2006年02月20日

今回の景気回復の原因は何か(EJ1778号)

 景気が確実に回復しつつあるといわれています。デフレ経済脱
却の時も近いとか――大変結構なことだと思います。しかし、今
回の景気回復が小泉構造改革の成果であるということに関しては
大きな疑問があります。
 景気は回復したといっても、さっぱり実感が湧かないというの
が本当のところです。サラリーマンはもちろんのこと、商店主な
どの中小企業の社長に聞いても必ずしも景気は良いとは感じない
といっています。
しかし、あらゆるデータは景気回復を示しているのです。いや
それどころか、実は景気は2002年から回復していて、それが
今年の10月まで続くと、回復期間は57ヶ月に達し、戦後最長
の「いざなぎ景気」(1965〜1970)と並ぶといわれてい
るのです。ですから、景気回復には違いないのです。
 今回の景気回復に関して雑誌『世界』3月号(岩波書店刊)で
特集を組んでいます。「格差拡大の中で/景気の上昇をどう見る
か」というタイトルの特集です。
 その中で山家悠紀夫氏(暮らしと経済研究室主宰)が景気の原
因を分析しています。以下、この論文を中心にして、どうして景
気が回復したのか考えてみることにします。
 山家氏は、今回の景気回復の特徴として、次の3つを上げてい
るのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.輸出主導による景気回復である
      2.休み休みによる景気回復である
      3.低名目成長率の景気回復である
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の特徴は「輸出主導による景気回復である」です。
 実質成長率をみると、2001年はマイナスになっているので
すが、2002年にプラスに回復すると、2003年以降は2%
を少し超える程度のプラス成長が確かに続いています。
 内閣府の「国民経済計算」の数値によると、2002年1〜3
月期と2005年7〜9月期とを比較すると、この間に実質成長
率は8.2%も増加しているのです。
 問題は、この景気回復が何によってもたらされたかということ
です。そこで、その原因を探ってみることにします。
 小泉政権はかつてのような景気対策を行わず、むしろ逆に政府
が公共投資を抑制する政策を取ったのですが、その中で景気回復
が起こっているのです。したがって、政権内部では、構造改革の
成果であると胸をはるのです。2004年度版『経済白書』にも
そう書いてあります。
 需要を次の2つに分けて考えてみます。公共投資と輸出とを合
算した額を「外生需要」、それ以外の需要を「内生需要」とする
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       外生需要 ・・・ 公共投資+輸出
       内生需要 ・・・  その他の需要
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 比較する期間は今回――2002年1〜3月期と2005年7
〜9月期と前々回――1993年10〜12月が景気の谷/19
97年4〜6月期が山−−とします。なぜ、前回ではなくて前々
回なのかというと、前回は景気回復期間が短くて比較の対象にな
らないと判断したためです。結果は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           外生需要増加率  内生需要増加率
   今 回回復期    16.1%     8.7%
   前々回回復期    16.4%     7.7%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 一見してわかるように、外生需要――公共投資が抑えられてい
るのですから、輸出の貢献度は大きいのです。つまり、公共投資
の削減を補うだけの輸出があったということです。ちなみにGD
Pへの貢献度はともに2.7%であり、今回の景気回復は前々回
とほとんど変わっていないということができます。
 これによって今回の景気回復は、構造改革とは関わりの薄い理
由によって起こったものであることがわかります。要するに、輸
出の伸びによって救われ景気回復といえます。
 第2の特徴は「休み休みによる景気回復である」です。
 実質成長率をみると、2002年は1%を少し超える成長率で
したが、続く2003年は2%を超えたのです。しかし、200
4年には少し失速して1%台に戻り、2005年度に再び2%を
大きく超える――確かに休み休みといえます。
 つまり、景気回復に加速度がつかないのです。したがって、ど
んどんよくなっているという実感がつかめない。しかし、休み休
みですから、長続きしているといえます。
 景気の現状について、山家悠紀夫氏は次のように論評している
ので、ご紹介します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ちなみに、設備稼働率を見ると、現状はバブル景気時を10%
 下回っている。失業者数は150万人多い。経済社会の構造変
 化などを考慮に入れても現状はなお十分に余裕のある状況であ
 る。外部環境の大きな変化やよほどの失政のない限り、景気回
 復が持続する状況にあるということである。
     ――山家悠紀夫氏『世界』3月号、山家悠紀夫氏論文
 「『実感なき 景気回復』を読み解く」より。(岩波書店刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、休み休みになったかというと、ちょうどその時期に対米
や対中国への輸出が鈍化しているのです。これを見ても今回の景
気回復がいかに輸出主導であったかがわかります。
 つまり、日本の景気はそうした海外環境に少しでも変調が生じ
ればたちまちへこんでしまうほど脆弱なものなのです。ましても
や、構造改革の成果などではないのです。・・[日本経済20]


≪画像および関連情報≫
 ・名目成長率と実質成長率
  経済成長率には、名目成長率と実質成長率があります。名目
  成長率は、時価で示した名目国内総生産の増加率です。名目
  国内総生産には物価上昇(インフレ)も含まれるため、物価
  上昇が高いと、金額的には大きくなります。この名目成長率
  から物価上昇分を調整し、実質的な生産量を計算したのが、
  実質成長率です。
 ・添付ファイル解説
  図2の棒グラフは、景気の谷(2002年1月〜3月期)を
  100とする最近時(2005年7月〜9月期)の水準をあ
  らわしたものである。

1778号.jpg
posted by 平野 浩 at 09:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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