まだった内閣法制局長官をはじめとする内閣中枢の幹部官僚の刷
新に乗り出し、15日の閣議で、内閣法制局長官のほか、3人の
官房副長官補のうち内政担当、外交担当の2人を交代させる人事
を決定しています。
これら法制局長官の交代は、内閣発足や内閣改造などの節目に
行われるのが普通で、通常国会への提出法案の審査で多忙になる
1月の交代は極めて異例なことです。
この人事は、小沢幹事長らが法制局長官を含む官僚の国会答弁
を禁止する国会法改正を目指す方針を打ち出したことと関係があ
ると考えられます。政府はこの14日、政治主導の国会運営のた
め、通常国会からは内閣法制局長官の国会答弁を認めない方針を
決定しているのです。
小沢がなぜ内閣法制局長官の国会答弁を認めない方針を打ち出
したかには理由があるのです。それを明らかにするには、もう一
度1990年8月の時点に遡ってみる必要があります。
自衛隊の海外派遣の日本政府としての解釈には次の2つがある
のです。これらは内閣法制局長官による政府答弁書として出てい
るものです。
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≪1.1980年10月28日の政府答弁書≫
・目的、任務が武力行使を伴うものであれば、自衛隊がこれに
参加することは憲法上許されない。
≪2.1981年 5月29日の政府答弁書≫
・憲法上許容されている自衛隊の行使は、わが国を防衛するた
め必要最小限度の範囲にとどまるべきである。
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これら2つの政府答弁書のうち1981年のものについては、
自衛隊の海外派遣の道を閉ざし、集団的自衛権を認めない法解釈
になっていたのです。
それならば、武力行使を伴わない国連軍への参加はどうなのか
というと、憲法上は認められるのですが、自衛隊にはそのための
任務規定がなく、実際にはできないのです。これは「国連中心主
義」を唱えながら、具体的には何もやっていない外務省の怠慢で
あると小沢は考えていたのです。
8月27日の自民党四役会議の直後のことです。外務省の3人
の高官が幹事長室に小沢を訪ねてきたのです。その3人とは次の
外務省のトップです。
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外務省事務次官・栗山尚一
外務審議官・小和田恒
官房長・斎藤邦彦
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そのとき、どういうやりとりがあったのか、既出の渡辺乾介氏
の著書からご紹介することにします。栗山事務次官は、小沢幹事
長に文書を手渡して、次のように切り出したのです。
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これはわが省の総意としてお汲み取りいただきたい
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小沢は無言で栗山から文書を受け取り、ゆっくりと読みはじめ
たのです。そこには次のようなことが書かれてあったのです。
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外務省としては自衛隊を海外に派遣すること、したがってイラ
ク制裁の多国籍軍に自衛隊艦船、輸送機を派遣することは断固
として反対せざるを得ない。その理由は、自衛隊派遣は中国、
韓国をはじめアジア諸国が容認しないと思料され、あえて自衛
隊派遣をして近隣諸国の反発を招くことは外交上得策ではなく
国益を損なう恐れがある。
──渡辺乾介著、『小沢一郎/嫌われる伝説』より/小学館刊
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小沢は文書を読み終わると、文書を手にしたまま、3人と向き
合い、次のように述べたのです。
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小沢:外務省は戦後一貫して日米同盟あっての日本だ、日米協
調が重要だ、国連中心外交だと強調してきた。私もそう
思う。しかし、この文面には日米の一言も、国連という
言葉すら見当たらないが、これはどういうことなのか。
3人:・・・・・
小沢:韓国、中国をはじめアジア諸国との関係が大切であるこ
とは言うをまたない。私は、湾岸問題における自衛隊派
遣の意味をきちんと説明するなら、近隣諸国の理解は得
られると確信する。そういう努力こそ重要ではないか。
3人:・・・・・
──渡辺乾介著、『小沢一郎/嫌われる伝説』より/小学館刊
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小沢はさらに重ねて、日本の国連加盟の誓約から説き起こし、
日本は3度にわたって国際社会に加盟国としての義務を履行する
ことを表明しているとして、何もしなくてもいいのかと迫ったの
ですが、3人は反論も同意もせず、ただ押し黙ったまま一言も発
せず、幹事長室を後にしているのです。
外務省のトップ3人なら、外交当局らしく国際社会の動向分析
や外交政策論を幹事長に展開して派遣反対を唱えたのなら、まだ
わかりますが、小沢につけ入られることを恐れて一言も発せず、
はじめに反対ありきの方針を決めて押しつけて帰ってしまったの
ですから、小沢が怒るのは当然の話です。
この自衛隊の海外派遣の反対論は外務省だけでなく、集団的自
衛権の行使を憲法違反とする論理の砦ともいうべき内閣法制局と
防衛庁も自衛隊派遣反対でスクラムを組んでいたのです。そのと
き、これは官僚機構の総意であったのです。現在の小沢潰しもこ
れと似た構図です。 ―――[小沢一郎論/14]
≪画像および関連情報≫
●法制局よ、お前は何者なのだ/衆議院議員・江田憲司氏
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世間で「法の番人」と呼ばれる内閣法制局は霞が関では「法
匪(ほうひ)」と呼ばれていた。私が通商産業省(現・経済
産業省)の官房総務課で法令審査を担当していた二十五年ほ
ど前の話である。内閣法制局は、内閣(政府)が国会に提出
する法案について、閣議決定に先立ち“純粋に法律的な”見
地から問題がないかどうか審査する役所で、その了承がなけ
れば政府は一切の法案を国会に提出できない。総勢百人にも
満たない小所帯だが、とにかく頑固で頭が固く、法律の「厳
密な解釈」を盾に一歩も譲らない。各省庁の官房で法令審査
担当となった者の表情は一様に暗くなったものだ。
http://www.shinchosha.co.jp/foresight/200906/topic_02.html
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内閣法制局が入っている合同庁舎