テーマの小沢一郎論に今週から入ろうと思っていたのですが、岩
波書店の雑誌『世界』の次の特集を読んで、もう少しこの問題に
ついて考えてみたいと思います。
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特集/普天間移設問題の真実
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これは、9本の論文と4人のインタビュー記事を含む文字通り
の大特集です。その中でも冒頭の寺島実郎氏による次の論文は、
日本人必読であると考えます。沖縄問題は、大新聞やテレビの報
道だけでは真実が見えなくなるからです。
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寺島実郎氏
「常識に還る意思と構想――日米同盟の再構築に向けて」
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ひとつ思い出していただきたいことがあります。それは海上自
衛隊のインド洋での給油活動です。かねてから自民党やマスコミ
は、もし、インド洋の給油をやめてしまうと、日米関係はおかし
くなると大合唱してきたはずです。
しかし、民主党政権が米国と交渉すると、条件付きながら意外
にあっさりと米国はそれを受け入れています。そうなると、自民
党やマスコミは一転してそれをいわなくなり、今度は普天間問題
にすり替えて民主党批判の大合唱をやっています。
そのインド洋の給油は、先週の金曜日の15日に終了しました
が、新聞はほんの数行報じただけです。これについて、寺島実郎
氏は、上記論文の中で次のように論じています。
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この間まで、「インド洋への給油活動こそ日米同盟の証であり
これがなくなれば、日米同盟は破綻する」と言っていた人たち
は、今度は「普天間問題での日米合意をそのまま実行しなけれ
ば日米同盟は破綻する」と主張し始めた。また、在ワシントン
の日本のメディアにも「良好な日米関係破綻の危機迫る」との
発信しかできない特派員が少なくない。 ――寺島実郎著
『常識に還る意思と構想――日米同盟の再構築に向けて』より
『世界』/2010年2月号/岩波書店
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寺島実郎氏は、このように米国の顔色を伺いながら、日米の軍
事同盟をあたかも絶対に変更のできない与件として固定化し、そ
れに少しでも変更を加えようとする議論に対して極端な拒否反応
を示す人たちの顔が「奴顔」になっていると嘆いています。
「奴顔」というのは、中国の作家の魯迅が使った言葉であると
いわれます。魯迅は、20世紀初頭の中国人の顔が、長い植民地
時代の間に「奴顔」になってしまったと嘆いたのです。奴顔とは
虐げられることに慣れて強いものに媚びて生きる人間の表情であ
り、寺島氏によると、そういう奴顔の人が日米関係に携わる人の
間――とくに外務省に多くなっているというのです。
寺島氏によると、ワシントンには「知日派・親日派」といわれ
る人たちがいて、彼らは「日米同盟は永遠の基軸」であると謳い
基地を受け入れる日本の「責任」に言及し、それに加えて、「国
際貢献」という名の対米協力を求めるのです。
もちろん日本側にもそれらの人に対応する「知米派・親米派」
という人たちがいて、その相互依存が長い間にわたって、日米関
係を規定してきているというのです。知日派・親日派の米国人は
拉致問題などでの日本からの来訪者があると丁重に迎え、何かと
面倒を見たりするのです。したがって、多くの日本人は彼らを日
本の味方だと信じて疑わないのです。
寺島氏にいわせると、そういう知日派・親日派とそれに対応す
る知米派・親米派の人たちを総称して「日米安保で飯を食べてい
る人たち」であるといい、日本人はそういう人たちから距離を置
くべきであると主張しているのです。
こうした知日派・親日派の人たちは、しばしば日本でのシンポ
ジウムに参加し、日米同盟の重要さを説いており、マスコミはそ
れを大々的に報道するので、私たちは、こうした「日米安保で飯
を食べている人たち」の主張を通して日米同盟というものをとら
えてきたことになります。
しかし、寺島氏が幅広い世界認識を持つ米国の知識人に日米関
係の現状を問うと、その実情をほとんど知らないというのです。
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驚くべきことにワシントンにおける最高レベルの知識人や国際
間題の専門家でさえ、日米関係に関与していない人たちの多く
は日米同盟の現実(米軍基地の現状や地位協定の内容)を知ら
ない。むしろ、こんな現実が続いていることに、「米国の国益
は別にして」と付け加えながらも、怪訝な表情と率直な疑問が
返ってくるのである。 ――寺島実郎氏の前掲論文より
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米国が世界に展開している、大規模海外基地の上位5つのうち
の4つが実は日本にあるのです。その4つとは、横須賀、嘉手納
三沢、横田です。戦後65年目を迎え、冷戦の終焉から20年が
経過しようとしてるのにこの有様です。
しかも、在日米軍の地位協定上のステータスは、ほとんど占領
軍の基地時代の「行政協定」のままであり、日本側の主権が極め
て希薄であって、本来地位協定に定めのない日本側のコストまで
生じているのです。
このような国は世界で日本だけであり、当の国民もその直接影
響のある沖縄県民以外はこの問題に意外に無関心です。どうして
こうなったかは、いわゆる「日米安保で飯を食べている人たち」
によって規定されてきた日米安保のあり方をそのまま受け入れて
しまったことにあるのです。しかも、1997年に行われた「ガ
イドラインの見直し」は、日本をさらに大きな危険に巻き込む可
能性を秘めているのです。 ―――[小沢一郎論/11]
≪画像および関連情報≫
●寺島実郎氏のプロフィール
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1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修
士課程修了。1973年三井物産入社、ニューヨーク本店業
務部情報・企画担当課長、ワシントン事務所長を経て、19
97年〜三井物産戦略研究所所長(現職)。2001年〜財
――日本総合研究所理事長(現在会長)。その他、早稲田大
学アジア太平洋研究センター客員教授、経済産業省産業構造
審議会情報経済分科会情報セキュリティ基本問題委員会委員
長、国土交通省国土審議会特別委員、文部科学省中央教育審
議会委員、総務省情報通信審議会委員も務める。
――ウィキペディア
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寺島実郎氏