2001年10月09日

●改めて”リスク”について考える(EJ717号)

●改めて”リスク”について考える(EJ第717号)

 これから休日に提供する4本の記事は、2001年10月9日
から10月12日に記述されたものです。9.11直後の記事で
あることを前提に読んでいただければと思います。
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 遂に米英軍によるアフガニスタン攻撃が開始されました。この
戦争が世界経済に及ぼす影響ははかり知れないものがあります。
戦争に関連するテーマはいずれ取り上げる予定です。
 1990年代を「失われた10年」といいますが、この10年
の間に、日本が失ったものは実に大きいのです。その中でも一番
失ったものが大きいのは、生保会社も含む金融機関の信頼性では
ないでしょうか。
 なかでも銀行の凋落ぶりはどうでしょう。日本の銀行は欧米の
有力銀行に収益力で大きく水を空けられてしまっています。どう
してこのような大差がついてしまったのでしょうか。
 日本の銀行の凋落は、バブル期に無謀な融資を行い、その結果
生じた巨大な不良債権の処理の稚拙さ――つまり、問題先送りに
大きな原因があることは確かです。
 しかし、その底に潜むもっと根本的な問題があると思います。
それは「リスク」の扱い方が非常に稚拙であることです。それは
単に銀行のみならず、日本経済の背後にある企業や日本人個人の
行動原理に根ざす問題なのです。
 もし、この問題、すなわちリスクの扱い方が稚拙であることが
改善されないならば、たとえ不良債権問題が解決したとしても、
日本経済は永久に欧米の経済を抜くことは困難であるといっても
過言ではないと思います。
 ところで、「リスク」(Risk)ということばの正しい日本語訳
がないことをご存知でしょうか。
 「Risk」ということばを英和辞典で引くと、「危険」と出てい
ます。「危険」というのは、danger、つまり「避けるべきもの」
という意味になります。
 JPモルガン証券会社の岸本達士氏は、真の意味の「リスク」
は、「不確実・不確定であるが、リターンを得るためにはあえて
とらなければならないもの」であるといっています。この概念に
訳語を当てはめることは困難で、あえて訳さずに「リスク」とカ
タカナ表記するしかないのです。
 日本語訳で「リスク」に一番近い訳語は「冒険」ということば
です。しかし、冒険ということばは、「イチかバチか」という意
味になり、一流企業や銀行などの金融機関がとるのをためらう行
動です。要するに、日本にはリスクの概念は存在しないというこ
とになります。
 これは、一般論として、日本の企業家や銀行家には、その経営
に当たって「リスクをとっていない」ということを意味します。
意識して「リスクをとらない」というよりも、とっていないこと
を意識していないのです。
 さて、「リスク」と「リターン」との関係でいえば、この世の
中にあるのは次の2つです。
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      ハイリスク/ハイリターン
      ローリスク/ローリターン
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 「ハイリスク/ハイリターン」の典型は、株式投資です。株式
投資は多くのリスクがある反面、大きなリターンもあるのです。
株式投資で大きなリターンを得るためには、大きなリスクはつき
ものです。「ローリスク/ローリターン」は、国債などのように
リスクが少ないものについてはリターンも低いのです。
 しかし、そういうきわめて常識的なことが日本では必ずしも徹
底していないのです。なぜなら、日本ではリスクに関するきちん
とした教育を行っていないからです。そのため、実際にはあり得
ない「ローリスク/ハイリターン」があると信じて、投資詐欺に
会う人が少なくないのです。
 そのようにリスクについて教育をしていない国で、401Kプ
ランを導入し、自己責任で運用せよといってもうまくいくはずが
ないでしょう。「リスクをとる」ということは、そんなに簡単な
ことではないのです。学校教育において、基礎からリスクの概念
について指導すべきです。
 銀行に当てはめて考えてみます。銀行は今まで土地を担保とし
て融資を行ってきましたが、それは万一貸し倒れになっても土地
を担保にとっているので大丈夫という意識であったからです。し
かし、現状を見ればわかるように、土地を担保にとること自体が
実は巨大なリスクをとっていたのです。しかし、それを意識して
いなかっただけです。
 その意識がないことが問題なのです。そういう意識が巨大な不
良債権を生んだのです。投資には、価格、金利、為替、インフレ
信用、流動性の6つのリスクがあるといわれますが、こういうリ
スクについて学校教育でもきちんと教えておくべきです。
 本来資本主義経済というのは、リスクというものを認識し、そ
ういうリスクをとることによって大きなリターンを得るというこ
とで成り立っているのです。それなのに、リスクについて教育し
ないのは資本主義経済というものがよくわかっていない証拠であ
るといえます。
 欧米の有力金融機関では、個々のビジネス案件を数量化して議
論することが日常行われています。そういう金融機関の経営者は
自分の会社が今日一日でどれだけの損失を蒙る可能性があるかを
数字で把握しています。これを、Earnings-at-Risk と呼んでい
ます。どのようなビジネスの案件でも、つねにリスクとリターン
を熟考して進められるのです。
 企業の経営の内容を分析する経営指標にROEとROAがあり
ますが、これらの指標はどれだけのリスク資本を使ったかが考慮
されていません。
 しかし、トヨタ自動車やソニーなどが、積極的に採用している
EVAは、同じ収益を上げる場合でも、より少ないリスク資本で
上げた収益の貢献度を高く評価する経営指標です。
 銀行だけでなく、積極的にリスクをとろうとしない消極的な経
営者が日本には多くいます。それでは、これからの時代は成功し
ないことを認識すべきです。      −−[リスク/01]
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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