2006年02月22日

4年間で何が改革されたか(EJ1780号)

 ここまでの検討で、小泉構造改革がいかに供給力超過=需要不
足の状態を作り出してきたかが明確になったと思います。やはり
小泉政権は供給サイドの改革に力を入れてきたのです。そのため
景気は2002年から回復していたにもかかわらず、それを十分
に生かすことに失敗しているといえます。
 ここで、小泉政権発足前の2000年度と小泉政権4年目にあ
たる2004年度を比較して、小泉構造改革の成果を検証してみ
ることにします。
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          2000年度 2004年度    増減
 国民所得      372兆円  361兆円 ▲11兆円
 ――――――――――――――――――――――――――――
 雇用者報酬     271兆円  255兆円 ▲16兆円
 民間法人企業所得   44兆円   50兆円   6兆円
   個人企業所得   19兆円   18兆円 ▲ 1兆円
     ――山家悠紀夫氏『世界』3月号、山家悠紀夫氏論文
  「『実感なき景気回復』を読み解く」より。(岩波書店刊)
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 まず、国民所得について見ると、小泉政権の4年間に11兆円
減少しています。問題は、そのツケをすべて家計部門――雇用者
と個人企業に押し付けたことです。
 雇用者報酬を見ると、この4年間に16兆円も減少しているの
です。しかし、雇用者報酬の減少に関しては、すでに1998年
からはじまっており、構造改革だけが原因ではないという反論が
ありますが、けっしてそうとはいえないのです。
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   景気悪化の年 ・・・ 2001年度 3兆円の減少
  景気回復1年目 ・・・ 2002年度 7兆円の減少
  景気回復2年目 ・・・ 2003年度 5兆円の減少
  景気回復3年目 ・・・ 2004年度 1兆円の減少
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 1998年度から2000年度までの3年間の雇用報酬の減少
は3兆円に過ぎないのですが、小泉政権になってからは、上に示
すようにそれが加速されています。2002年には景気は回復し
ていたにもかかわらず、構造改革はそれを生かすどころか、潰し
てしまっています。
 それでは、なぜ、雇用者報酬が減少したのでしょうか。それに
は、次の3つの理由があります。
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      1.雇用者数自体が減少したこと
      2.正社員が非正社員化したこと
      3.正社員の給与が減少したこと
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 第1の理由は「雇用者数自体が減少したこと」です。
 金融機関の不良債権処理を加速したことにより、資金の貸し剥
がしが起こり、多くの企業が破綻し、企業のリストラが加速した
のです。その結果、雇用者数はこの4年間で実に76万人も減っ
ているのです。
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         2000年度 2004年度     増減
 雇用者数    4999万人 4923万人 ▲ 76万人
 ――――――――――――――――――――――――――――
 うち正社員   3640万人 3333万人 ▲307万人
 うち非正社員  1359万人 1590万人  231万人
 正社員平均年収  461万円  439万円   22万円
                   山家悠紀夫氏論文より
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 第2の理由は「正社員が非正社員化したこと」です。
 構造改革による規制緩和政策が推し進められ、労働基準法、労
働者派遣法が改正されたことにより、企業の正社員が賃金の安い
非正社員――パート、アルバイト、派遣者などに置き換えられた
のです。そうしないと、企業も競争には勝てない時代になってし
まったのです。
 第3の理由は「正社員の給与が減少したこと」です。
 その結果として、正社員自体の給与が、4年間で22万円も下
がっているのです。正社員の給与の減少は1998年からはじま
っていますが、2000年までの3年間では6万円程度であった
のに、小泉政権になってからこれが加速され、実に22万円の減
少に達しているのです。
 このような構造改革によって、企業の立場は非常に強くなり、
働く者の立場は相対的に弱くなったのです。その結果、法人企業
――とくに大企業の所得は飛躍的に増大したのです。
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          2000年度 2004年度    増減
 法人企業経常収益   36兆円   45兆円   9兆円
 ――――――――――――――――――――――――――――
    うち大企業  25兆円    33兆円   8兆円
   うち中小企業  11兆円    12兆円   1兆円
                   山家悠紀夫氏論文より
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 上記の法人企業統計の経常利益で見ると、4年間で企業利益は
9兆円増加していますが、そのうち8兆円は大企業で占めている
のです。なお、2004年度の経常利益45兆円は、バブル最盛
期である1985年の39兆円を大幅に上回っており、史上最高
を記録しているのです。
 この数値を見れば、今回の景気回復が家計部門――雇用者と個
人企業にとって、何ら実感のないことは当然のことといえます。
企業の現在の繁栄が家計部門の犠牲によってもたらされているの
に、小泉政権はその家計部門に照準を絞って大増税の追い討ちを
かけようとしているのです。     ・・・[日本経済22]


≪画像および関連情報≫
 ・国会のやりとりから/2005年3月10日
  ●大門実紀史君 日本共産党の大門実紀史でございます。こ
   の間竹中大臣は、現状の判断として、要するに所得が下げ
   止まり横ばいになっていると、これから上向くと、だから
   定率減税の縮小、廃止をしても家計や景気は持ちこたえる
   というふうにおっしゃってまいりました。ただしかし、こ
   の所得は下げ止まってこれから上向くというような話は、
   ちょうど去年の今ごろもされていたんではないですか。
  ●国務大臣(竹中平蔵君) 景気回復の過程で企業部門にま
   ず、キャッシュフローが増えて、それが家計部門に至って
   いかなければいけない、そのプロセスが従来に比べて非常
   に遅いということは、私たちも大変注意深く見ているとこ
   ろでございます。ここは、いつどのように向かっていくか
   かということはこれからも注意深く見てまいりますが、直
   近の雇用者報酬につきましてそういう動きが出てきており
   ますので、何とかそういったことを伸ばしていきたいと思
   っております。

1780号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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