2006年02月27日

量的緩和解除に反対する理由(EJ1783号)

 昨年の12月8日のことです。自・党は金融調査会の下に金融
政策小委員会を発足させています。委員長は、自・党衆議院議員
山本幸三氏です。10月頃からの日銀の量的緩和政策解除姿勢に
対抗するための措置と考えられます。
 中川政調会長は、山本幸三議員に対して次のように要請したと
いわれます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 デフレを脱却しなければ、小泉改革は成功しない。それを確か
 なものとするための党としての政策を打ち出して欲しい。
                   ――中川遜直政調会長
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 日銀の量的緩和政策解除姿勢は、昨年11月にCPI――生鮮
食品を除く消費者物価指数が前年比0臓1%とプラス浮上したの
を受けてのものです。確かに日銀としては、量的緩和実施時にお
いて解除の条件を次のように定めていたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 生鮮食品を除く消費者物価指数――CPIが前年比で基調的に
 ゼロ%以上で推移する。     ――量的緩和政策解除条件
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、日銀としてもこれをもって「デフレの脱却」とは考え
ていないことははっきりしているのです。しかし、それならなぜ
量的緩和政策解除を急ぐのでしょうか。
 日銀のこの姿勢について、竹中平蔵総務相は昨年の暮れに次の
ようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 中央銀行がまるで政策目標を決める独立性まで持っているかの
 ような論議が行われている。        ――竹中総務相
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この竹中総務相の発言に重ねて中川政調会長は、もし、日銀が
解除を強行するようなことがあれば、「日銀法改正を視野に入れ
る」という爆弾発言を行っています。
 なぜそこまでいうのかというと、日銀が2000年8月のゼロ
金利解除に失敗しているからです。そのときに日銀の速水総裁は
政府与党の反対を無視し、ゼロ金利解除の決定をしたのですが、
その結果、潰さなくてもよい企業を潰し、出さなくてもよい失業
者を出しているからです。
 その失敗は二度と許さないと竹中総務相や中川政調会長はいっ
ているのですが、もうひとつ大きな狙いがあったのです。財政再
建についての考え方です。それは、EJ第1771号でご紹介し
た「長期金利を上回る名目成長率を持続する財政再建」が量的緩
和政策に不可欠であるからです。竹中総務相は、次のようにいっ
ています。
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 長期金利を上回る4%の名目成長率が続けられれば、消費税を
 上げなくても財政はバランスする。     ――竹中総務相
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 これをめぐって、財務省寄りの与謝野経財相と鋭く対立してい
ることはすでに述べていますが、実はこの竹中・中川政策は、イ
ンフレ・ターゲッティングなのです。
 すでに説明しているように、名目成長率というのは、次の式で
説明することができます。
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     名目成長率臓実質成長率×物価上昇率
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 つまり、竹中・中川政策は、インフレを起こすことで税収を上
げようとしているのです。しかし、「インフレ」というと、アレ
ルギーが強いので、「名目成長率の上昇」という言葉を使ってい
るのですが、基本的にはインフレ政策のことです。それに山本幸
三という人物は自・党では有名なインフレ政策論者なのです。
 山本幸三委員長は、量的緩和解除については、次のようにいっ
ているのです。
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 量的緩和の効果としてよく効いているのは、中小企業の資金繰
 りだ。ここが大丈夫だと確認できるまでは量的緩和は継続すべ
 きだ。CPIでいえば、2年後に2%を挟んでプラスマイナス
 1%程度の上昇目標が達成できる状態を日銀が確約できるとい
 うなら、やってほしい。ただし、達成できない場合は、責任を
 とっていただく。それがはっきり見通せる状況にないなかで解
 除する意味がどこにあるのか。     ――山本幸三委員長
            週刊『エコノミスト』2月7日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに対して日銀は、株価が上昇し、景気が過熱気味になるま
で量的緩和を継続すると、解除後に金利が急に跳ね上がる危険が
あるとして、解除には前向きの姿勢で臨むといっています。福井
総裁も「100%日銀政策委員会の責任でやる」として、解除の
姿勢を崩していないのです。
 ところで、経済同友会は、昨年の11月に量的緩和解除を提言
しています。日本経済は正常化の状態に近づいており、解除は早
い方がよいという判断です。しかし、経済同友会経済政策委員会
委員長高橋温氏の次の発言には注目すべきです。
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 誤解されて困るのは、量的緩和解除を提言したが、ゼロ金利の
 解除を提言しているのではないという点である。
            週刊『エコノミスト』2月7日号より
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 高橋委員長は、量的緩和はしてもゼロ金利解除まですると「金
融引き締め」と受け取られる恐れがあり、慎重に行うべきで、ゼ
ロ金利は、GDPデフレーターがプラスになるまでは継続すべき
であるといっているのです。さて、量的緩和政策とは一体何なの
でしょうか。明日、詳しく解説します。・・・[日本経済25]


≪画像および関連情報≫
 ・量的緩和とは何か
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  金融緩和にさいし、量的指標を操作目標とすることである。
  2001(平成13)年3月19日に日銀が導入を決めた。
  公開市場操作(オペ)で金融市場への資金供給を増やし、日
  銀当座預金(準備預金等)残高を必要額4兆円程度に対して
  5兆円程度にすることを目標とした(リザーブ・ターゲティ
  ング reserve targeting)。
  http://learning.xrea.jp/%CE%CC%C5%AA%B4%CB%CF%C2.html
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1783号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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