2009年12月29日

●「アップルが鍵を握る日本のケータイ」(EJ第2724号)

 海外の携帯電話業界のキャリアと端末メーカーの状況は、どう
なっているのでしょうか。
 海外では日本とまったく逆になっています。すなわち、端末メ
ーカーは少なく、キャリアの数は膨大なのです。世界的に影響力
のある端末メーカーは次の5社です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.ノキア(フィンランド)
     2.サムスン電子(韓国)
     3.モトローラ(米国)
     4.ソニー・エリクソン(スウェーデン)
     5.LGエレクトロニクス(韓国)
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、キャリアはどうかというと、これは膨大な数がひし
めいています。GSM圏内であれば200以上あるし、一つの国
に複数あり、さらにヨーロッパや米国、アジア、アフリカなどを
考えれば膨大な数になるのです。したがって、海外では端末メー
カーの力は強いのです。なかでもノキアの強さは突出していると
いえます。
 このように端末メーカーの力が強い海外では、「水平分離モデ
ル」が一般的になっています。このモデルは、ユーザーの立場か
ら考えるとわかりやすいと思います。ユーザーは自分の好むメー
カーの端末を購入し、自分にとってサービスが良いと考えるキャ
リアを選んで契約する――これが水平分離モデルです。
 PCと光ファイバーの契約の関係と同じです。ユーザーは自分
の好むメーカーのPCを購入し、光ファイバーの契約は、NTT
のフレッツを選ぶか、KDDIの「ひかりONE」を選ぶか──
これはユーザーの判断です。
 水平分離モデルでは、端末は自由に選べるのでSIMカードは
ロックされていたのでは困ります。なぜなら、端末を換えるとき
は、SIMカードを外して新しい端末にセットし直すことになる
からです。現在の日本では、キャリアを変更するたびに現在使っ
ている端末が無駄になるので、水平分離モデルの方が合理的であ
るといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪水平分離モデル≫
 メーカーとキャリアは別々に契約 → SIMロックフリー
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本では垂直統合モデルに加えて販売奨励金モデルを導入して
います。端末メーカーは、キャリアがユーザーを獲得するご
とに一定の販売奨励金を支払っていたのです。販売奨励金の額は
明らかではありませんが、端末一台について1〜3万円程度は出
ていたようです。
 キャリアは、端末の価格からこの販売奨励金を割り引いて端末
を安くすることによって、多くの加入者を増やすことに成功した
のです。日本のケータイは一般的に高機能であり、ほとんどの機
種が5万円を超えていたのですが、販売奨励金によって2〜3万
円の価格で入手できたのです。しかし、その分キャリアは通信費
を少し高くし、長い期間をかけて取り戻すのです。海外ではこう
いう売り方をしている国はなかったのです。そういう意味から、
日本はケータイの販売についても「ガラパゴス」だったのです。
 しかし、2007年に総務省は販売奨励金モデルの見直し指導
を行い、ケータイの加入方式を海外での一般的な売り方に合わせ
ようとしたのです。ところが、販売奨励金モデルをやめることに
より、2008年から端末価格は高騰し、端末の買い替え需要は
大幅にダウンしてしまったのです。そこに切り込んできたのが、
アップル社のアイフォーンなのです。
 ところでアップル社は、初代アイフォーンを8GBは599ド
ルで販売し、キャリアからは通信料金収入の一部を要求していた
のです。この方式を「レベニューシェア」といいます。AT&T
イギリス・02、フランス・オレンジ、ドイツ・T・モバイルは
これに応じていたのです。
 しかし、それから一年間というものアップル社はさまざまなこ
とを学習し、アイフォーン3Gでは8GBを199ドルにして発
売したのです。これに合わせてアップル社は、キャリアに評判の
悪いレベニューシェア方式をやめています。
 その代わりに取り入れたのは、日本の販売奨励金モデルなので
す。ガラパゴスといわれる日本の制度を逆にアップル社は取り入
れたのです。日本政府はその販売奨励金モデルを逆にやめさせる
指導をしているのですから、なにおかいわんやです。
 アイフォーンは日本のキャリアにとって新規顧客獲得の切り札
になることは確かですが、自社のコンテンツやサービスの普及に
はブレーキがかかるのです。
 なぜなら、アイフォーンのユーザは音楽はアイチューンズ・ス
トア、ソフトウェアはアップ・ストアというように、アイチュー
ンズに大きく依存するようになります。そうなってくると、それ
以外に「iモード」のようなものはいらなくなってしまうことに
なります。海外でも端末メーカーが強いように、この世界では何
といっても、ハードウェアを持っている方が強いのです。
 アイフォーンを導入した場合、確かに音声通話サービスを提供
するのはキャリアですが、端末を供給するのも、アイフォーンに
アイチューンズ・ストアで音楽配信サービスを提供するのも、そ
れらへの課金も、すべてアップル社が管理しているのです。
 このように考えてくると、すべてはアップル社に握られつつあ
るのです。アイフォーンがこのまま全世界で好調に売れ続けた場
合、アップル社の影響力はますます増大します。日本ではその侵
食の一部が始まっているのです。アップル社の手のうちでどのよ
うにして生き残るかという事態にならないように日本のメーカー
やキャリアは真剣に考えるべきです。このテーマは今回で終了し
ます。  ―[クラウド・コンピューティング/52/最終回]


≪画像および関連情報≫
 ●垂直統合型か水平分離型か/平田正之氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  情報通信産業に、長期に渉り取り憑いている不可思議があり
  ます。電話サービス以外の、レイヤを異にする新しいサービ
  スを推進するにあたっての、「神学論争」とも言うべきもの
  です。それは、垂直統合型がよいのか、水平分離型がよいの
  か、を巡る議論であり、経済学的視点と産業規制論の立場と
  が、複雑に絡み合った問題となっています。さらに、議論を
  混乱させるのは、利害関係を有する事業者の思惑が働き、主
  義主張の応酬となって、実際にサービス開発を担う当事者を
  悩ませています。
  http://www.icr.co.jp/newsletter/report_tands/2009/s2009TS248_2.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ノキア本社.jpg
ノキア本社
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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