スマートフォン化すると、電話はスマートフォンのひとつのアプ
リになり、いわゆる「電話機」というイメージから離れていくこ
とになります。
キャリアの立場からすると、総収入のほとんどを音声電話が占
めていることでもあり、いわゆるケータイが電話機から離れてい
くことは望ましいことではないはずです。したがって、何とか電
話を守ろうとします。そのひとつの象徴がLiMoという団体の
設立にあらわれていると思うのです。
NTTドコモが「FOMA905i」――LiMoのRIによ
る開発――を発表したとき、当時の中村維夫社長は次のように述
べているのです。
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もう905iで3G(第3世代移動体通信)の携帯電話は完成
形に近づいた。すべての機能を標準搭載した。
――日経コミュニケーション編
『iPhone の本質とAndroid の真価』より
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この発言には、これからの携帯電話というものがOSやソフト
ウェアによって決まるという考え方が微塵も見えていないような
気がします。もはやこれまでのように、機能を屋上屋のように重
ねていくだけでは差別化はできないということに気がついていな
いように思えるのです。
そういう意味で携帯電話の将来を占う場合、グーグル社のアン
ドロイドは重要な位置を占めることは間違いないところです。そ
こでアンドロイドについて、既出のGClue社の佐々木陽副社
長の意見を参考にして述べることにします。GClue社は20
00年4月頃から携帯アプリを制作している会社です。
ところで「プラットフォーム」とは何でしょうか。このあたり
の定義から明確にしておく必要があります。
佐々木陽氏は、グーグル社がアンドロイド発表時に提示した4
つのキーワードを分析すると、アンドロイド・プラットフォーム
の定義が見えるといっています。
第1のキーワードは次の言葉です。ちなみに「Apps」とはグー
グル社が提供するオンラインアプリケーションのこと。Gメール
やGカレンダー、Gドキュメントといったお馴染みのアプリケー
ションのことです。
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第1のキーワード/ Apps are created equal.
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これは「すべてのアプリケーションは対等に扱われる」という
意味です。ブラウザも電子メールも、すべてがアプリケーション
として起動するというわけです。
今までのケータイでは、これらはメーカーがハードに組み込む
アプリ――ネイティブ・アプリ――だったのですが、グーグル社
では、基本的にすべてのアプリがダウンロードして実行できると
いう仕組みになっているのです。これが「イコール」という意味
になります。
第2のキーワードは次の言葉です。
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第2のキーワード/ Apps can easily embed the web.
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これは「簡単にウェブを取り込める」という意味です。専門的
になりますが、自分で作ったアプリの中にブラウザを簡単に組み
込めるということです。自分の携帯アプリの中にブラウザ・コン
ポーネントを気軽に、非常にシンプルに、コードでいうと3行ぐ
らいで組み込める構成になっているのです。
第3のキーワードは次の言葉です。
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第3のキーワード/ Apps can run in parallel.
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これは「アプリが並行して複数起動する」という意味です。今
までのケータイでは、あくまで動くのは1つのプロセス、1つの
アプリだけだったのです。しかし、アンドロイドでは複数のアプ
リが同時に作動するのです。PCでは当たり前のことですが、ケ
ータイにおいては革命です。
第4のキーワードは次の言葉です。
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第4のキーワード/ Apps without borders.
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これは「アプリには境界はない」という意味です。ここでいう
「境界」とは何でしょうか。佐々木陽氏は「境界」について、次
のように述べています。
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例えば、Webと携帯アプリが連動するゴルフゲームを作りま
した。「グーグル・マップ」でゴルフ場を選択、そのコース1
にキャラクタを配置してマップ上でゴルフゲームができます。
大阪大学に留学していた「Enkin」 (遠近)というドイツ人のチ
ームは、僕らとは異なる定義をしました。彼らの考えた境界は
リアルとバーチャルの境界線。この境界線をなくすというアプ
ローチです。彼らはまず、電子コンパス(地磁気センサー)、
重力センサー、GPS(全地球無線測位システム)を搭載する
デジタルカメラを作りました。端末が向いている方向や位置の
情報をセンサー群から取り出し、パソコンのアンドロイドのエ
ミュレータ上で動かすアプローチです。例えば、ある駅に到着
したときにどの方向を向いていて、目的地まであと何メートル
かという情報を出せます。 ――日経コミュニケーション編
『iPhone の本質とAndroid の真価』より
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──[クラウド・コンピューティング/46]
≪画像および関連情報≫
●GClue社はどういう会社か
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日本のケータイ電話電話向けのコンテンツやミドルウエアの
開発経験を生かし、オープン・プラットフォーム向けコンテ
ンツやミドルウエアの開発を行っております。2009年現
在、携帯電話の契約者数が40億契約を突破しました。アイ
フォーン/アンドロイドにより開かれたオープンな世界が、
あたらしいモバイルユーザエクスペリエンスを実現し、世界
中に広がりつつあります。2012年には、世界の20億人
以上がオープン・プラットフォームに移行していくものと予
想しています。その時に必要なコンテンツやミドルウエアを
世界に先駆け、会津から発信していこうと考えております。
――GClue社のサイトより
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●写真出典/日経コミュニケーション編
『iPhone の本質とAndroid の真価』より
佐々木陽氏