2006年02月23日

大企業の利害を反映する諮問会議(EJ1781号)

 小泉構造改革は日本経済の供給サイド、すなわち「生産」面を
強化するためのものであることは明らかです。実際問題として、
EJ第1780号で分析したように、2001年から2004年
までの4年間で、家計部門から法人企業部門へ約6兆円もの所得
移転が行われているのです。したがって、現在大きな需給ギャッ
プが生じているわけです。
 雑誌『世界』の特集では、作家高杉良氏と評論家佐高信氏の対
談が掲載されていますが、その中に次のやりとりがあります。
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 佐高:裾野がどんどん枯れてきていますね。
 高杉:裾野というのが、いちばん大事なんですよ。というのは
    日本は中小企業が圧倒的に多い。数でいったら9対1、
    サラリーマンの数でいっても7対3ぐらいの割合ですか
    ら、その日本経済を下支えする裾野のところが、痛んで
    きているわけだから、いいはずはないんです。
    ――『世界』3月号対談/「偽りの改革とメディアの責
     任を問う/小泉・竹中政治からライブドア事件まで」
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 小泉首相は今年の1月18日に、社長以下従業員6人の岡野工
業を視察して、中小企業にも力を入れているというパフォーマン
スをしていますが、小泉政権のこれまでの政策は明らかに大企業
に重点を置いており、優秀な技術を持つ多くの中小企業が倒産や
廃業に追い込まれているのです。
 それを端的に示す事実があります。それは、経済財政諮問会議
の民間メンバー構成です。この会議は今まで竹中大臣が仕切って
きたのですが、民間委員は次のようになっています。
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 ≪経済財政諮問会議民間メンバー≫
  1.日本経済団体連合会会長 ・・・・ 奥田 碩氏
  2.元経済同友会代表幹事 ・・・・・ 牛尾治朗氏
  3.大阪大学大学院経済学科教授 ・・ 本間正明氏
  4.東京大学大学院経済学科教授 ・・ 吉川 洋氏
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 問題なのは、このメンバーの中に中小企業を代表する日本商工
会議所会頭が入っていないことです。日本経済団体連合会(経団
連)というのは、主として上場企業を代表する組織であり、経済
同友会は、大企業を中心とする優良企業の代表者が個人の資格で
参加する組織に過ぎないのです。したがって、現在の経済財政諮
問会議は大企業の利害しか反映していないことになります。
 商工会議所は法律で組成された公の組織で、しかも民間企業の
99%、従業員の98%を占める中小企業中心の組織なのです。
もし、本心から中小企業を大事にしようと思うなら、商工会議所
会頭を経済財政諮問会議のメンバーにするべきでしょう。
 構造改革、財政再建、大増税――現在、これらが複雑なパズル
のように組み合わさっています。これらのすべてを小泉政権がま
さに一枚岩でやっているのかというと、必ずしもそうではないの
です。そういう意味で「同床異夢」という言葉がぴったりです。
 はっきりしているのは、財務省とそのスタッフ(元大蔵族議員
や財務省出身の評論家などを含む)は、構造改革で大幅に減少し
た税収をなんとか大増税路線で解決させようというシナリオを描
いて、その実現に向けて着々と画策しているということです。
 この点をきちんと押さえておかないと、なにがなんだかさっぱ
りわからなくなってしまいます。政府税制調査会長が大増税路線
を打ち出し、谷垣財務相が消費税引き上げ時期に言及すると、中
川政調会長と竹中総務相がこれに激しく反対する――一体どうな
っているのかと思うばかりです。
 月刊『現代』2月号で、ジャーナリストの桜井慶二氏が、興味
ある内幕レポートを書いています。そのレポートに次の一節があ
ります。
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  当時、財務省は「心地よい充足感」に包まれていた。谷垣財
 務相が留任したうえ、経済財政諮問会議をとりしきる経済財政
 担当相には与謝野が自民党政調会長から横滑りした。さらに党
 税務調査会長に柳沢伯夫が就任した。みんな「財政再建派」で
 ある。「財務省にとって、これ以上は望めないベストメンバー
 がそろった。あの竹中さんが総務相に回り、経済財政諮問会議
 の進行役を外された。これは大きい。諮問会議をこっちの手に
 取り戻せる」。ある財務官僚は笑みを浮かべて「竹中外し」を
 歓迎していた。――月刊『現代』2月号/「新聞が書かない巨
 大与党の危険な現実/加速する『小泉・竹中革命』」より。
                  ジャーナリスト桜井慶二
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 なぜ、竹中大臣が経済財政諮問会議の進行役を外されたことが
財務省にとってかくもうれしいのでしょうか。
 それは、小泉政権における経済財政諮問会議が単なる調査審議
機関ではなく、最重要の政策決定会議に変貌してしまっているか
らです。「このまま行くと予算編成権を官邸に取られる!」――
そういう危機感が財務省の幹部にあったのです。
 従来予算は財務省が毎年夏に各省庁から概算要求を受けて、そ
れを財務省主導で審議するというかたちになっていたのです。予
算を仕切るということは政策を仕切ることを意味しており、すで
に述べたように、この権限は世界に類を見ない日本の財務省の持
つ最大・最高の権限なのです。
 この権限が小泉政権になってから、国の重要政策が経済財政諮
問会議主導で決められるようになり、不安定になっています。財
務省幹部としてはそれを非常に危機的に感じていたのです。
 こういうわけで、財務省としては、竹中大臣が諮問会議の進行
役を外されたことを歓迎したわけです。しかし、竹中なる人物は
そう甘い男ではないようです。彼は学者よりも政治家にはるかに
向いている人なのです。       ・・・[日本経済23]


≪画像および関連情報≫
 ・MSNニュースより
  小泉純一郎首相は18日、世界で初めて「痛くない」極細の
  注射針を開発した東京都墨田区の金属加工会社「岡野工業」
  (岡野雅行社長)を視察した。同社の注射針を左腕に刺して
  みた首相は「本当に全然痛くない。すごい。改革も痛みがな
  くなればいいんだけど」と感激していた。注射針の直径を通
  常の0.7ミリから0.2ミリと世界で最も細くすることで
  痛みを感じなくした。また、穴を円すい形にすることで細い
  針でも薬液を強く押し出せるよう工夫している。同社の社員
  は6人。首相は「(元気なのは)大企業だけじゃないな」と
  感心しきりだった。【大場伸也】

1781号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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