2010年01月20日

●「日本に危険をもたらす日米ガイドライン」(EJ第2736号)

 そもそも日米合意――自民党の橋本政権と米クリントン政権が
1997年に締結した「日米ガイドラインの見直し」に民主党を
はじめとする野党がこぞって反対しているのは、なぜなのでしょ
うか。このあたりのことをきちんと理解する必要があります。
 1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦後の時代になったの
ですが、この冷戦後の10年間が日本にとって外交基盤を転換し
日米安保体制を見直すチャンスであったといえます。
 しかし、その大事な時期の日本の政治状況は、きわめて脆弱で
あったのです。ちなみに自民党の単独政権は、1993年の宮沢
内閣で終焉し、その後は細川政権から森政権までは短命の政権が
続くことになります。
 これでは、外交基盤を転換することはとてもできなかったと思
われます。そういう意味で、腰の据わった外交姿勢を確立するに
は、安定した単独政権が必要なのです。
 しかし、同じ敗戦国であるドイツでは、1993年に「在独米
軍基地の見直しによる縮小、地位協定の改定」を行っているので
す。これによってドイツは在独米軍を26万人から4万人に削減
させることに成功しているのです。
 ところが、日本は自民党が政権の主導権を取り戻した橋本内閣
のとき、アジアでは冷戦は終わっていないとして、日米安保の自
動延長を行い、「ガイドラインの見直し」に踏み込んでいます。
これに普天間基地の問題が密接にからんでいるのです。
 この「ガイドラインの見直し」によって、一体何が見直された
のでしょうか。
 これまでは日米安保の対象とする「有事」とは、極東地域に限
定されていたのですが、ガイドラインの見直しでは、その「極東
条項」を撤廃し、「平和と安全を脅かす事態の性格」によって決
める方式に変更されているのです。
 これはどういうことかというと、仮に、世界のどこで起こった
紛争であっても、それが日本の平和と安全を脅かすと判断すれば
米軍と共同して行動する可能性を開いてしまったのです。これは
テロに対する即応体制ですが、日本にとってきわめて危険な事態
を招きかねないことになる恐れがあります。
 実際にそれからというもの、とくに9・11後において、当時
の小泉政権は、米軍がアフガニスタンやイラクと戦争を始めると
海上自衛隊の補給艦と護衛艦をインド洋に出すことになったり、
イラクに自衛隊を派遣したりと、米国の戦争に付き合わされてき
ているのです。
 そして「米軍再編」です。この米軍再編について、寺島実郎氏
は、軍事評論家の故江端謙介氏の言葉をひいて、次のように懸念
を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年に亡くなった軍事評論家の江畑謙介は、正確な知識
 と情報に基づく軍事評論家として敬服すべき存在であった。そ
 の晩年の著書『米軍再編』(2005年、新版2007年、ビ
 ジネス社)は米軍再編の真実を冷静に分析した作品であった。
 この中で「米軍は必要な時に日本を、太平洋を超えた兵站補給
 部隊展開の前進拠点にしようとしている」と米軍再編の本質を
 見抜いていた江畑は同床異夢の米軍再編には危険が潜む」と指
 摘、基地の縮小・移転、地位協定の改正、思いやり予算の削減
 などについて戦略的提言をしていた。我々は江畑謙介の問題意
 識と提言を重く受け止めなければならない。 ――寺島実郎著
 『常識に還る意思と構想――日米同盟の再構築に向けて』より
           『世界』/2010年2月号/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように「ガイドラインの見直し」以来、日本は米国の戦争
に何らかのかたちで巻き込まれています。しかし、政権交代を果
たした民主党は、今までのような対米従属を見直す政策を打ち出
しています。しかし、それを本当にやり遂げるには安定した政権
運営が必要になります。だからこそ、民主党は参院選勝利にこだ
わっているのです。
 そういう日本の変化に警戒しているのは米国です。そしてあの
手この手とさまざまなかたちで民主党政権を揺さぶってきている
のです。
 昨日のEJで、「日米安保で飯を食べている人たち」について
述べましたが、その一人にほとんどの日本人が知っているアーミ
テージ元国務副長官がいます。このアーミテージ氏について寺島
氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アーミテージ元国務副長官は、2009年12月に都内で行わ
 れた日米関係に関するシンポジウムにおいてさえ、「皆さんが
 今夜、安心して眠れるのは米国が日本を守っているからだ」と
 訴えていた。悪意はないのだろうが、残念ながら日米安保の実
 体が日本を守る」「極東の安全を守る」という原点から大きく
 乖離し、中東から中央アジアまで「イスラム原理主義」を意識
 した、テロとの戦いなる「アメリカの戦争」に対する共同作戦
 の基盤へと変質していることを正確に伝えていない。イスラム
 原理主義」に立つテロリストとの戦いは、微妙にイスラム全体
 の憎しみを増幅し、文明の衝突さえ誘発しかねないリスクがあ
 る。          ――――寺島実郎氏の前掲論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように日本は、戦闘行為に直接参加しないまでも、米国の
戦争に付き合っていると、世界中に敵を作る結果になることを寺
島氏は警告しています。まして中東諸国は「日本は中東のいかな
る国にも武器輸出も軍事介入もしていない唯一の先進国」として
敬意と好感情を抱いているといわれています。
 また、米国と違って、「イスラエル・パレスチナ問題」に対し
てイスラエル支持を表明しなければならない国内事情があるわけ
でもないのです。日本人はそういう有利な自らの立ち位置を自覚
すべきであります。       ―――[小沢一郎論/12]


≪画像および関連情報≫
 ●リチャード・アーミテージとは何者か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日米間の安定的な安全保障システムの確立に貢献してきたほ
  か、椎名素夫・石原慎太郎など日本の政治家や官僚らとの繋
  がりも強い。一方で、核武装など大幅な日本の軍事的拡大に
  は否定的とされる。かつて、日米間で摩擦があったFSX開
  発問題では日本側との調整を担当している。日本や東アジア
  全般の安全保障に関する発言が常に注目を集める。アーミテ
  ージの名が一般に広く知られるようになったきっかけとして
  2000年に対日外交の指針としてジョセフ・ナイらと超党
  派で作成した政策提言報告「アーミテージ・レポート」の存
  在が挙げられる。          ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

リチャード・アーミテージ氏.jpg
リチャード・アーミテージ氏
posted by 平野 浩 at 04:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 小沢一郎論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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