していることを受けて、2001年以来続けてきた量的緩和政策
を解除する趣旨の発言をしています。しかし、これをもって日本
はデフレを脱却したということではないのです。この問題は改め
て取り上げます。
デフレ下において、緊縮財政と増税を実施したらどうなるのか
――これについては内閣府が2005年4月にシミュレーション
モデルを発表しています。これがなかなか興味深いのです。
この「経済財政モデル」は、次の2つに分けて、緊縮財政と増
税が日本経済に与える影響について分析しているのです。
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名目GDPの1%相当の所得税増税
名目GDPの1%相当公共投資削減
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最初に「名目GDPの1%相当の所得税増税」の場合の影響を
みると、次のようになります。
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「名目GDPの1%相当の所得税増税」のケース
失業率 ・・・・・・・・・・・・・ 0.15%増加
デフレ ・・・・・・・・・・・・・ 0.44%悪化
可処分所得 ・・・・・・・・・・・ 2.47%減少
金利 ・・・・・・・・・・・・・・ 0.09%低下
名目GDP ・・・・・・・・・・・ 7.1兆円減少
税収 ・・・・・・・・・・・・・・ +3.4兆円
債務の国民負担 ・・ 63.0%→63.2%へ悪化
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名目GDPを500兆円として、その1%、つまり5兆円の所
得税を増税するとします。見てわかるように、失業率は増加し、
デフレは悪化、国民の可処分所得は2.47%減少し、名目GD
Pは7.1兆円減少するのです。
問題は税収です。5兆円の増税をしたわけですから、5兆円増
えるはずなのに、なぜ、3.4兆円なのでしょうか。これは名目
GDPが7.1兆円減少すると所得税は1.6兆円減ってしまう
からです。したがって、次式から3.4兆円の税収になります。
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5兆円 − 1.6兆円 = 3.4兆円
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それでは増税によって財政は改善されるのでしょうか。
これは「債務の国民負担」をみればわかります。国民負担率が
下がっていれば改善、上がっている場合は悪化です。国民負担率
は次のように計算します。
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名目GDP ・・・ 500兆円
政府純債務 ・・・ 315兆円
(政府債務÷名目GDP) × 100 =国民負担率
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計算すると、政府債務の国民負担率は63.2%になり、財政
は悪化するのです。
続いて「名目GDPの1%相当公共投資削減」の場合の影響を
みることにします。
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「名目GDPの1%相当公共投資削減」のケース
失業率 ・・・・・・・・・・・・・ 0.19%増加
デフレ ・・・・・・・・・・・・・ 0.54%悪化
可処分所得 ・・・・・・・・・・・ 0.99%減少
金利 ・・・・・・・・・・・・・・ 0.11%低下
名目GDP ・・・・・・・・・・・ 9兆円減少
税収 ・・・・・・・・・・・・・・ +2.7兆円
債務の国民負担 ・・ 63.0%→63.6%へ悪化
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名目GDPを500兆円として、その1%、つまり5兆円の公
共投資を削減したとします。その結果、失業率は悪化し、デフレ
は加速し、可処分所得は減少、そして名目GDPは9兆円も減額
するのです。これによる税収の減少は2.3兆円ですから、5兆
円財政支出を削減しても、収支トータルでは2.7兆円しか節約
できないのです。
そのうえ、政府債務が2.7兆円減少しても名目GDPが9兆
円も減っているので、国民負担率は63.6%に増大し、財政は
悪化するという結果になるのです。
このようにどちらを計算しても財政は悪化するということを政
府機関である内閣府が予測しているのです。小泉首相はこのシミ
ュレーション結果をご存知なのでしょうか。
小泉政権の次の政権になるのでしょうが、この所得税増税と公
共投資削減、すなわち緊縮財政の両方を実施しようとしているの
です。しかも、そのときは小泉首相は総理をやめており、責任は
とらないという姿勢です。
もっとも小泉政権は、公共投資に関しては2001年以来、毎
年対前年比で3%の削減を実施しており、これに増税をプラスす
ると、実態経済は緊縮財政と増税のダブルパンチを受けることに
なります。緊縮財政はすでに手をつけているのです。
菊池英博教授は、これをそのまま実施すると、戦前の米国の大
恐慌のときに、1929年から1932年にかけて、フーバー大
統領がとった超緊縮財政の再現になると指摘しています。日本の
場合は、この政策によって日本経済がめちゃくちゃになったとき
は当の小泉首相はとっくの昔にやめて、責任を問われない安全圏
にいるということになるのです。
おそらく財務省は、そこまで計算して大増税をたくらんでいる
と思います。それにしてもなぜ日本は歴史に学ばないのでしょう
か。橋本政権の財政改革の失敗を財務省は懲りもせず、もう一度
やろうとしているのです。 ・・・ [日本経済19]
≪画像および関連情報≫
・内閣府について
2001年1月6日、中央省庁再編に伴い、内閣主導により
行われる政府内の政策の企画立案・総合調整を補助するとい
う目的で新設された。内閣に設置されていること、いわゆる
「内閣補助事務」と呼ばれる一連の所掌事務を有しているこ
とが他省庁との最大の相違点。一方で、他省庁と横並びの分
担管理事務(同条第3項)も所掌している。旧総理府本府長
期経済計画の策定や経済に関する基本政策の総合的な調整内
外の経済動向や国民所得等に関する調査・分析を行っていた
経済企画庁、沖縄の経済振興や開発に関する事務を行った沖
縄開発庁の業務を中心としているが、旧総務庁、旧科学技術
庁、旧国土庁の業務も引き継いでいる。法律上は各省庁より
も高い位置づけを与えられており、優秀な人材を自前の職員
としてはもとより、官民双方から登用することが目指されて
いる。なお、人事面での内閣官房、首相官邸との結びつきが
強い。 ――ウィキペディア
