2006年02月28日

量的緩和とは一体何なのか(EJ1784号)

 昨日のEJで、経済同友会の高橋温氏の次の発言をご紹介しま
したが、注目に値する発言であると思います。
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 量的緩和解除を提言したが、ゼロ金利の解除を提言している
 のではない。               ――高橋温氏
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 この発言によると、「量的緩和」と「ゼロ金利」とは別のもの
ということになります。日銀の金融政策について少し勉強する必
要があります。EJで前に「ゼロ金利政策」を取り上げたときに
もすでに説明していますが、繰り返し解説することにします。
 まず、「コール市場」について知る必要があります。コール市
場とは、金融機関の間で資金を融通し合う市場のことです。「コ
ール」とは「呼ぶ」という意味であり、「呼べば直ちに戻ってく
る資金」として、ごく短期の資金を指しているのです。
 コール市場における資金の貸し借りにはいろいろな形態があり
ますが、一番代表的な取引形態は次の通りです。
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     無担保コール翌日物――オーバーナイト物
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 これは無担保で借りて、借りた日の翌営業日には返済する短期
資金です。コール市場で取引される資金を「コール資金」といい
その貸借レートを「コール・レート」といいます。ゼロ金利とい
うときの金利はこの金利を指すのです。
 もうひとつ知っておくべきことがあります。それは、銀行が日
本銀行に当座預金口座――日銀当座預金を持っているということ
をです。銀行間の資金のやり取りはすべてこの口座を通じて行わ
れることになります。
 B銀行がA銀行から資金を借り入れるとします。この場合、A
銀行の日銀当座預金がB銀行の日銀当座預金に振り替えられるの
です。このときB銀行がA銀行に支払う金利がコール・レートで
あり、オーバーナイト・レートはそのひとつです。
 もう少し詳しくいうと、このケースのA銀行とB銀行を結びつ
ける役割をする会社があるのです。資金の余っているA銀行と資
金を必要とするB銀行の仲介役であり、そのさいには仲介料を取
ります。この仲介者を短資会社といいます。
 短資会社――聞き慣れない会社ですが、具体的にどういう会社
なのでしょうか。
 短資会社はかつては6社あったのですが、現在は次の3社にな
っています。
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         1.上田八木短資
         2.東京短資
         3.セントラル短資
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 銀行は預金の量に応じて一定比率の日銀当座預金を保有してい
なければならないという決まりがあります。この一定比率を「所
要準備率」といいます。所要準備率は日銀の金融政策上の決定事
項のひとつとなっています。
 100億円の預金を保有している銀行があるとします。仮に所
要準備率を1%とすると、銀行はその1%に当たる1億円を日銀
当座預金に保有していなければならないのです。
 この銀行がある企業に1億円を融資することを決定したとしま
しょう。この場合、銀行はその企業に預金口座を作らせ、その口
座に1億円を入金することによって融資を実行します。このよう
に、銀行が融資を実行すると、預金が増加するのです。したがっ
て、1億円の1%に当たる100万円分の日銀当座預金を増やす
必要があります。この当座預金を増やす手段のひとつが、コール
市場で資金を調達することなのです。このような制度のことを準
備預金制度といいます。
 以上のことを基礎知識として、量的緩和政策について考えてみ
たいと思います。
 「量的緩和」とは量を増やすことを意味していますが、その増
やすべき「量」とは何を指すのでしょうか。その「量」には厳密
には次の2つあるのです。
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          1.マネタリーベース
          2.マネー・サプライ
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 もともと「量的緩和」という言葉は、1999年2月12日の
日銀の金融政策決定会合においてはじめて登場したのです。この
とき委員の中原伸之氏が、次のような言葉で量的緩和を表現して
います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   通常では行われないような思い切った金融緩和
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 中原委員が主張する「量」とは「マネタリーベースの量」のこ
とであり、量的緩和とはマネタリーベースの拡大を意味すること
になります。それでは、マネタリーベースとは何でしょうか。
 マネタリーベースとは、日銀がその量を直接コントロールでき
るお金のことです。マネタリーベースは、ベース・マネーとか、
ハイ・パワード・マネーとも呼ばれます。これに対して「マネー
・サプライ」とは、われわれが決済に使えるお金のことです。
 マネタリーベースは次のようなお金のことです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     日銀当座預金  ・・・・・  6%
     銀行手元現金  ・・・・・ 14%
     非銀行保有現金 ・・・・・ 80%
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                  ・・・[日本経済26]


≪画像および関連情報≫
 ・1999年2月12日の日銀の金融政策決定会合
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  この会議で中原委員から「量的緩和論」が出たのですが、意
  見がまとまらず、「オーバーナイト金利に少しでも引き下げ
  る余地が残っている以上、まずはそれによって経済活動をサ
  ポートし、金融市場に対して潤沢な資金供給を行って、マネ
  ー・サプライの拡大を促していくことが重要である」という
  考え方が支配的となって、中原委員の提案は否決されている
  のです。しかし、この決定会合によって、事実上のゼロ金利
  政策がスタートしたのです。
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1784号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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