃にあっているのです。
小沢は、若くして与党の幹事長の職について、早くから官僚支
配の壁に突き当たって、幹事長を辞職し、やがて自民党を離れた
のです。そして、再び与党民主党の幹事長になって、本当の意味
での政治主導を実現しようとしていますが、今度はもっと強烈な
抵抗が小沢を襲っています。
小沢もよくないかもしれませんが、問題が完全にすり替えられ
ていると思うのです。小沢問題の去就いかんでは、政治主導に危
険信号が点滅しはじめているのです。
―――[小沢一郎論/19]
≪画像および関連情報≫
●元外務省事務次官栗山尚一氏の回想
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3人組のトップであった栗山尚一は、退官後、朝日新聞に小
沢とのやりとりについて触れ、次のように回想しています。
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自衛隊は外国から見れば軍隊。戦ってはいけない軍隊という
のは、国際的には通用しない。私は派遣するならシビリアン
(文民)に限るべきだと主張した。私の考えには戦争体験や
父の影響があるかもしれない』」(朝日新聞夕刊所載「ニッ
ポン人脈記外交の波頭を行くE」08年2月22日付)
渡辺乾介著、『小沢一郎/嫌われる伝説』より/小学館刊
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海上自衛隊掃海部隊


