二者択一論議が行われ、結局、景気対策は行われず、不良債権処
理だけが強行されています。これはケインズ政策からみると、完
全に間違っていることになります。
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不良債権処理 ・・・ カネの世界の確信
景気対策強化 ・・・ モノの世界の確信
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ケインズ理論によると、これら2つは両方一緒にやらなければ
成果は出ないとされています。1991年から現在までの8つの
政権において行われた経済運営では、小渕政権を除いてはケイン
ズ政策はとられていないのです。いや、ケインズ理論を理解して
いないために、間違った政策が展開されたといえます。
宮沢、細川、羽田の3つの政権では、不良債権処理のための公
的資金投入を断念し、ソフトランディングと称して財政刺激策の
みを行っています。モノの世界の確信を高めるための景気対策の
みを実施したのですが、景気は回復しなかったのです。
次の村山政権では、住専の処理で公的資金投入を決めたものの
やり方に配慮を欠いたことにより国民世論の反発を買い、以後の
公的資金投入をやりにくくしています。この内閣もカネの世界の
確信を高めるための金融再生をおっかなびっくりにやっただけで
あって、財政政策が行われていないのです。これもケインズ政策
とはいえないのです。
しかし、これらの内閣のやったことは、次の橋本政権のやった
ことに比べれば、まだ許されるのです。いずれも中途半端な政策
であったために、景気回復という成果は出ていませんが、経済を
決定的に壊したわけではないからです。
橋本政権は景気対策はもとより、金融の安定化にも手をつけず
財務省の路線である増税プラス緊縮財政という最悪の政策を強行
したのです。そのためデフレは深刻化し、経済は破壊され、おま
けに金融危機まで起こってしまったのです。橋本首相は何も見え
ていなかったし、何もわかっていなかったのです。注意すべきこ
とは、これは橋本首相の政策というよりも財務省の筋書きに首相
が乗っただけであったということです。問題は小泉政権以後の内
閣にこれと同じ路線が引き継がれようとしていることです。
深刻な金融危機に陥った日本経済の舵取りを担ったのは小渕政
権です。小渕政権では、積極財政によってモノの世界の確信、ゼ
ロ金利政策、銀行への公的資金注入によるカネの世界の確信の両
方を同時に行い、その結果、金融危機を乗り切り、株価は大幅に
向上したのです。この小渕政権の経済運営は、まさしくケインズ
政策そのものといってよいでしょう。
ところが、森・小泉政権では、カネの世界の確信を高めるため
金融再生は進められたものの、モノの世界の確信は急速に低下し
需給ギャップは大きく拡大してしまったのです。それは小泉政権
の進める構造改革が、今日の経済を犠牲にした中・長期の供給面
の改革であったからです。
当の竹中平蔵大臣は構造改革の本質について、次のようにはっ
きりといっています。
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構造改革の本質は、供給側を強化することです。しかし、だか
らといって「需要側はどうでもいい」ということではありませ
ん。供給側をよくすることを基本として、その範囲で需要につ
いても必要な配慮を行っていくことはもちろん重要です。そこ
に経済運営の基本原則があるといってよいと思います。
――竹中大臣
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このように竹中大臣の発想はつねに「供給サイドを強化する」
ということなのですが、それは問題のある供給サイドを削減する
ことを意味しているのです。彼は「創造的破壊」と称してこれを
断行したのです。問題のある企業を削減すれば強い企業が残り、
それらの企業が供給サイドを強くすると考えていたのです。つま
り、彼は「問題は供給過剰にある」と考えていたわけです。
しかし、2001年までにすでに企業では人員整理や過剰在庫
の削減、低稼働資産の売却などを終えており、その効率化は相当
程度進んでいたのです。したがって、これ以上の供給削減など必
要なかったのです。問題は「供給過剰」ではなく、「需要不足」
だったからです。
したがって、小渕政権の政策によって少しずつ伸びつつあった
需要を拡大し、需給のバランスを取ることがその時期もっとも求
められていたのです。
しかし、小泉政権は、緊縮財政をとって需要を抑制し、供給サ
イド削減を強行したのです。どのようにやったのかというと、金
融庁に銀行検査を厳格化させ、不良債権――債務の返済状況に問
題のある企業を次々と増加させたのです。
それまで銀行は業績不振に陥っている企業が多少返済が滞って
も、業績回復軌道に乗せるためいろいろ面倒を見てきたのですが
銀行検査の厳格化によってそれができなくなったのです。そして
収益が出て税金を払っている前途のある企業まで潰していったの
です。これが小泉政権の実施した「供給サイドの強化」の内容な
のです。
最近、少し景気が上向いたせいもあって、ここまで小泉政権の
やってきた政策が正しかったと考える風潮が生まれつつあるよう
に感じます。こういう風潮を作った責任は明らかにマスコミにあ
ると思います。
テレビ局は意識して、小泉政策に反対の主張をする学者や評論
家の出演を外しているように思います。かつての植草一秀氏、金
子勝氏、佐高信氏、森田実氏などなど。いずれも反小泉政策の論
陣をはる人たちですが、最近はあまりテレビ上で見られなくなっ
たように感ずるのは私だけでしょうか。もし、反対者外しが意図
的なものだったら問題です。 ・・・[日本経済18]
≪画像および関連情報≫
・小泉政権の経済政策について
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(需要軽視経済政策は)不況と衰退のスローガンであり、行
政的活力の衰微による小心と支障と愚行にほかならない。
――ジョン・メイナード・ケインズ
滝川好夫著/税務経理協会
『ケインズなら日本経済をどう再生する』
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