暮らしと経済研究室主宰/山家悠紀夫氏は、今回の景気回復に
は次の3つの特徴があるといっています。
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1.輸出主導による景気回復である
2.休み休みによる景気回復である
3.低名目成長率の景気回復である
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このうち、1と2についてはEJ第1778号で解説しており
ます。そこで、第3の特徴である「低名目成長率の景気回復であ
る」について説明します。
2002年から2005年までの名目成長率を示すと、次のよ
うになるのです。
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2002年 ・・・・・ −0.7
2003年 ・・・・・ +1.0
2004年 ・・・・・ +0.5
2005年 ・・・・・ +2.5
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要するに、実質成長率は伸びているのだが、名目成長率がきわ
めて低く、いずれも名目成長率は各年とも実質成長率を下回って
いるということです。これは何を意味するのでしょうか。
ところで、名目成長率と実質成長率はどのように違うのでしょ
うか。それとGDPデフレータ−の関係はどうなのでしょうか。
これらの関係を正しく理解しておくと、経済が良くわかるように
なります。
きわめて簡単なモデルを使って説明しましょう。
1年間で製品Aを10円で10個、製品Bを20円で5個作っ
ている経済があるとします。この年の名目GDPと実質GDPは
次のようになります。
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製品A ・・・ 10円×10個=100円
製品B ・・・ 20円× 5個=100円
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名目GDP 200円
この年を基準とすると 実質GDP 200円
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ここからが大事なのです。製品Aの価格が上昇して12円にな
り、生産も増大して11個になったとするのです。製品Bについ
ては価格、生産ともに変化はないとします。そうすると、名目G
DPは次のようになります。
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製品A ・・・ 12円×11個=132円
製品B ・・・ 20円× 5個=100円
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名目GDP 232円
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この場合、実質GDPは基準年価格で計測すると、210円に
なります。実質GDPは物価上昇分をカットするため、10円×
11=110円、これに製品Bの100円を加えて210円にな
ります。経済成長率は次の通りです。
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名目成長率 ・・・・・ 16%
実質成長率 ・・・・・ 5%
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ここで、名目GDPを実質GDPで割ってみると、次の数値が
求められます。
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232÷210=1.1047
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この1.1047という数値を「GDPデフレーター」という
のです。この数値が1以上あると物価上昇があることを意味する
のです。物価上昇率は10.47%になります。
以上の関係から、実質成長率と物価上昇率が与えられると、名
目成長率が算出できます。
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5%+10.47%=15.47%→16% → 名目成長率
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ここまでの基礎知識をアタマに置いて、現実の経済の数値に戻
って考えてみます。
近年の名目成長率――2005年7〜9月期についてその推移
を見ると、実質GDPの増加率5.7%に比べて名目GDPの増
加率は2.6%にとどまっており、かなり低いのです。これは、
それ以前の景気回復とは比べようもないほど低く、これが景気回
復に実感が伴わない原因であると考えられます。
山家悠紀夫氏は、これに関して次のように論評しています。
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名目GDP成長率が実質成長率を下回り続けたということは、
この間のGDPデフレーター(一国全体としての物価上昇率)
がマイナスであり続けたということであり、需給バランスが圧
倒的に供給力超過=需要不足の状態にあり続けたことの反映で
あると見ていい。
――山家悠紀夫氏『世界』3月号、山家悠紀夫氏論文
「『実感なき 景気回復』を読み解く」より。(岩波書店刊)
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2005年度版『経済財政白書』によると、需要不足は、20
01年の後半に大幅に拡大し、5%近くまで行っているのです。
しかも、2005年初期でもなお、1%近くあるのです。つまり
この間の景気回復はデフレ下で実現しており、通常の景気回復と
は違うのです。 ・・・[日本経済21]
≪画像および関連情報≫
・GDPデフレーターとは何か
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国内総生産には名目国内総生産(名目GDP)と実質国内総生
産(実質GDP)がある。実質GDPは、名目GDPから物価
変動の影響を除いたものである。また、名目国内総生産を実
質国内総生産で割ったものをGDPデフレーターと呼ぶ。こ
のGDPデフレーターの変動が物価変動となる。GDPデフ
レーターの変化率がプラスであればインフレーション、マイ
ナスであればデフレーションとなる。
――ウィキペディア
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