2006年03月01日

どのようにして金利をゼロにするのか(EJ1785号)

 1999年2月12日の日銀の金融政策決定会合では、次のこ
とが決まっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 オーバーナイト・レートは当初0.15%前後を目指し、その
 後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。
              ――1999.2.12決定会合
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これがゼロ金利政策のはじまりです。それでは、日銀はどのよ
うにしてオーバーナイト・レートを0.15%に、誘導するので
しょうか。
 日銀は銀行と取引して銀行に資金を供給したり、銀行から資金
を吸い上げたりするのですが、これを「金融調節――公開市場操
作」といっています。日銀の金融政策とは、この金融調節を通じ
て行われることになります。
 日銀が金融調節を行う場合、原則的には次の操作を行うことに
なります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      資金を供給する ・・・ 買いオペ
      資金を吸収する ・・・ 売りオペ
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 オーバーナイト・レートをゼロに誘導するとき、日銀が行った
金融調節は「短期国債の現先買いオペ」です。短期国債とは、政
府が発行する満期の短い(3ヶ月、6ヶ月、1年)国債のことで
あり、この国債を一定期間後に一定価格による売り戻し条件をつ
けて取引先金融機関から買い入れて、資金を供給することを「短
期国債の現先買いオペ」というのです。
 このようにして銀行に大量の資金を供給すると、資金が不足し
がちな都銀などが、コール市場で資金を借りる必要性はそれだけ
低下することになります。そうすると、コール資金の供給が需要
を上回ることになるので、オーバーナイト・レートをはじめとす
るコール・レートは低下します。日銀はこの手法を使ってオーバ
ーナイト・レートをゼロまで誘導したのです。これがゼロ金利政
策なのです。
 ちなみに、こまかな話ですが、オーバーナイト・レートをゼロ
にするといっても、短資会社の仲介料は支払わなければならない
のです。したがって、正確にいうならば、ゼロ金利政策とは、オ
ーバーナイト・レートから短資会社の仲介手数料を控除した残り
をゼロにする政策ということができます。
 しかし、オーバーナイト物というのは、取引日の翌日には返済
するというきわめて短い期間の資金なのです。その金利をゼロに
したところで、どれほどの効果があるのでしょうか。
 確かに、もしオーバーナイト・レートだけがゼロになるだけで
あれば、その影響力は微々たるものであり、金融政策としてはほ
とんど無意味です。しかし、そうはならないのです。
 オーバーナイト・レートがゼロになると、他の期日物にその影
響が及ぶからです。都銀をはじめとするコール市場で資金を調達
している銀行のなかには、期日物(1〜3週間物)で資金を調達
しているところも多くあります。
 しかし、オーバーナイト・レートがゼロになると、期日物を減
らしてオーバーナイト物で資金を調達しようとします。その方が
資金調達コストが安くなるからです。そういう銀行が多くなると
1〜3週間物の取引における需給が緩むため、1〜3週間物の金
利は低下します。
 同様の理由で、1〜3週物の金利が下がると、1〜11週物で
資金を調達していた銀行はその取引を減らして、1〜3週物で資
金を調達しようとするはずです。このようにして、1年未満の期
日物の金利低下が次々と起こることになります。
 このようにコール市場で資金を調達している銀行がより低い金
利の取引に移行することによって、取引期間が異なるコール資金
の金利体系が調整されることを「金利裁定」というのです。
 それでは、オーバーナイト・レートをほぼゼロに維持すること
によって、期日物の金利がどこまで低下するでしょうか。
 それは、市場に参加する者がゼロ金利政策がいつまで続くと予
想するかにかかっているといえます。ゼロ金利政策がまだまだ長
く続くと予想する人が多ければ、満期の長い期日物の金利も低下
しますが、市場参加者がゼロ金利政策はいずれ解除されると予想
すると、満期の長い期日物の金利は低下しないで、上昇すること
も考えられるのです。
 ゼロ金利政策をとったとき、日銀はそれをいつまで継続するか
について、次のコミットメントを出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 デフレ懸念の払拭が展望できるようになるまで、ゼロ金利政策
 を継続する。                ――日銀総裁
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 こういうコミットメントは、市場参加者にゼロ金利政策がいつ
まで続くかを予想しやすくすることによって、満期の長い期日物
の金利低下を促すという効果があるのです。
 コミットメントは、できるだけ具体的な尺度で示す方がよいの
です。しかし、速水総裁のこのコミットメントは、「デフレ懸念
の払拭が展望できるようになるまで」という抽象的な表現であっ
た点が問題であるといえます。
 そのため、速水総裁は、2001年3月に量的緩和政策に踏み
切ったとき、ゼロ金利解除の目安をCPI(消費者物価指数)と
いう客観的基準に置き換えています。
 このアイデアは、ゼロ金利政策解除の誤った思惑によって、長
期金利が上昇することを防ぐ効果をもったのです。また、財政の
金利負担軽減にも大きく貢献したといえます。これについては、
明日、もう少し詳しく解説します。  ・・・[日本経済27]


≪画像および関連情報≫
 ・「金利裁定」とは何か
  金利の低いところから、金利の高いところに資金が流れるこ
  と。2国間に金利差がある場合、先渡し及び先物には、直物
  で金利の高い通貨を売る動きが現れ、これらの相場は、限り
  なく通貨間の金利差を埋める水準まで下がる。このような為
  替市場の動きのことを金融裁定という。
  http://www.all-navi.jp/sec/words/archives/2005/06/post_113.html

1785号.jpg
posted by 平野 浩 at 09:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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